[0830] 脳卒中発症3ケ月後における歩行可否に発症前のサルコペニアが影響する
キーワード:脳卒中, 予後予測, サルコペニア
【はじめに,目的】
脳卒中発症後における機能・能力障害に対しては発症直後より可及的早期かつ集中的なリハビリテーションが推奨されている。脳卒中急性期では機能障害,併存疾患,社会的背景などをもとに機能予後を予測しリハビリテーションを遂行する。特に日常生活自立のために重要な機能の一つである歩行障害の予後予測は治療内容や転帰先を検討するうえで重要となる。
近年,加齢に伴う骨格筋の減少を主体とするサルコペニアが注目されている。サルコペニアは筋力・身体機能低下,能力障害,QOLを低下させる。また,急性期病院入院時におけるサルコペニアは6ヵ月後再入院率,死亡率の独立した関連因子であることが報告されている。しかし,脳卒中後における歩行障害とサルコペニアの関連性については検討されていない。今回,本研究では予測式を用いて脳卒中発症時における四肢骨格筋肉量(skeletal muscle mass index:SMI)を推定し,発症前サルコペニアが脳卒中発症3か月後における歩行障害に与える影響について検討した。
【方法】
2010年4月から2013年7月までに発症1週以内に脳卒中にて入院し,リハビリテーションを施行した518例のうち男性,入院前modified Rankin Scale(mRS)0-3,発症3ヶ月目までフォローが可能であった239例を対象とした。女性におけるSMIの予測式は握力を必要とし,発症前の握力を同定できないため本研究では男性のみ対象とした。調査項目は年齢,性別,既往歴(高血圧,高脂血症,糖尿病,心房細動,腎不全,閉塞性動脈硬化症,虚血性心疾患),SMI,Stroke Impairment Assessment Set(SIAS),Trunk Control Test(TCT),Functional Independence Measure(FIM)認知項目とした。SMIは推定式より算出した[SMI(kg/m2)=0.326×BMI-0.047×腹囲-0.011×年齢+5.135(R2=0.68)]。本研究におけるサルコペニアの基準はSMI6.87kg/m2以下とした。3ヶ月目における能力障害はmRSにて評価し,mRS≦3を歩行自立とした。統計解析は3ヶ月目の歩行可否における2群間の比較において危険率10%未満であった因子を独立変数とし,3ヶ月目歩行可否を従属変数とした多重ロジスティック回帰分析を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
データの集計は患者名をコード化し,個人を特定できないように配慮した。なお,本研究は当院倫理委員会の承諾を得て実施した(承認番号12-08)。
【結果】
サルコペニアの有病率は23/239例(9.6%)であった。
歩行の可否における2群間の比較では入院前mRS,サルコペニア,閉塞性動脈硬化症,NIHSS,SIAS,TCT,FIM認知項目に有意差を認めた。3ヶ月目における歩行の可否を従属変数とした多重ロジスティック回帰分析の結果,入院前mRS(OR1.94,95%CI1.12-3.35,p=0.018),サルコペニア(OR7.95,95%CI1.16-54.40,p=0.035),SIAS(OR0.88,95%CI0.84-0.93,p<0.001),FIM認知項目(OR0.92,95%CI0.87-0.98,p=0.012)が独立した関連因子であった。
【考察】
本研究は脳卒中後の歩行能力に発症前におけるサルコペニアが影響していることを証明した初めての研究である。脳卒中後における能力障害の予後予測には年齢,発症前の移動能力,神経症状重症度などが報告されている。本研究では発症前の能力障害を補正した回帰分析においてもサルコペニアが脳卒中後の歩行能力に関連する独立した因子であった。これらより脳卒中リハビリテーションは神経症状重症度に焦点をあてるのではなく,全身状態やサルコペニアで層別化して治療内容を決定することが重要であり,また栄養サポートや身体活動量の増加などのフォローアップの必要性が示唆された。
制限として筋肉量の測定は二重エネルギーX線吸収法やCT,MRIを使用していない点とサルコペニアの定義にEuropean Working Group on Sarcopenia in Older Peopleにおける診断基準に包含されている握力と歩行速度の身体機能を測定していない点が挙げられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は脳卒中後の歩行能力に発症前におけるサルコペニアが影響していることを証明した初めての研究であり意義が高い。
脳卒中発症後における機能・能力障害に対しては発症直後より可及的早期かつ集中的なリハビリテーションが推奨されている。脳卒中急性期では機能障害,併存疾患,社会的背景などをもとに機能予後を予測しリハビリテーションを遂行する。特に日常生活自立のために重要な機能の一つである歩行障害の予後予測は治療内容や転帰先を検討するうえで重要となる。
近年,加齢に伴う骨格筋の減少を主体とするサルコペニアが注目されている。サルコペニアは筋力・身体機能低下,能力障害,QOLを低下させる。また,急性期病院入院時におけるサルコペニアは6ヵ月後再入院率,死亡率の独立した関連因子であることが報告されている。しかし,脳卒中後における歩行障害とサルコペニアの関連性については検討されていない。今回,本研究では予測式を用いて脳卒中発症時における四肢骨格筋肉量(skeletal muscle mass index:SMI)を推定し,発症前サルコペニアが脳卒中発症3か月後における歩行障害に与える影響について検討した。
【方法】
2010年4月から2013年7月までに発症1週以内に脳卒中にて入院し,リハビリテーションを施行した518例のうち男性,入院前modified Rankin Scale(mRS)0-3,発症3ヶ月目までフォローが可能であった239例を対象とした。女性におけるSMIの予測式は握力を必要とし,発症前の握力を同定できないため本研究では男性のみ対象とした。調査項目は年齢,性別,既往歴(高血圧,高脂血症,糖尿病,心房細動,腎不全,閉塞性動脈硬化症,虚血性心疾患),SMI,Stroke Impairment Assessment Set(SIAS),Trunk Control Test(TCT),Functional Independence Measure(FIM)認知項目とした。SMIは推定式より算出した[SMI(kg/m2)=0.326×BMI-0.047×腹囲-0.011×年齢+5.135(R2=0.68)]。本研究におけるサルコペニアの基準はSMI6.87kg/m2以下とした。3ヶ月目における能力障害はmRSにて評価し,mRS≦3を歩行自立とした。統計解析は3ヶ月目の歩行可否における2群間の比較において危険率10%未満であった因子を独立変数とし,3ヶ月目歩行可否を従属変数とした多重ロジスティック回帰分析を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
データの集計は患者名をコード化し,個人を特定できないように配慮した。なお,本研究は当院倫理委員会の承諾を得て実施した(承認番号12-08)。
【結果】
サルコペニアの有病率は23/239例(9.6%)であった。
歩行の可否における2群間の比較では入院前mRS,サルコペニア,閉塞性動脈硬化症,NIHSS,SIAS,TCT,FIM認知項目に有意差を認めた。3ヶ月目における歩行の可否を従属変数とした多重ロジスティック回帰分析の結果,入院前mRS(OR1.94,95%CI1.12-3.35,p=0.018),サルコペニア(OR7.95,95%CI1.16-54.40,p=0.035),SIAS(OR0.88,95%CI0.84-0.93,p<0.001),FIM認知項目(OR0.92,95%CI0.87-0.98,p=0.012)が独立した関連因子であった。
【考察】
本研究は脳卒中後の歩行能力に発症前におけるサルコペニアが影響していることを証明した初めての研究である。脳卒中後における能力障害の予後予測には年齢,発症前の移動能力,神経症状重症度などが報告されている。本研究では発症前の能力障害を補正した回帰分析においてもサルコペニアが脳卒中後の歩行能力に関連する独立した因子であった。これらより脳卒中リハビリテーションは神経症状重症度に焦点をあてるのではなく,全身状態やサルコペニアで層別化して治療内容を決定することが重要であり,また栄養サポートや身体活動量の増加などのフォローアップの必要性が示唆された。
制限として筋肉量の測定は二重エネルギーX線吸収法やCT,MRIを使用していない点とサルコペニアの定義にEuropean Working Group on Sarcopenia in Older Peopleにおける診断基準に包含されている握力と歩行速度の身体機能を測定していない点が挙げられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は脳卒中後の歩行能力に発症前におけるサルコペニアが影響していることを証明した初めての研究であり意義が高い。