[0835] 仙腸関節の加齢性変化について
キーワード:仙腸関節, 股関節, 加齢性変化
【はじめに,目的】
臨床場面において,腰痛などの骨盤帯領域の機能障害は,腰椎・骨盤・股関節などの複数領域の機能障害が複雑に組み合わさっている場合が多い。そのため,近年では腰椎・骨盤・股関節を複合体としてとらえ,総合的に評価治療を行うことが重要と考えられている。諸家の報告では,Hip-spine syndromeのように股関節と腰椎の機能障害に関連性があるという報告は多いが,仙腸関節と他関節の機能障害の関連性を報告している研究は殆どみられない。そこで今回,腸骨耳状面の年齢推定法を仙腸関節の加齢性変化を示す指標として用い,他関節の加齢性変化との関係を調べた。本研究の目的は,仙腸関節の加齢性変化が股関節などの他関節と関連性があるのかを明らかにすることである。
【方法】
死亡時年齢が記録されている男性晒骨100体(平均年齢56.5歳:19-83歳)の左右腸骨耳状面(200側)を肉眼で観察し,Buckberryら及びIgarashiらによる年齢推定法に準じて関節面の年齢推定を行った。2法から得られた推定年齢値の平均をその個体における仙腸関節の『関節年齢』とし,実年齢と関節年齢から年齢校正値を算出した。次に,関節年齢と年齢校正値の差を,腸骨耳状面の加齢性変化の程度を表す『Gap』と定義した。他関節の加齢性変化の指標として,同一の骨標本を使用したTsurumoto(2013)らの先行研究から股関節(200側)と膝関節(102側)の関節周囲骨棘指数のデータを引用した。さらに,耳状面形態に個体によって多様性がみられたため,耳状面の『くびれ率』を定義し測定を行った。これは,耳状面の長腕と短腕の関節面の最後方を直線で結び,この直線と耳状面の前下縁と後上縁の最長距離を測定し,後上縁までの距離から前下縁までの距離を除した値のことである。2つの年齢推定法の妥当性を検討するために,実年齢との相関性を調査した。また,くびれ率と年齢,耳状面Gap,股関節骨棘指数との関連を検討した。さらに,耳状面形態が関節の加齢性変化に及ぼす影響を考慮し,くびれ率の大きさが仙腸関節と股関節の加齢性変化の関連性を検討した。統計学的分析はMicrosoft Excel 2010の分析ツールを用いて行った。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究で用いた骨標本は,長崎大学医学部生の解剖実習のために同意を得て献体されたご遺体から取り出した標本である。本研究では骨標本に直接手を加えず,肉眼観察を行うために使用したため,倫理的な問題はない。
【結果】
2つの年齢推定法ともに,実年齢との間に高い正の相関がみられた。2法の平均推定年齢も実年齢との高い正の相関を示した。耳状面Gapと股関節骨棘指数との間には中等度の正の相関を示し,膝関節との間には弱い正の相関を示した。くびれ率に関しては,耳状面Gapおよび股関節骨棘指数との間に相関はみられなかった。さらに,くびれ率の分布の90%領域中の個体群において,耳状面Gapと股関節骨棘指数の間にr=0.40の相関を示した。くびれ率の大きさで仙腸関節と股関節の加齢性変化の関連性をみたところ,くびれ率が小さいほど仙腸関節と股関節の加齢性変化の相関が強くなる傾向がみられた。
【考察】
Vleemingらは骨盤帯の関節安定戦略に異常をきたした場合,仙腸関節に破綻をきたし,退行変性を進行させてしまう可能性があると述べている。本研究で行った腸骨耳状面の加齢性変化の評価より,仙腸関節における安定機構の変化が他の関節に影響を及ぼす可能性があることが示唆された。
本研究結果より,仙腸関節と股関節の加齢性変化の間に相関がみられた。腰痛患者に見られる骨盤帯のアライメント不良や諸筋の活動変化により,関節にストレスが加わり,その加齢性変化が進行する可能性があると考えられる。本研究からは,股関節と仙腸関節のどちらが原因で加齢性変化が生じるのかは知ることが出来ないが,腰椎・骨盤・股関節のアライメント異常などによる安定戦略の変化により,股関節と仙腸関節の両方に加齢性変化が生じる可能性が示唆された。また,仙腸関節面のくびれ率が小さいほど仙腸関節と股関節の加齢性変化の相関が強くなる傾向がみられた。このことより,仙腸関節の形状がHip-spine syndromeのような腰椎・骨盤・股関節領域の複合的な病態の生じやすさに影響を及ぼしている可能性があることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究結果は,骨盤とその周囲の運動器疾患に対する考察を助けるデータとなり,さらに,腰椎・骨盤・股関節領域における運動器疾患の予防を行う上でも有用なデータになると考える。
臨床場面において,腰痛などの骨盤帯領域の機能障害は,腰椎・骨盤・股関節などの複数領域の機能障害が複雑に組み合わさっている場合が多い。そのため,近年では腰椎・骨盤・股関節を複合体としてとらえ,総合的に評価治療を行うことが重要と考えられている。諸家の報告では,Hip-spine syndromeのように股関節と腰椎の機能障害に関連性があるという報告は多いが,仙腸関節と他関節の機能障害の関連性を報告している研究は殆どみられない。そこで今回,腸骨耳状面の年齢推定法を仙腸関節の加齢性変化を示す指標として用い,他関節の加齢性変化との関係を調べた。本研究の目的は,仙腸関節の加齢性変化が股関節などの他関節と関連性があるのかを明らかにすることである。
【方法】
死亡時年齢が記録されている男性晒骨100体(平均年齢56.5歳:19-83歳)の左右腸骨耳状面(200側)を肉眼で観察し,Buckberryら及びIgarashiらによる年齢推定法に準じて関節面の年齢推定を行った。2法から得られた推定年齢値の平均をその個体における仙腸関節の『関節年齢』とし,実年齢と関節年齢から年齢校正値を算出した。次に,関節年齢と年齢校正値の差を,腸骨耳状面の加齢性変化の程度を表す『Gap』と定義した。他関節の加齢性変化の指標として,同一の骨標本を使用したTsurumoto(2013)らの先行研究から股関節(200側)と膝関節(102側)の関節周囲骨棘指数のデータを引用した。さらに,耳状面形態に個体によって多様性がみられたため,耳状面の『くびれ率』を定義し測定を行った。これは,耳状面の長腕と短腕の関節面の最後方を直線で結び,この直線と耳状面の前下縁と後上縁の最長距離を測定し,後上縁までの距離から前下縁までの距離を除した値のことである。2つの年齢推定法の妥当性を検討するために,実年齢との相関性を調査した。また,くびれ率と年齢,耳状面Gap,股関節骨棘指数との関連を検討した。さらに,耳状面形態が関節の加齢性変化に及ぼす影響を考慮し,くびれ率の大きさが仙腸関節と股関節の加齢性変化の関連性を検討した。統計学的分析はMicrosoft Excel 2010の分析ツールを用いて行った。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究で用いた骨標本は,長崎大学医学部生の解剖実習のために同意を得て献体されたご遺体から取り出した標本である。本研究では骨標本に直接手を加えず,肉眼観察を行うために使用したため,倫理的な問題はない。
【結果】
2つの年齢推定法ともに,実年齢との間に高い正の相関がみられた。2法の平均推定年齢も実年齢との高い正の相関を示した。耳状面Gapと股関節骨棘指数との間には中等度の正の相関を示し,膝関節との間には弱い正の相関を示した。くびれ率に関しては,耳状面Gapおよび股関節骨棘指数との間に相関はみられなかった。さらに,くびれ率の分布の90%領域中の個体群において,耳状面Gapと股関節骨棘指数の間にr=0.40の相関を示した。くびれ率の大きさで仙腸関節と股関節の加齢性変化の関連性をみたところ,くびれ率が小さいほど仙腸関節と股関節の加齢性変化の相関が強くなる傾向がみられた。
【考察】
Vleemingらは骨盤帯の関節安定戦略に異常をきたした場合,仙腸関節に破綻をきたし,退行変性を進行させてしまう可能性があると述べている。本研究で行った腸骨耳状面の加齢性変化の評価より,仙腸関節における安定機構の変化が他の関節に影響を及ぼす可能性があることが示唆された。
本研究結果より,仙腸関節と股関節の加齢性変化の間に相関がみられた。腰痛患者に見られる骨盤帯のアライメント不良や諸筋の活動変化により,関節にストレスが加わり,その加齢性変化が進行する可能性があると考えられる。本研究からは,股関節と仙腸関節のどちらが原因で加齢性変化が生じるのかは知ることが出来ないが,腰椎・骨盤・股関節のアライメント異常などによる安定戦略の変化により,股関節と仙腸関節の両方に加齢性変化が生じる可能性が示唆された。また,仙腸関節面のくびれ率が小さいほど仙腸関節と股関節の加齢性変化の相関が強くなる傾向がみられた。このことより,仙腸関節の形状がHip-spine syndromeのような腰椎・骨盤・股関節領域の複合的な病態の生じやすさに影響を及ぼしている可能性があることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究結果は,骨盤とその周囲の運動器疾患に対する考察を助けるデータとなり,さらに,腰椎・骨盤・股関節領域における運動器疾患の予防を行う上でも有用なデータになると考える。