[0843] 脳卒中片麻痺者に対するバランス練習の経験
キーワード:脳卒中, 立位バランス, 重心移動
【はじめに,目的】
重心動揺計を用いた脳卒中者のバランス練習の有効性の報告は多い。当センターでは,新たに開発されたパナソニック社の重心動揺計と全身が移るモニター画面から構成されたデジタルミラーを用いて,特に重心移動の速度に着目したバランス練習を実施し効果を得ることができたので報告する。
【方法】
対象は,平成25年8月~9月に当センターに入院・入所していた脳卒中片麻痺者11人で,装具・杖の使用の有無を問わず屋内10m歩行が監視又は自立し,本研究の趣旨が理解できる人とした。
対象者の内訳は,男性9人,女性2人,平均年齢46.5±12.8歳,右片麻痺5人,左片麻痺6人,下肢ブロンストロームステージVI1人,V1人,IV1人,III8人,平均羅漢期間14.9±18.0ヶ月で,機能的自立度評価表における運動項目の合計平均は,74.8±9.3点であった。
測定姿勢は,装具や靴を装着した状態で,足底内側を平行に10cm離した開脚立位とし,両上肢は下垂したまま,対象者の目の高さで,2m前方を注視することとした。測定方法は,足底面を離床させず,接地位置を動かさない範囲で,初期の過渡的な身体動揺がおさまった後15秒間の重心動揺を測定し,自然に立位をとった時の中心位置(以下,自然位置),および前方,後方,右方,左方へ,最大限に重心移動した時の中心位置(以下,最大重心位置)の5つの座標を記録した。バランス練習は,モニター画面を見ながら,表示される重心点をなるべく早く動かし,自然位置と各方向の最大重心位置の間を3往復移動する内容とした。一回あたり前後左右の各方向への練習を5セット実施し,これを週5日,2週間継続した。バランス練習2週間前後で,各方向毎の自然位置と最大重心位置を3往復するのに要した経過時間,軌跡長,矩形面積の平均や,最大重心位置,歩行速度を比較した。
【倫理的配慮,説明と同意】
全ての対象者には研究の趣旨,方法,リスクを,口頭にて十分に説明を実施し同意を得たものを対象とした。なお,本研究は当センター倫理審査委員への報告・承認を得て実施した。
【結果】
バランス練習の初日における1セットの平均経過時間は,前方17.7±9.7秒,後方17.1±11.4秒,麻痺側23.5±10.1秒,非麻痺側18.2±12.5秒と,個々の違いはみられたが,麻痺側への重心移動に時間が掛かる傾向にあった。
2週間後のバランス練習における経過時間の短縮率の平均は,前方43.9±19.4%,後方42.1±26.0%,麻痺側48.6±18.4%,非麻痺側36.5±22.4%であった。また,左右前後の各方向とも軌跡長や矩形面積の平均が5%以上短縮した人は1人,いずれかの方向で5%以上拡大した人は8人であった。最大重心位置の前後径は1.8±0.5倍,左右径は1.6±0.7倍の変化で,前後径・左右径ともに5%以上の変化がみられた人は,11人中8人いた。また,10m最速歩行時間は,対象者全てが短くなっており,平均で11.7±8.1%の短縮がみられた。
【考察】
今回,我々は,2週間の短期間であるが,デジタルミラーを用い,自然位置と前後左右の最大重心位置の反復移動を素早く行うようなバランス練習を理学療法の一部として実施した。
その結果,経過時間の短縮とともに,最大重心位置の前後径や左右径の拡大といったバランスの指標が改善していた。これは,恐怖感なども軽減し,最大重心移動位置まで素早く動くといった動作自体の経験が習熟して早く動けるようになったからだと考える。また,矩形面積の拡大が示すように,素早く動くことができるようになると,目標の手前で減速するよりも,通過してでもすばやく切り返す方法を取るなど,重心を円滑にコントロールすることで,姿勢の制御系が賦活され て重心移動が円滑になり,立位姿勢における随意的な安定性向上につながっていったものと考える。
望月らは,「麻痺側への重心移動能力の改善や前後・左右への重心移動域の拡大が歩行能力の改善に必要である」と報告している。バランス練習前後において歩行速度が向上したのは,素早い重心移動や随意的な重心移動距離の増加が,歩行速度の改善に影響を与える一要因になり得たのではないかと考える。
今度は症例数を増やし,短期間だけでなく1,2ヶ月といった期間での経時的変化を検討する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
前後左右への荷重練習に,速度の要素を含めて行うことは,片麻痺者に対する最大重心位置の拡大につながり,歩行速度の向上にも影響を与えるトレーニングとして寄与する可能性があると考える。
重心動揺計を用いた脳卒中者のバランス練習の有効性の報告は多い。当センターでは,新たに開発されたパナソニック社の重心動揺計と全身が移るモニター画面から構成されたデジタルミラーを用いて,特に重心移動の速度に着目したバランス練習を実施し効果を得ることができたので報告する。
【方法】
対象は,平成25年8月~9月に当センターに入院・入所していた脳卒中片麻痺者11人で,装具・杖の使用の有無を問わず屋内10m歩行が監視又は自立し,本研究の趣旨が理解できる人とした。
対象者の内訳は,男性9人,女性2人,平均年齢46.5±12.8歳,右片麻痺5人,左片麻痺6人,下肢ブロンストロームステージVI1人,V1人,IV1人,III8人,平均羅漢期間14.9±18.0ヶ月で,機能的自立度評価表における運動項目の合計平均は,74.8±9.3点であった。
測定姿勢は,装具や靴を装着した状態で,足底内側を平行に10cm離した開脚立位とし,両上肢は下垂したまま,対象者の目の高さで,2m前方を注視することとした。測定方法は,足底面を離床させず,接地位置を動かさない範囲で,初期の過渡的な身体動揺がおさまった後15秒間の重心動揺を測定し,自然に立位をとった時の中心位置(以下,自然位置),および前方,後方,右方,左方へ,最大限に重心移動した時の中心位置(以下,最大重心位置)の5つの座標を記録した。バランス練習は,モニター画面を見ながら,表示される重心点をなるべく早く動かし,自然位置と各方向の最大重心位置の間を3往復移動する内容とした。一回あたり前後左右の各方向への練習を5セット実施し,これを週5日,2週間継続した。バランス練習2週間前後で,各方向毎の自然位置と最大重心位置を3往復するのに要した経過時間,軌跡長,矩形面積の平均や,最大重心位置,歩行速度を比較した。
【倫理的配慮,説明と同意】
全ての対象者には研究の趣旨,方法,リスクを,口頭にて十分に説明を実施し同意を得たものを対象とした。なお,本研究は当センター倫理審査委員への報告・承認を得て実施した。
【結果】
バランス練習の初日における1セットの平均経過時間は,前方17.7±9.7秒,後方17.1±11.4秒,麻痺側23.5±10.1秒,非麻痺側18.2±12.5秒と,個々の違いはみられたが,麻痺側への重心移動に時間が掛かる傾向にあった。
2週間後のバランス練習における経過時間の短縮率の平均は,前方43.9±19.4%,後方42.1±26.0%,麻痺側48.6±18.4%,非麻痺側36.5±22.4%であった。また,左右前後の各方向とも軌跡長や矩形面積の平均が5%以上短縮した人は1人,いずれかの方向で5%以上拡大した人は8人であった。最大重心位置の前後径は1.8±0.5倍,左右径は1.6±0.7倍の変化で,前後径・左右径ともに5%以上の変化がみられた人は,11人中8人いた。また,10m最速歩行時間は,対象者全てが短くなっており,平均で11.7±8.1%の短縮がみられた。
【考察】
今回,我々は,2週間の短期間であるが,デジタルミラーを用い,自然位置と前後左右の最大重心位置の反復移動を素早く行うようなバランス練習を理学療法の一部として実施した。
その結果,経過時間の短縮とともに,最大重心位置の前後径や左右径の拡大といったバランスの指標が改善していた。これは,恐怖感なども軽減し,最大重心移動位置まで素早く動くといった動作自体の経験が習熟して早く動けるようになったからだと考える。また,矩形面積の拡大が示すように,素早く動くことができるようになると,目標の手前で減速するよりも,通過してでもすばやく切り返す方法を取るなど,重心を円滑にコントロールすることで,姿勢の制御系が賦活され て重心移動が円滑になり,立位姿勢における随意的な安定性向上につながっていったものと考える。
望月らは,「麻痺側への重心移動能力の改善や前後・左右への重心移動域の拡大が歩行能力の改善に必要である」と報告している。バランス練習前後において歩行速度が向上したのは,素早い重心移動や随意的な重心移動距離の増加が,歩行速度の改善に影響を与える一要因になり得たのではないかと考える。
今度は症例数を増やし,短期間だけでなく1,2ヶ月といった期間での経時的変化を検討する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
前後左右への荷重練習に,速度の要素を含めて行うことは,片麻痺者に対する最大重心位置の拡大につながり,歩行速度の向上にも影響を与えるトレーニングとして寄与する可能性があると考える。