[0844] 脳卒中片麻痺患者を想定した一側上下肢重量負荷時の寝返り動作の定量的類型化
キーワード:寝返り, 片麻痺, 三次元動作解析
【はじめに,目的】
寝返り動作はベッド上での移動性スキルの重要な要素で,多くの運動課題に不可欠な構成要素である。脳卒中片麻痺患者では非麻痺側方向への寝返り動作に困難さを呈し,離床やADL低下につながる。つまり,非麻痺側方向への寝返り動作の早期獲得が重要である。麻痺側方向と比べ非麻痺側方向への寝返り動作では,片麻痺による一側上下肢の重さが抗重力運動を阻害していることが一要因として考えられる。そこで,本研究の目的は脳卒中片麻痺患者を想定した一側上下肢重量負荷時の寝返り動作を定量的データにより類型化し,その特徴を明らかにすることとした。
【方法】
対象は健常男性30名とし,属性は平均年齢(年齢幅)21.6(19~30)歳,平均身長171.9±6.3cm,平均体重62.9±7.8kgであった。計測課題は,背臥位から腹臥位までの右回りの寝返り動作とし,体重の5%の重量負荷として左上下肢遠位部に重錘バンドを装着し,練習後に至適速度にて1試行実施した。なお,データ補正のために課題動作計側前に静止立位の計側を行った。測定には三次元動作解析装置(VICON社製NEXUS)を使用し,赤外線カメラ8台と赤外線反射マーカーを用いて行った。マーカーは体表面上の所定の位置に静止立位時39個,動作計測時27個の標点を設置・貼付し,課題動作中のマーカー位置を計測した。計測により得られた標点の三次元座標データを用いて,課題動作中の頭部と体幹の関節角度を算出した。関節角度の算出には,プログラミングソフト(VICON社製BODY BUILDER)を用い,マーカー補正とオイラー角の算出を行った。なお,データ解析区間は動作開始から骨盤が床面に対して90°回旋位に至るまでとし,1動作を100%として時間を正規化した。算出パラメータは,動作速度と各関節の最大・最小・平均関節角度,最大・最小関節角度到達時間とした。統計学的検討はIBM SPSS Statistics Ver.20にて,各パラメータを変数としたクラスター分析により寝返り動作を類型化し,各類型を独立変数,各パラメータを従属変数とした一元配置分散分析を行い,事後検定にScheffeの多重比較検定を有意水準5%で行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
首都大学東京荒川キャンパス研究安全倫理委員会の承認を得た上で実施し,研究対象者には実験開始前に書面及び口頭にて本研究の目的と内容に関する説明を行い,書面にて同意を得た。
【結果】
クラスター分析の結果,3群に類型化でき,各群をA・B・C群とするとA群が20名(66.7%),B群が6名(20.0%),C群が4名(13.3%)であった。各群で有意差を認めた項目として,A群では体幹最大屈曲角度17.4±15.1°で有意に高値,体幹最大伸展角度到達時間8.1±10.2%で有意に低値,B群では頭部最大左回旋角度20.0±14.9°,体幹最大伸展角度到達時間98.2±3.6%で有意に高値,体幹最大屈曲角度到達時間54.8±12.2%で有意に低値,C群では頭部最大左側屈角度19.0±6.3°,体幹最大左側屈角度到達時間79.8±12.2%,体幹最大右回旋角度6.4±6.2°,体幹最大左回旋角度55.3±4.4°・到達時間98.5±1.9%,体幹平均回旋角度22.5±6.6°で有意に高値,頭部最大右回旋角度到達時間91.8±15.8%,体幹最大右回旋角度到達時間25.8±20.4%で有意に低値を示した。
【考察】
一側上下肢に重量負荷した寝返り動作において,体幹に着目して定量的類型化したところ3群に分けられた。各群の特徴として,A群は体幹伸展から屈曲に早期に切り替わる体幹屈曲パターン,B群は体幹屈曲から伸展に切り替わり頭部回旋でバランスをとる体幹伸展パターン,C群は体幹右回旋から左回旋(骨盤帯が右回旋)に切り替わる体幹回旋パターンと考えられる。我々が第48回日本理学療法学術大会で発表した健常者の正常寝返り動作の定量的類型化と比較し,本研究ではA群が13%増加,B群が6%増加,C群が7%減少した。片麻痺患者では運動麻痺や体幹機能低下から動作の多様性が限局し,体幹伸筋を用いたパターンで寝返ろうとすると報告されている。本研究において体幹伸展パターンは増加したが,体幹屈曲パターンも増加していた。唯一,体幹回旋パターンが減少し,体幹回旋のみが制限される結果となった。この理由として,体幹回旋が最も一側上下肢の重さの影響を受けやすいことが考えられ,体幹の屈曲・伸展への影響は小さいと考えられた。ゆえに,本研究より片麻痺患者の非麻痺側方向への寝返り動作が困難な要因として,一側上下肢運動麻痺は主に寝返り動作時の体幹回旋運動に影響することが示唆された。今後は,片麻痺患者を対象とした定量的な検討が必要である。
【理学療法学研究としての意義】
脳卒中片麻痺患者の非麻痺側方向への寝返り動作の困難さの要因を明らかにするための基礎的研究で,効率的な理学療法評価・治療の一助になりうる。
寝返り動作はベッド上での移動性スキルの重要な要素で,多くの運動課題に不可欠な構成要素である。脳卒中片麻痺患者では非麻痺側方向への寝返り動作に困難さを呈し,離床やADL低下につながる。つまり,非麻痺側方向への寝返り動作の早期獲得が重要である。麻痺側方向と比べ非麻痺側方向への寝返り動作では,片麻痺による一側上下肢の重さが抗重力運動を阻害していることが一要因として考えられる。そこで,本研究の目的は脳卒中片麻痺患者を想定した一側上下肢重量負荷時の寝返り動作を定量的データにより類型化し,その特徴を明らかにすることとした。
【方法】
対象は健常男性30名とし,属性は平均年齢(年齢幅)21.6(19~30)歳,平均身長171.9±6.3cm,平均体重62.9±7.8kgであった。計測課題は,背臥位から腹臥位までの右回りの寝返り動作とし,体重の5%の重量負荷として左上下肢遠位部に重錘バンドを装着し,練習後に至適速度にて1試行実施した。なお,データ補正のために課題動作計側前に静止立位の計側を行った。測定には三次元動作解析装置(VICON社製NEXUS)を使用し,赤外線カメラ8台と赤外線反射マーカーを用いて行った。マーカーは体表面上の所定の位置に静止立位時39個,動作計測時27個の標点を設置・貼付し,課題動作中のマーカー位置を計測した。計測により得られた標点の三次元座標データを用いて,課題動作中の頭部と体幹の関節角度を算出した。関節角度の算出には,プログラミングソフト(VICON社製BODY BUILDER)を用い,マーカー補正とオイラー角の算出を行った。なお,データ解析区間は動作開始から骨盤が床面に対して90°回旋位に至るまでとし,1動作を100%として時間を正規化した。算出パラメータは,動作速度と各関節の最大・最小・平均関節角度,最大・最小関節角度到達時間とした。統計学的検討はIBM SPSS Statistics Ver.20にて,各パラメータを変数としたクラスター分析により寝返り動作を類型化し,各類型を独立変数,各パラメータを従属変数とした一元配置分散分析を行い,事後検定にScheffeの多重比較検定を有意水準5%で行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
首都大学東京荒川キャンパス研究安全倫理委員会の承認を得た上で実施し,研究対象者には実験開始前に書面及び口頭にて本研究の目的と内容に関する説明を行い,書面にて同意を得た。
【結果】
クラスター分析の結果,3群に類型化でき,各群をA・B・C群とするとA群が20名(66.7%),B群が6名(20.0%),C群が4名(13.3%)であった。各群で有意差を認めた項目として,A群では体幹最大屈曲角度17.4±15.1°で有意に高値,体幹最大伸展角度到達時間8.1±10.2%で有意に低値,B群では頭部最大左回旋角度20.0±14.9°,体幹最大伸展角度到達時間98.2±3.6%で有意に高値,体幹最大屈曲角度到達時間54.8±12.2%で有意に低値,C群では頭部最大左側屈角度19.0±6.3°,体幹最大左側屈角度到達時間79.8±12.2%,体幹最大右回旋角度6.4±6.2°,体幹最大左回旋角度55.3±4.4°・到達時間98.5±1.9%,体幹平均回旋角度22.5±6.6°で有意に高値,頭部最大右回旋角度到達時間91.8±15.8%,体幹最大右回旋角度到達時間25.8±20.4%で有意に低値を示した。
【考察】
一側上下肢に重量負荷した寝返り動作において,体幹に着目して定量的類型化したところ3群に分けられた。各群の特徴として,A群は体幹伸展から屈曲に早期に切り替わる体幹屈曲パターン,B群は体幹屈曲から伸展に切り替わり頭部回旋でバランスをとる体幹伸展パターン,C群は体幹右回旋から左回旋(骨盤帯が右回旋)に切り替わる体幹回旋パターンと考えられる。我々が第48回日本理学療法学術大会で発表した健常者の正常寝返り動作の定量的類型化と比較し,本研究ではA群が13%増加,B群が6%増加,C群が7%減少した。片麻痺患者では運動麻痺や体幹機能低下から動作の多様性が限局し,体幹伸筋を用いたパターンで寝返ろうとすると報告されている。本研究において体幹伸展パターンは増加したが,体幹屈曲パターンも増加していた。唯一,体幹回旋パターンが減少し,体幹回旋のみが制限される結果となった。この理由として,体幹回旋が最も一側上下肢の重さの影響を受けやすいことが考えられ,体幹の屈曲・伸展への影響は小さいと考えられた。ゆえに,本研究より片麻痺患者の非麻痺側方向への寝返り動作が困難な要因として,一側上下肢運動麻痺は主に寝返り動作時の体幹回旋運動に影響することが示唆された。今後は,片麻痺患者を対象とした定量的な検討が必要である。
【理学療法学研究としての意義】
脳卒中片麻痺患者の非麻痺側方向への寝返り動作の困難さの要因を明らかにするための基礎的研究で,効率的な理学療法評価・治療の一助になりうる。