[0842] 脊髄小脳変性症における側方へ荷重移動した座位の重心動揺について
Keywords:脊髄小脳変性症, 重心動揺, 姿勢制御
【はじめに,目的】
脊髄小脳変性症(以下SCD)は,四肢,体幹に失調症状を呈する。臨床場面では,歩行やバランスに障害を認め側方荷重移動時に,上部体幹や骨盤が前後に動揺することがある。先行研究でも,SCD患者は静止立位で健常成人に比べ,前後方向に大きな動揺を認めるという報告がされている。姿勢を保つ上で,体幹機能が果たす役割は大きいとされており,近年は筋力評価,片脚立位評価,座位や起居動作のパフォーマンス評価等の他に,座位での重心動揺計検査を用いて,体幹機能を定量的に評価する手法も報告されている。しかし,SCD患者の側方へ荷重移動した座位における体幹機能について示した文献は見当たらない。今回,本研究ではSCD患者の側方へ荷重移動した座位での動揺の大きさと方向を定量的に明らかにし,姿勢保持と動作特性について検討した。
【方法】
対象者は重篤な関節障害などの既往のない健常成人10名(男性6名,女性4名,平均年齢49.9±10.7歳)と当院入院中又は外来通院中のSCD患者10名(男性2名,女性8名,平均年齢59.3±10.1歳)とした。SCD患者は,平均罹病期間が99.9±59.8カ月,scale for the assessment and rating of ataxiaの平均総得点が14.1±4.9点であった。座位での重心動揺検査は高さ60cmの台の上に重心動揺計(アニマ社製:Gravicorder GP-31)を置き,被検者は足を浮かせた端座位をとり,重心動揺計面に大腿(大転子から膝関節裂隙)の2分の1が接するような肢位をとらせた。両下肢は自然下垂位とし,高さ2m先に設置した目印を注視するよう指導した。測定課題は,①安静端座位,②右側荷重座位,③左側荷重座位を各20秒間保持させた。側方への荷重移動は,一度15cm側方へリーチし,上肢は胸部で軽く組み直させ,いずれの3課題でも上肢の動揺による影響を除いた。3課題はランダムに実施し,各測定間は1分間の休憩を設けた。重心動揺分析パラメータは外周面積,総軌跡長,8方向の総位置ベクトル長・平均位置ベクトル長を用いた。統計処理はPearsonの相関係数,等分散では対応のないstudent-t検定,分散が等しくない場合はWelch検定を用いた。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には本研究の目的と方法を口頭と文書により説明し,本研究への参加の同意と署名を頂いた後,測定を行った。個人情報は本研究のみで使用し,データから個人を特定できないようにした。尚,本研究は当院倫理委員会の承認を得て行った。
【結果】
健常成人における3課題の重心動揺分析パラメータと年齢の間で相関はみられなかった。外周面積は安静端座位で健常成人0.06±0.03cm2,SCD患者0.14±0.062,右側荷重座位で健常成人0.17±0.112,SCD患者0.59±0.502,左荷重座位で健常成人0.26±0.252,SCD患者0.63±0.562であり,3課題ともにSCD患者で有意に高値を示した(p<0.05)。総軌跡長も同様にSCD患者で高値を示す結果となった(p<0.05)。総位置ベクトル長は全方向ともに健常成人とSCD患者で3課題において有意差を認めなかった。平均 位置ベクトル長は前方【A】は,安静端座位で健常成人0.10±0.05cm,SCD患者0.20±0.08cm,右側荷重座位で健常成人0.19±0.14cm,SCD患者0.33±0.14cm,左荷重座位で健常成人0.16±0.07cm,SCD患者0.30±0.10cmであり,3課題ともにSCD患者で有意に高値を示した(p<0.05)。後方【E】も同様にSCD患者で高値を示す結果となった(p<0.05)。荷重側と反対方向へのベクトルも高値を示す傾向にあった。
【考察】
安静座位では,先行文献のように,外周面積,総軌跡長ともに,SCD患者で高値を示し,重心動揺が大きい結果となった。今回,我々が用いた側方への荷重移動座位についても,同様に重心動揺が大きくなる結果が得られた。動揺の方向については,総位置ベクトル長は全方向で有意差を認めなかったが,平均位置ベクトル長はSCD患者で有意に大きくなった。これは安静時,側方への荷重移動座位ともに,SCD患者は健常成人よりも前後方向における一回あたりの動揺幅が大きかったと言える。SCD患者は体幹失調により,筋活動のタイミング制御異常や動揺による誤差の修正フィードバック制御が障害され,動揺に対する修正の遅れがあり,一回当たりの平均位置ベクトル値が大きくなってしまったと考察する。
【理学療法学研究としての意義】
SCD患者における体幹機能の適切な評価は重要な課題である。安静座位だけではなく側方荷重座位の重心動揺について示せた本研究結果は,今後歩行や起立等における体幹機能の評価の発展に資する意義がある。またバランス障害に対する治療の科学的根拠の一つになり得るものと考える。
脊髄小脳変性症(以下SCD)は,四肢,体幹に失調症状を呈する。臨床場面では,歩行やバランスに障害を認め側方荷重移動時に,上部体幹や骨盤が前後に動揺することがある。先行研究でも,SCD患者は静止立位で健常成人に比べ,前後方向に大きな動揺を認めるという報告がされている。姿勢を保つ上で,体幹機能が果たす役割は大きいとされており,近年は筋力評価,片脚立位評価,座位や起居動作のパフォーマンス評価等の他に,座位での重心動揺計検査を用いて,体幹機能を定量的に評価する手法も報告されている。しかし,SCD患者の側方へ荷重移動した座位における体幹機能について示した文献は見当たらない。今回,本研究ではSCD患者の側方へ荷重移動した座位での動揺の大きさと方向を定量的に明らかにし,姿勢保持と動作特性について検討した。
【方法】
対象者は重篤な関節障害などの既往のない健常成人10名(男性6名,女性4名,平均年齢49.9±10.7歳)と当院入院中又は外来通院中のSCD患者10名(男性2名,女性8名,平均年齢59.3±10.1歳)とした。SCD患者は,平均罹病期間が99.9±59.8カ月,scale for the assessment and rating of ataxiaの平均総得点が14.1±4.9点であった。座位での重心動揺検査は高さ60cmの台の上に重心動揺計(アニマ社製:Gravicorder GP-31)を置き,被検者は足を浮かせた端座位をとり,重心動揺計面に大腿(大転子から膝関節裂隙)の2分の1が接するような肢位をとらせた。両下肢は自然下垂位とし,高さ2m先に設置した目印を注視するよう指導した。測定課題は,①安静端座位,②右側荷重座位,③左側荷重座位を各20秒間保持させた。側方への荷重移動は,一度15cm側方へリーチし,上肢は胸部で軽く組み直させ,いずれの3課題でも上肢の動揺による影響を除いた。3課題はランダムに実施し,各測定間は1分間の休憩を設けた。重心動揺分析パラメータは外周面積,総軌跡長,8方向の総位置ベクトル長・平均位置ベクトル長を用いた。統計処理はPearsonの相関係数,等分散では対応のないstudent-t検定,分散が等しくない場合はWelch検定を用いた。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には本研究の目的と方法を口頭と文書により説明し,本研究への参加の同意と署名を頂いた後,測定を行った。個人情報は本研究のみで使用し,データから個人を特定できないようにした。尚,本研究は当院倫理委員会の承認を得て行った。
【結果】
健常成人における3課題の重心動揺分析パラメータと年齢の間で相関はみられなかった。外周面積は安静端座位で健常成人0.06±0.03cm2,SCD患者0.14±0.062,右側荷重座位で健常成人0.17±0.112,SCD患者0.59±0.502,左荷重座位で健常成人0.26±0.252,SCD患者0.63±0.562であり,3課題ともにSCD患者で有意に高値を示した(p<0.05)。総軌跡長も同様にSCD患者で高値を示す結果となった(p<0.05)。総位置ベクトル長は全方向ともに健常成人とSCD患者で3課題において有意差を認めなかった。平均 位置ベクトル長は前方【A】は,安静端座位で健常成人0.10±0.05cm,SCD患者0.20±0.08cm,右側荷重座位で健常成人0.19±0.14cm,SCD患者0.33±0.14cm,左荷重座位で健常成人0.16±0.07cm,SCD患者0.30±0.10cmであり,3課題ともにSCD患者で有意に高値を示した(p<0.05)。後方【E】も同様にSCD患者で高値を示す結果となった(p<0.05)。荷重側と反対方向へのベクトルも高値を示す傾向にあった。
【考察】
安静座位では,先行文献のように,外周面積,総軌跡長ともに,SCD患者で高値を示し,重心動揺が大きい結果となった。今回,我々が用いた側方への荷重移動座位についても,同様に重心動揺が大きくなる結果が得られた。動揺の方向については,総位置ベクトル長は全方向で有意差を認めなかったが,平均位置ベクトル長はSCD患者で有意に大きくなった。これは安静時,側方への荷重移動座位ともに,SCD患者は健常成人よりも前後方向における一回あたりの動揺幅が大きかったと言える。SCD患者は体幹失調により,筋活動のタイミング制御異常や動揺による誤差の修正フィードバック制御が障害され,動揺に対する修正の遅れがあり,一回当たりの平均位置ベクトル値が大きくなってしまったと考察する。
【理学療法学研究としての意義】
SCD患者における体幹機能の適切な評価は重要な課題である。安静座位だけではなく側方荷重座位の重心動揺について示せた本研究結果は,今後歩行や起立等における体幹機能の評価の発展に資する意義がある。またバランス障害に対する治療の科学的根拠の一つになり得るものと考える。