第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 生活環境支援理学療法 口述

健康増進・予防9

Sat. May 31, 2014 11:20 AM - 12:10 PM 第6会場 (3F 304)

座長:武田知樹(学校法人平松学園大分リハビリテーション専門学校理学療法士科)

生活環境支援 口述

[0824] 日本人高齢者と欧米人高齢者の歩行速度は異なるのか?

安藤雅峻1, 上出直人2 (1.汐田総合病院リハビリテーション科, 2.北里大学医療衛生学部)

Keywords:歩行速度, 人種差, メタ回帰分析

【はじめに,目的】
歩行速度は,高齢者の健康状態の評価指標として有用である。事実,システマティック・レビューにおいて,高齢者の日常生活活動障害の発生を予測する指標として有用であることが示されている(Vermeulen,et al.2011)。さらに,転倒予測に関するカットオフ値(Montero-Odasso,et al.2005)や生命予後に関するカットオフ値(Stanaway,et al.2011)など,歩行速度を評価するうえで,有用となる指標が数多く示されている。しかしながら,これらの研究は欧米人のサンプルを主体に検証した結果であり,同じ指標の日本人への適用可能性は,十分な検証がなされているとは言い難い。実際に,歩行速度には人種差が存在することを指摘する先行研究(Aoyagi,et al.2001)もある。歩行速度に人種差が存在するのであれば,欧米人のサンプルから得られた結果を日本人に適用することは,慎重を期すべきである。これまでに,我々は日本人高齢者の歩行速度の基準値をメタ分析により明らかにした(安藤,他。2013)。しかし,歩行速度における人種差を明確に示すことはできなかった。歩行速度の人種差を明確に示すことは,欧米人を対象とした研究結果を,日本人に適用する際の有益な情報となりうる。本研究では,日本人と欧米人における高齢者の歩行速度の差を,メタ回帰分析により明らかにすることを目的とした。
【方法】
本研究では,歩行速度の基準値を報告したメタ分析(Bohannon,et al.2011;安藤,他。2013)を基に,快適速度条件における5m歩行時間の人種差を検証した。日本人高齢者の5m歩行時間のデータに関しては,我々のメタ分析(安藤,他。2013)のデータから,快適速度条件に関するデータのみを抽出し,解析に用いた。欧米人高齢者の5m歩行時間のデータに関しては,Bohannonら(2011)の快適速度条件における歩行速度のメタ分析のデータから,欧米人高齢者を対象としたデータのみを抽出して解析に用いた。抽出したデータから,論文情報(著者,出版年),対象者の属性(人種,年齢,性別),対象者数,5m歩行時間に関する平均値と標準偏差(SD)を抽出し,データベースに入力した。データベースの平均値とSDから,日本人と欧米人,それぞれの5m歩行時間および95%信頼区間(95%CI)を変量効果モデルにより計算した。また,5m歩行時間における年齢,性別,人種による影響をメタ回帰分析で計算した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,論文データを基にした研究であり,ヒトおよび動物を対象とした研究ではないため,本項目は該当しない。
【結果】
日本人に関しては,20論文(35データ)を解析対象とした。対象者数は,合計6,894名(男性1,644名,女性4,481名,未記載769名;年齢60~99歳)であった。欧米人に関しては,28論文(103データ)を解析対象とした。対象者数は,合計19,059名(男性5,086名,女性13,973名;60~99歳)であった。変量効果モデルによる計算の結果,日本人高齢者の5m歩行時間は4.2(95%CI:3.9―4.8)秒,欧米人高齢者は4.6(95%CI:4.4―4.7)秒と算出された。また,メタ回帰分析の結果,5m歩行時間には,人種(P<0.05),年齢(P<0.01),性別(P<0.05)のすべてが有意な関連を示した。最終的に,年齢と性別の影響を調整し,日本人高齢者の5m歩行時間は,欧米人高齢者と比較して0.5(95%CI:0.2―0.8)秒速いことが示された。
【考察】
本研究では,5m歩行時間に対する人種差の影響をメタ回帰分析により検証した。その結果,日本人と欧米人との間には,快適速度条件で0.5秒(速度換算で8.2m/min)の差が存在することが明らかとなった。運動能力の人種差は,timed up and go testにおいても同様に指摘されている(Kamide,et al.2011)。本研究結果のみでは,人種差を生じさせる要因を明らかにはできないが,考えられる要因として生活様式の違いなどが考えられる(Suzuki,et al.1997)。いずれにしても,歩行速度における人種差の存在は明らかであり,歩行速度に関する欧米人のデータを日本人に適用する際は,考慮して解釈すべきである。
【理学療法学研究としての意義】
歩行速度は,高齢者の歩行能力の評価として理学療法分野で広く用いられている。本研究の結果は,欧米人対象の研究結果を,日本人に適用して解釈を行う際に,極めて有益な情報となる。