第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 基礎理学療法 ポスター

身体運動学9

Sat. May 31, 2014 11:20 AM - 12:10 PM ポスター会場 (基礎)

座長:宮﨑純弥(京都橘大学健康科学部理学療法学科)

基礎 ポスター

[0839] 脊柱後弯変形と脊柱可動性が足圧分布に与える影響

佐藤大道1,2, 岡田恭司2, 齊藤明2, 斎藤功3, 木下和勇2,4, 高橋裕介1,2, 柴田和幸2,5, 木元稔6, 若狭正彦2 (1.JA秋田厚生連秋田組合総合病院, 2.秋田大学大学院医学系研究科保健学専攻理学療法学講座, 3.羽後町立羽後病院, 4.山王整形外科, 5.市立秋田総合病院, 6.秋田県立医療療育センター)

Keywords:脊柱アライメント, 足圧分布, 円背

【はじめに,目的】
高齢者特有の脊柱後弯変形,いわゆる円背は臨床上数多く見受けられ,脊柱後弯の増強により歩行能力が低下すると報告されている。しかし,脊柱後弯変形の程度や可動性が歩行動態にどのような影響を与えるかを定量的に検討した報告は少ない。脊柱後弯変形によるアライメント変化は,重心位置に影響を与えることで,足圧分布にも影響が生じると考えられる。そこで本研究の目的は脊柱後弯変形の程度と可動性の低下により,足圧分布がどのように変化するかを明らかにすることである。
【方法】
健常群14名(男性9名,女性5名,年齢22.2±2.2歳,身長166.8±6.2cm,体重62.6±7.53kg)と脊柱後弯群12名(男性1名,女性11名,年齢85.8±2.9歳,身長144.6±8.1cm,体重44.0±7.9kg)を対象とし,体表面から脊柱のアライメントを測定できるSpinal Mouse(Idiag AG,Switzerland)を用い,安静立位時の(1)全体傾斜角,(2)胸椎後弯角,(3)腰椎前弯角,(4)仙骨傾斜角を測定し,次いで最大前屈した時のそれぞれの測定値から,安静立位時との変化量を可動域として算出した。足圧分布はインソール型足圧分布測定装置(F-scanII,(ニッタ社)を用い,10 mの歩行路を快適速度で歩いてもらい,(1)%Long(足圧中心軌跡の開始点と終了点を結んだ前後径を足長で除した値),(2)%Trans(足圧中心軌跡の開始点と終了点を結んだ線と足圧中心軌跡の最大距離を足幅で除した値),(3)踵部,足底中央部,中足骨部,母趾部,足趾部の%BW(それぞれの部位の荷重値を体重で除した値)を計測した。各測定項目の健常群と脊柱後弯群の比較にはMann-WhitneyのU検定を用い,危険率は5%未満を有意とした。またSpinal Mouseによって計測した各測定項目と%Trans,%Longとの関係をPearsonの相関係数を求め検討した。なお脊柱後弯群は下肢にアライメント異常がなく,歩行時に下肢痛がなく,杖なし歩行が可能なものを対象とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は秋田大学の倫理委員会の承諾を得て実施した。全ての対象者に本研究の十分な説明を行い,所定の文書で同意を得た。
【結果】
安静立位では全体傾斜角(1.2±2.1° vs 13.4±4.7°,p<0.05),胸椎後弯角(41.2±5.4° vs 58.0±14.7°,p<0.05),腰椎前弯角(-26.3±6.6° vs 0.44±13.4°,p<0.05)は健常群に比べ脊柱後弯群で有意に高値であり,仙骨傾斜角(14.2±4.4° vs -1.2±6.5°,p<0.05)は健常群に比べ脊柱後弯群で有意に低値であった。最大前屈位の全体傾斜角変化量(103.7±10.2° vs 54.8±13.1°,p<0.05),胸椎後弯角変化量(20.3±7.4°vs 8.9±8.0°,p<0.05),腰椎前弯角変化量(61.8±6.0° vs 29.8±14.2°,p<0.05),仙骨傾斜角変化量(46.7±10.3° vs 29.4±13.6°,p<0.05)は健常群に比べ脊柱後弯群で有意に低値であった。%Long(51.2±4.9% vs 43.6±6.4%,p<0.05),%Trans(15.4±3.8%vs 9.2±5.2%,p<0.05)は健常群に比べ脊柱後弯群で有意に低値であった。部位別%BWは母趾部%BWが健常群に比べ脊柱後弯群で有意に低値であった(9.7±6.4% vs 3.2±3.6%,p<0.05)。踵部%BW,足底中央部%BW,中足骨部%BW,足趾部%BWにおいては2群間で有意差は認められなかった。脊柱変形の程度および可動性と足圧分布の相関関係では%Longと胸椎後弯角(r=-0.719,p<0.05),全体傾斜角変化量(r=0.479,p<0.05),腰椎前弯角変化量(r=0.458,p<0.05),%Transと胸椎後弯角(r=-0.602,p<0.05),仙骨傾斜角(r=0.484,p<0.05),胸椎後弯角変化量(r=0.455,p<0.05),腰椎前弯角変化量(r=0.538,p<0.05)で有意な相関が認められた。
【考察】
脊柱後弯群では,安静立位での全体傾斜角,胸椎後弯角,腰椎前弯角の増加,仙骨傾斜角の低下のみならず,全体的な可動域に低下が認められ,さらに脊柱後弯変形の程度と可動性の減少が%Longや%Transの低下の程度と有意に相関していた。円背の程度と脊柱可動性の減少の程度が大きいほど,歩行の荷重パターンが健常者よりも逸脱すると考えられ,転倒の大きな要因となっていることが推測された。脊柱後弯を有する患者に対しては,下肢体幹に対するアプローチとともに,足底の荷重パターンを意識した訓練などの試みが必要と思われた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果から脊柱後弯変形および脊柱可動性は歩行動態に影響を与えるということが明らかとなった。歩行能力の改善には単純な下肢体幹筋力の強化のみならず,脊柱アライメントや脊柱可動性,足底の荷重パターンに対するアプローチを行っていく必要性が示唆された。