第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 物理療法 口述

神経・筋機能制御

Sat. May 31, 2014 11:20 AM - 12:10 PM 第8会場 (4F 411+412)

座長:吉田英樹(弘前大学大学院保健学研究科)

物理療法 口述

[0825] キセノン光の星状神経節近傍照射を用いた上肢骨格筋血流量増加に関する基礎的検討

前田貴哉1,2, 吉田英樹2, 齋藤茂樹3, 佐藤菜奈子4, 佐藤結衣5, 岡本成諭子6 (1.医療法人整友会弘前記念病院, 2.弘前大学大学院保健学研究科, 3.社会福祉法人函館厚生院函館中央病院, 4.一般財団法人黎明郷弘前脳卒中・リハビリテーションセンター, 5.青森保健生活協同組合あおもり協立病院, 6.一般財団法人巨樹の会赤羽リハビリテーション病院)

Keywords:キセノン光, 星状神経節, 筋血流量

【はじめに,目的】
キセノン光の星状神経節近傍照射は,主に星状神経節を発した交感神経節後線維が分布する上半身領域の交感神経活動を非侵襲的に抑制し得る手法であり,その結果として上肢皮膚血流量を改善する可能性は指摘されてきた。しかし,キセノン光の星状神経節近傍照射が上肢骨格筋血流量に与える影響については未だ解明されていない。以上から本研究の目的は,Xe光のSG近傍照射が上肢骨格筋血流動態に与える影響について検討することとした。
【方法】
若年健常者16例(男性9例,女性7例,年齢20.9±0.9歳)を対象とし,以下の2つの実験を実施順序をランダムとして1日以上の間隔を空け実施した。〈実験1〉対象者は15分間の安静背臥位保持(馴化)終了後,同一肢位にて両側の星状神経節近傍へのキセノン光照射(Xe-LISG)を10分間受けた。〈実験2〉対象者は馴化終了後,Xe-LISGを伴わない安静背臥位保持(コントロール)を10分間継続すた。測定および分析項目について,自律神経活動の指標には心拍変動データと手指皮膚温を採用した。心拍変動データは,各実験の馴化開始からXe-LISGおよびコントロール終了までの間,心拍計(RS800CX,Polar)を用いて連続測定した。その後,各実験のXe-LISG及びコントロール実施前後での心拍変動データを周波数解析し,交感神経活動の指標である低周波成分と高周波成分の比(LF/HF)を求めた。その上で,Xe-LISG及びコントロール実施前後でのLF/HFをWilcoxonの符号付順位和検定にて検討した。手指皮膚温は,測定部位を左右の第3指手掌側の遠位指節間関節中央部とし,Xe-LISGおよびコントロール実施中に放射温度計(Fluke-572,Fluke)を用いて2分毎に測定した。その上で,各実験とも初回測定値を基準値とし,その後2分毎に測定された手指皮膚温の基準値からの経時的変化をDunnett法にて検討した。上肢骨格筋血流量の指標には酸化ヘモグロビン量(HbO2)を採用し,各実験の馴化開始からXe-LISGおよびコントロール終了まで間,近赤外線分光分析装置(OEG-16,Spectratech)を用いて左右の上腕二頭筋の筋腹中央部で連続測定した。その上で,各実験とも馴化終了前2分間のHbO2の平均値を基準値とし,Xe-LISG及びコントロール実施中のHbO2の2分毎(0~2分,2~4分,4~6分,6~8分,8~10分)の平均値の基準値からの経時的変化をDunnett法にて検討した。全ての統計学的検定の有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者に対して本研究の目的や本研究への参加同意及び同意撤回の自由,プライバシー保護の徹底等について予め十分に説明し,書面にて同意を得た。
【結果】
自律神経活動の指標の内,先ずLF/HF(中央値)については,Xe-LISGおよびコントロールの実施前(それぞれ76.4%,79.6%)と実施後(それぞれ88.9%,103.8%)との間で明らかな変化を認めなかった。次に,手指皮膚温(平均値)については,コントロール実施中では4分後以降の全ての測定点で0.2℃から0.3℃の低下を認め,いずれも有意な低下であったが,Xe-LISG実施中では経過中を通じて明らかな変化を認めなかった。HbO2(平均値)については,コントロール実施中では経過中を通じて明らかな変化を認めなかったが,Xe-LISG実施中では4~6分後以降の全ての測定点で0.1mmol/mmの増加を認め,いずれも有意な増加であった。
【考察】
本研究では,Xe-LISGの実施に伴うLF/HFの明らかな変化は認めなかったものの,Xe-LISG実施中では手指皮膚温が概ね一定に保たれていた。これは,先行研究と同様に,Xe-LISGによる上半身領域の交感神経活動の抑制に起因した上肢皮膚血流量の増加を示唆する所見と考える。一方,HbO2の増加は血流量の増加を反映するため,本研究結果はXe-LISGが上肢骨格筋血流量を増加させる可能性を示唆している。一般に,骨格筋に分布する細動脈に対する交感神経活動亢進時の作用の内,アドレナリン受容体の一つであるα受容体を介する作用は,交感神経活動の亢進に伴う細動脈の収縮に起因した筋血流量の減少を引き起す。前述の通り,Xe-LISGは,上半身領域の交感神経活動の抑制作用が期待されるため,上肢骨格筋に分布する細動脈の収縮も抑制された可能性があり,その結果として上肢骨格筋血流量が増加したと推察する。
【理学療法学研究としての意義】
本研究結果は,Xe-LISGが上肢骨格筋血流量を増加させ得る可能性を示している。本所見は,上肢骨格筋の循環改善を図る上でのXe-LISG適用の可能性を示唆するものであり,臨床への波及効果などの観点から意義深いと考える。