[0829] 皮膚温が毛細血管血流に与える影響
キーワード:皮膚温, 毛細血管, 血流
【はじめに,目的】臨床において,局所的な皮膚の加温や冷却は一般的に行われている。加温の方法としては,ホットパック,パラフィン浴などがあり,疼痛の軽減や循環の改善などの目的で用いられている。また冷却方法の代表的なものには,アイスパックや冷水浴などが挙げられ,こちらも疼痛軽減や急性期の炎症緩和などを目的に用いられている。血流による皮膚温コントロールの関係を調べた文献は多くみられるが,皮膚温を変化させたときの毛細血管血流への影響を顕微鏡レベルで調べた研究はない。そこで本研究では,温冷刺激により皮膚温をコントロールしたときの皮膚温と毛細血管血流との関係を検討した。
【方法】4週齢のWistar系雄性ラットを使用した。皮膚温が20,30,40℃の群に,それぞれ4匹ずつ振り分けた。ラットを麻酔後,腹部の毛を刈って,採取部のマーキングを行った。皮膚温測定には,針形の温度センサーを正中線に沿って皮下組織に挿入した。25℃に設定した室内で,標的温度に皮膚温が安定するよう体表に灌流装置を置いて,その中に適度な温度の水を一定の流量で流し続けた。温冷刺激中に毛細血管の血流を調べるために,血管内皮と結合するトマトレクチンを心臓に注射し,3分間循環させた。トマトレクチンの注入には,人工呼吸をしながら左胸郭を開胸し,心臓を露出して直視下でトマトレクチンを心臓に注射した。全身にトマトレクチンを循環させ,トマトレクチン注射後の3分間は,皮膚温を標的温度の±1℃の範囲に保った。3分後血流を遮断し,心臓からの血流がない状態でマーキング部位の腹壁を採取した。採取した腹壁の2枚連続の凍結切片を作製し,1枚は血管内皮細胞のタンパク質であるPECAM-1を認識する抗PECAM-1抗体を用いた免疫染色を行い,全血管を染めた。隣の切片は,血液が循環することによって血管内皮細胞と結合したトマトレクチンを免疫染色した。トマトレクチンが結合した血管数を全血管数で割り算することによりトマトレクチン陽性血管の割合(以下,毛細血管開通率)を算出した。解析は,2枚連続の凍結切片をコンピュータ画面上で拡大し,皮膚,筋層,皮下組織と分けて目視で免疫染色された血管を計数したが,トマトレクチンの染色が薄い毛細血管も見られた。統計処理は,ExcelアドインソフトStatcel3を用いた。等分散で正規分布に従う場合は一元配置分散分析を行い,有意差が認められた場合にはTukey法による多重比較検定を行った。離散データの場合はKruskal-Wallis検定を行い,有意差が認められた場合にはSheffe法による多重比較検定を行った。いずれの検定も有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき,広島大学動物実験委員会の承認を得て行った。
【結果】本研究では,皮膚温が20,30,40℃と高くなるにつれて,毛細血管開通率は高くなった。皮膚と筋層においては,20,30,40℃どの群間でも有意な増加が認められ,皮下組織においては,20℃と40℃の間に有意な増加が認められた。皮膚,皮下組織,筋層の全血管数をまとめた総血管開通率においても,20℃では14.4±8.3%(n=4),30℃では39.7±4.8%(n=4),40℃では74.4±10.4%(n=4)であり,どの群間でも有意な増加が認められた。
【考察】本研究では,皮膚温の変化につれて毛細血管開通率が変動した可能性が考えられる。しかし,トマトレクチンの染色が薄い毛細血管も見られたことより,トマトレクチンを免疫染色した際に血流量が多い毛細血管は濃く染色され,血流量が少ないと染色されにくいために毛細血管開通率が低下したように見えた可能性も考えられる。Barcroftらは,ヒトの前腕を様々な温度の水に浸け,25℃から42.5℃までは温度が上がるにつれて血流が増加することを明らかにした。これらのことから温冷刺激による血流の増減は,毛細血管1本1本の血流量を調節することで変化している可能性が高い。
【理学療法学研究としての意義】毛細血管を中心とした微小循環が末梢の炎症反応過程においても重要な役割を果たしている。本研究では,加温や冷却による血流の増減は,毛細血管1本1本の血流量を調節することで変化していることを強く示唆し,物理療法を用いた治療法の一助となると考える。
【方法】4週齢のWistar系雄性ラットを使用した。皮膚温が20,30,40℃の群に,それぞれ4匹ずつ振り分けた。ラットを麻酔後,腹部の毛を刈って,採取部のマーキングを行った。皮膚温測定には,針形の温度センサーを正中線に沿って皮下組織に挿入した。25℃に設定した室内で,標的温度に皮膚温が安定するよう体表に灌流装置を置いて,その中に適度な温度の水を一定の流量で流し続けた。温冷刺激中に毛細血管の血流を調べるために,血管内皮と結合するトマトレクチンを心臓に注射し,3分間循環させた。トマトレクチンの注入には,人工呼吸をしながら左胸郭を開胸し,心臓を露出して直視下でトマトレクチンを心臓に注射した。全身にトマトレクチンを循環させ,トマトレクチン注射後の3分間は,皮膚温を標的温度の±1℃の範囲に保った。3分後血流を遮断し,心臓からの血流がない状態でマーキング部位の腹壁を採取した。採取した腹壁の2枚連続の凍結切片を作製し,1枚は血管内皮細胞のタンパク質であるPECAM-1を認識する抗PECAM-1抗体を用いた免疫染色を行い,全血管を染めた。隣の切片は,血液が循環することによって血管内皮細胞と結合したトマトレクチンを免疫染色した。トマトレクチンが結合した血管数を全血管数で割り算することによりトマトレクチン陽性血管の割合(以下,毛細血管開通率)を算出した。解析は,2枚連続の凍結切片をコンピュータ画面上で拡大し,皮膚,筋層,皮下組織と分けて目視で免疫染色された血管を計数したが,トマトレクチンの染色が薄い毛細血管も見られた。統計処理は,ExcelアドインソフトStatcel3を用いた。等分散で正規分布に従う場合は一元配置分散分析を行い,有意差が認められた場合にはTukey法による多重比較検定を行った。離散データの場合はKruskal-Wallis検定を行い,有意差が認められた場合にはSheffe法による多重比較検定を行った。いずれの検定も有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき,広島大学動物実験委員会の承認を得て行った。
【結果】本研究では,皮膚温が20,30,40℃と高くなるにつれて,毛細血管開通率は高くなった。皮膚と筋層においては,20,30,40℃どの群間でも有意な増加が認められ,皮下組織においては,20℃と40℃の間に有意な増加が認められた。皮膚,皮下組織,筋層の全血管数をまとめた総血管開通率においても,20℃では14.4±8.3%(n=4),30℃では39.7±4.8%(n=4),40℃では74.4±10.4%(n=4)であり,どの群間でも有意な増加が認められた。
【考察】本研究では,皮膚温の変化につれて毛細血管開通率が変動した可能性が考えられる。しかし,トマトレクチンの染色が薄い毛細血管も見られたことより,トマトレクチンを免疫染色した際に血流量が多い毛細血管は濃く染色され,血流量が少ないと染色されにくいために毛細血管開通率が低下したように見えた可能性も考えられる。Barcroftらは,ヒトの前腕を様々な温度の水に浸け,25℃から42.5℃までは温度が上がるにつれて血流が増加することを明らかにした。これらのことから温冷刺激による血流の増減は,毛細血管1本1本の血流量を調節することで変化している可能性が高い。
【理学療法学研究としての意義】毛細血管を中心とした微小循環が末梢の炎症反応過程においても重要な役割を果たしている。本研究では,加温や冷却による血流の増減は,毛細血管1本1本の血流量を調節することで変化していることを強く示唆し,物理療法を用いた治療法の一助となると考える。