[0826] 中周波電気刺激を用いた遠心性収縮による下腿深層筋の廃用性萎縮に対する予防効果
Keywords:遠心性収縮, 中周波電気刺激, 廃用性筋萎縮
【はじめに,目的】
身体深層に位置する骨格筋は抗重力筋としての役割を果たすとされ,その萎縮は,関節の安定性や姿勢調節機能を低下させ,高齢者の歩行能力低下や易転倒性を惹起する。また,深層筋は不活動時には抗重力筋の特徴から筋萎縮が助長されやすい。このため廃用性筋萎縮の予防は深層筋に着目して介入する必要がある。一方,我々は,深層筋の萎縮の予防手段として,中周波電気刺激(ES)が有効であると報告した(Tanaka, 2013)。しかし,中周波電気刺激を用いた場合でも,完全な予防の実現には至っていない。一方,遠心性収縮は他の収縮様式より骨格筋へ高いストレスを負荷できるため,中周波電気刺激と組み合わせることで筋萎縮予防効果が高まると予想される。そこで,本研究では中周波電気刺激を用いた遠心性収縮による下腿深層筋の廃用性萎縮に対する予防効果を組織化学により観察すると共に筋タンパク質の合成・分解に関わる因子を分析し,作用機序についても検証した。
【方法】
本実験には,20週齢の雄性SDラットを用い,対照群(Cont群),後肢非荷重群(HU群),後肢非荷重期間中にESと求心性収縮を併用した群(HU+cES群),ESと等尺性収縮を併用した群(HU+iES群),ESと遠心性収縮を併用した群(HU+eES群)に区分した。ESは後肢非荷重開始日の翌日から行い,下腿後面に対して経皮的に実施した。刺激強度は超最大収縮とし,中周波電流を正弦波様に変調した100 Hzの刺激周波数にて1秒間の刺激を2秒間隔で20回行い,6セットを1日2回実施した。実験期間終了後,ヒラメ筋を摘出し,作製した切片にATPase染色(pH4.2)を施し,染色所見より筋線維横断面積を計測した。また,ヒラメ筋のAkt1とFoxO3aの総タンパク質及びリン酸化タンパク質の発現量,ユビキチン化タンパク質発現量をWestern Blot法により測定した。また,HE染色を施し,組織化学的所見より筋損傷率についても検証した。測定データの統計解析には一元配置分散分析とTukey-Kramerの多重比較検定を用い,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
全ての実験は所属機関における動物実験に関する指針に従い,動物実験委員会の承認を得たうえで実施した。
【結果】
筋線維横断面積はHU群でCont群に比べて有意に低値を示した。HU+eES群はHU群に比べて有意に高値を示した。さらにHU+cES群,HU+iES群に対しても有意に高値を示した。Akt1,FoxO3a総タンパク質発現量に対するリン酸化タンパク質発現量の割合は,HU群でCont群に比べて有意に低値を示した。HU+eES群はHU群に比べて有意に高値を示した。さらにHU+cES群,HU+iES群に対しても有意に高値を示した。一方,ユビキチン化タンパク質発現量はHU群でCont群に比べて有意に増加した。HU+eES群はHU群に比べて有意に減少した。さらにHU+cES群,HU+iES群に比べて有意に減少した。また,HU+eES群の筋損傷率は1%未満であり,機能的に問題となる筋損傷は観察されなかった。
【考察】
本研究の結果から中周波電気刺激を用いた遠心性収縮は,他の収縮様式より深層筋の高い萎縮予防効果が得られた。筋萎縮は筋タンパク質合成の抑制と分解の亢進により惹起される。本研究では,HU+eES群で他の収縮様式を組み合わせた群に比較し,Aktの活性が上昇し,ユビキチン化タンパク質の発現量が減少した。Aktは,筋タンパク質合成で重要な役割を果たし,筋へのストレス負荷の増加に伴って活性化する。さらにAktの活性上昇はFoxOを介して,ユビキチン-プロテアソーム系の活性を抑制することで筋萎縮を抑制すると報告されている(Sandri, 2004)。本研究においても,HU+eES群でFoxOの脱リン酸化を抑制していた。一方,後肢非荷重により惹起される筋タンパク質分解の亢進では,ユビキチン-プロテアソーム系が主要な役割を果たすと言われている(Jackman, 2004)。本研究でも,HU+eES群でユビキチン化タンパク質発現が抑制されていた。これらの結果から中周波電気刺激が深層筋の収縮を誘発し,さらに遠心性収縮により深層筋へ高いストレスが負荷され,Aktが活性化,FoxOを介してタンパク質のユビキチン化による分解系を抑制したと考えられる。この分解系の抑制効果が深層筋の高い萎縮予防効果につながったと考える。
【理学療法学研究としての意義】
深層筋に対する萎縮予防手段の確立は,転倒予防や早期離床の観点から非常に重要である。中周波電気刺激を用いた遠心性収縮は,中周波電気刺激による深層筋の萎縮予防効果を高める新たな予防手段になり得ることが示唆されたため,理学療法分野において意義があると考える。
身体深層に位置する骨格筋は抗重力筋としての役割を果たすとされ,その萎縮は,関節の安定性や姿勢調節機能を低下させ,高齢者の歩行能力低下や易転倒性を惹起する。また,深層筋は不活動時には抗重力筋の特徴から筋萎縮が助長されやすい。このため廃用性筋萎縮の予防は深層筋に着目して介入する必要がある。一方,我々は,深層筋の萎縮の予防手段として,中周波電気刺激(ES)が有効であると報告した(Tanaka, 2013)。しかし,中周波電気刺激を用いた場合でも,完全な予防の実現には至っていない。一方,遠心性収縮は他の収縮様式より骨格筋へ高いストレスを負荷できるため,中周波電気刺激と組み合わせることで筋萎縮予防効果が高まると予想される。そこで,本研究では中周波電気刺激を用いた遠心性収縮による下腿深層筋の廃用性萎縮に対する予防効果を組織化学により観察すると共に筋タンパク質の合成・分解に関わる因子を分析し,作用機序についても検証した。
【方法】
本実験には,20週齢の雄性SDラットを用い,対照群(Cont群),後肢非荷重群(HU群),後肢非荷重期間中にESと求心性収縮を併用した群(HU+cES群),ESと等尺性収縮を併用した群(HU+iES群),ESと遠心性収縮を併用した群(HU+eES群)に区分した。ESは後肢非荷重開始日の翌日から行い,下腿後面に対して経皮的に実施した。刺激強度は超最大収縮とし,中周波電流を正弦波様に変調した100 Hzの刺激周波数にて1秒間の刺激を2秒間隔で20回行い,6セットを1日2回実施した。実験期間終了後,ヒラメ筋を摘出し,作製した切片にATPase染色(pH4.2)を施し,染色所見より筋線維横断面積を計測した。また,ヒラメ筋のAkt1とFoxO3aの総タンパク質及びリン酸化タンパク質の発現量,ユビキチン化タンパク質発現量をWestern Blot法により測定した。また,HE染色を施し,組織化学的所見より筋損傷率についても検証した。測定データの統計解析には一元配置分散分析とTukey-Kramerの多重比較検定を用い,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
全ての実験は所属機関における動物実験に関する指針に従い,動物実験委員会の承認を得たうえで実施した。
【結果】
筋線維横断面積はHU群でCont群に比べて有意に低値を示した。HU+eES群はHU群に比べて有意に高値を示した。さらにHU+cES群,HU+iES群に対しても有意に高値を示した。Akt1,FoxO3a総タンパク質発現量に対するリン酸化タンパク質発現量の割合は,HU群でCont群に比べて有意に低値を示した。HU+eES群はHU群に比べて有意に高値を示した。さらにHU+cES群,HU+iES群に対しても有意に高値を示した。一方,ユビキチン化タンパク質発現量はHU群でCont群に比べて有意に増加した。HU+eES群はHU群に比べて有意に減少した。さらにHU+cES群,HU+iES群に比べて有意に減少した。また,HU+eES群の筋損傷率は1%未満であり,機能的に問題となる筋損傷は観察されなかった。
【考察】
本研究の結果から中周波電気刺激を用いた遠心性収縮は,他の収縮様式より深層筋の高い萎縮予防効果が得られた。筋萎縮は筋タンパク質合成の抑制と分解の亢進により惹起される。本研究では,HU+eES群で他の収縮様式を組み合わせた群に比較し,Aktの活性が上昇し,ユビキチン化タンパク質の発現量が減少した。Aktは,筋タンパク質合成で重要な役割を果たし,筋へのストレス負荷の増加に伴って活性化する。さらにAktの活性上昇はFoxOを介して,ユビキチン-プロテアソーム系の活性を抑制することで筋萎縮を抑制すると報告されている(Sandri, 2004)。本研究においても,HU+eES群でFoxOの脱リン酸化を抑制していた。一方,後肢非荷重により惹起される筋タンパク質分解の亢進では,ユビキチン-プロテアソーム系が主要な役割を果たすと言われている(Jackman, 2004)。本研究でも,HU+eES群でユビキチン化タンパク質発現が抑制されていた。これらの結果から中周波電気刺激が深層筋の収縮を誘発し,さらに遠心性収縮により深層筋へ高いストレスが負荷され,Aktが活性化,FoxOを介してタンパク質のユビキチン化による分解系を抑制したと考えられる。この分解系の抑制効果が深層筋の高い萎縮予防効果につながったと考える。
【理学療法学研究としての意義】
深層筋に対する萎縮予防手段の確立は,転倒予防や早期離床の観点から非常に重要である。中周波電気刺激を用いた遠心性収縮は,中周波電気刺激による深層筋の萎縮予防効果を高める新たな予防手段になり得ることが示唆されたため,理学療法分野において意義があると考える。