第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 内部障害理学療法 口述

循環3

Sat. May 31, 2014 11:20 AM - 12:10 PM 第5会場 (3F 303)

座長:舟見敬成((一財)総合南東北病院リハビリテーション科), 内山覚(新東京病院リハビリテーション室)

内部障害 口述

[0818] 当院における腹部大動脈瘤術後患者のリハビリテーションの現状と歩行自立遅延例の検討

花田真嘉, 川田稔, 川田恵, 浜野泰三郎, 寺山雅人, 下雅意崇亨, 髙橋敬介, 梶原祐輔, 橋本つかさ (公益財団法人大原記念倉敷中央医療機構倉敷中央病院)

Keywords:腹部大動脈瘤術後, 合併症, 早期離床

【はじめに,目的】
腹部大動脈瘤術後のリハビリテーション(以下AAA術後リハ)はガイドラインによると,手術後の廃用症候群を予防し,早期の退院と社会復帰を目指すことが目的とされている。限られた手術後の在院日数の中で患者の精神・身体機能を充分に回復させるためには,手術後早期からのリハビリテーションが重要になる。しかしながら,AAA術後リハについてのエビデンスは少なく,報告も散見される程度が現状である。そこで,今回,当院におけるAAA術後リハについての現状と歩行自立遅延の要因を検討しリハビリテーションの必要性を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は2010年1月から2013年2月までに当院にて施行された腹部大動脈瘤131例とし,緊急手術,歩行自立不可,手術後死亡症例は除外した。今回の検討では,手術後5日目までに病棟内歩行自立した場合を順調群,手術後6日以上を要した場合を遅延群とし2群に分類した。調査項目は患者背景(年齢,性別,BMI,%VC,FEV1.0%),手術情報(手術時間,術中出血量,術中水分バランス),手術後経過(手術から端座位開始日,起立開始日,歩行開始日,歩行自立日,入院後6MWD,在院日数,手術後合併症発症率,歩行自立遅延理由,手術後膝伸展筋力,手術後MFRT,CRPmax)とし後方視的に行った。解析はIBM SPSS Statistics Version 19を使用し,統計危険率5%を有意水準とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言,当院臨床研究に関する倫理指針に準じて実施し承認を得ている。
【結果】
調査対象となった131例は順調群98例,遅延群33例であった。患者背景では,年齢に有意差を認め,手術情報では,手術時間・術中出血量に有意差を認めた。手術後経過では,起立開始日・歩行開始日・入院後6MWD・在院日数・手術後MFRT・CRPmaxに有意差を認めた。その他の項目では有意差を認めなかった。手術後合併症発症率は遅延群で不整脈15%,呼吸器合併症12%,イレウス12%であった。歩行自立遅延理由は,多いものから全身疲労感・酸素化不良・血圧高値,疼痛であった。なお遅延理由の全身疲労感は,手術後の倦怠感・筋疲労によるものと定義した。
【考察】
当院のリハビリテーションプログラムは,歩行自立を手術後5日目のアウトカムとしており,順調群では3.8±0.9日と早期に歩行自立が獲得できていた。本邦でも4~5日で病棟内歩行の自立を目指すプログラムが広く採用されるようになってきているとの報告があり,今回の結果は妥当であると考える。順調群に関しては,早期に歩行自立が獲得できるため,エルゴメーターを使用した有酸素運動,筋力増強トレーニングへ移行し,運動耐容能を向上させる必要がある。遅延群に関しては,今回,全体の約25%に認め,主な要因は全身疲労感,息切れ・酸素化不良,血圧高値,疼痛であった。全身疲労感に関しては高齢者症例の場合,若年者に比して手術後に全身状態の低下をきたすことが多く,活動性においては受動的になる症例も多くみられるとの報告がある。結果より端座位開始日には有意差を認めず,立位開始日以降に有意差を認めた。これは,早期の立位・歩行練習の開始ができるかどうかが重要であることを示唆している。息切れ・酸素化不良に関しては,中野らの報告では腹筋群の手術侵襲は深呼吸・咳嗽の際に痛みを引き起こし,肺活量や最大呼気流速を低下させ,呼吸器合併症の誘引となることが指摘されている。当院でも,遅延群で同様の理由により約13%に疼痛,呼吸器合併症を発症していた。手術後の疼痛管理には,リハビリテーションを行う前に看護師にて鎮痛剤を投与し疼痛コントロールを図っている。コントロール不良症例もいることから今後の対策が必要である。血圧高値に関しては,吻合部や大動脈への影響を考えリスク管理を徹底し,当院の実施基準に準じて収縮期血圧が160mmHgを超える場合は適宜中止にしており安全に理学療法が提供できている。
【理学療法学研究としての意義】
歩行自立遅延例は,高齢で手術侵襲の影響・疼痛等により呼吸器合併症を呈し,またイレウスによる全身疲労感や血圧高値であった。今回の結果より,AAA術後リハはリスク管理のもと安全に実施できており,歩行自立遅延例に対しては個別に対応することが必要である。