第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 基礎理学療法 ポスター

人体構造・機能情報学3

Sat. May 31, 2014 11:20 AM - 12:10 PM ポスター会場 (基礎)

座長:中川浩(京都大学霊長類研究所統合脳システム分野)

基礎 ポスター

[0848] トレーニングの有無がトレッドミル運動による線条体と海馬のモノアミン細胞外濃度変化に与える影響

大渡昭彦1, 吉田輝2, 池田聡2, 原田雄大2, 大重匡1, 木山良二1, 前田哲男1 (1.鹿児島大学医学部保健学科理学療法学専攻, 2.鹿児島大学大学院医歯学総合研究科機能再建医学)

Keywords:マイクロダイアリシス, モノアミン, トレーニング

【はじめに,目的】我々は機能回復のプロセスに関わる脳内物質を明らかにし,その発現と運動刺激の関連を調べることにより,運動療法の効果を明らかにすることを目指して研究を行っている。今回の研究では,線条体と海馬においてモノアミンの細胞外濃度が,運動経験の有無によりどのように変化するかを明らかにする目的で実験を行った。
【方法】マイクロダイアリシス法は,自由行動下の動物の行動観察と同時に組織の生体内物質の変動を経時的かつ連続的に検討できる唯一の方法である。今回の研究ではこのマイクロダイアリシス法を使用してモノアミン(NE:ノルエピネフリン,DA:ドーパミン,5-HT:セロトニン)の細胞外濃度変化を測定した。実験には9週令のWistar系ラットの雄8匹(線条体4匹,海馬4匹)体重305±12gを使用し,イソフルランの吸入麻酔下でラットを脳定位固定装置(SR-8N Narishige)で固定し,線条体,海馬にガイドカニューレを挿入した。挿入位置はブレグマを基準に線条体は(anterior:+0.2mm,lateral:3.0mm,ventral:3.5 mm),海馬は(anterior:-3.8mm,lateral:2.0mm,ventral:1.6 mm)とし,2個のアンカービスと歯科用セメントで固定した。計測は術後3日目と7日間のトレーニング後に微量生体試料分析システム(HTEC-500,エイコム社製)を使用し,ラット用トレッドミル走行中と前後のモノアミン細胞外濃度を測定した。測定時のトレッドミルは傾斜角度0°,18m/minの速さとし,トレーニングは18m/min以上の速さで60分間継続できることを目標として,徐々に運動負荷が大きくなるように行った。
【倫理的配慮,説明と同意】今回の実験は鹿児島大学動物実験指針に従い,鹿児島大学動物実験委員会の承認を得て行った。
【結果】マイクロダイアリシスのデータ計測は,15分間隔で行われる。測定開始時が不安定になることからプローブ挿入後3時間以降のデータを採用した。運動前1時間,運動中,運動後1時間のそれぞれの平均を算出した。線条体ではNEを同定できなかったが,トレーニング前のDAは運動前1.9±1.2mVで,運動中2.1±1.4mV,運動後2.3±1.5mVであった。5-HTの運動前は0.27±0.10mVで,運動中は0.29±0.09mV,運動後は0.23±0.13mVであった。トレーニング後のDAは運動前1.7±0.8mVで,運動中1.9±1.1mV,運動後2.1±2.1mVであった。5-HTは運動前0.14±0.04mVで,運動中0.15±0.05mV,運動後0.13±0.13mVであった。トレーニング前の海馬でのNEは運動前0.05±0.05mVで,運動中は0.22±0.14mV,運動後は0.12±0.10mVであった。DAは運動前0.01±0.01mVで,運動中は0.04±0.03mV,運動後は0.05±0.04mVであった。5-HTの運動前は0.28±0.31mVで,運動中は0.47±0.55mV,運動後は0.18±0.10mVであった。トレーニング後のNEは運動前0.41±0.50mVで,運動中は0.63±0.54mV,運動後は0.39±0.08mVであった。DAは運動前0.004±0.007mVで,運動中は0.05±0.03mV,運動後は0.03±0.02mVであった。5-HTの運動前は0.18±0.10mVで,運動中は0.96±1.8mV,運動後は0.42±0.43mVであった。
【考察】今回の結果では,線条体のDA濃度は前回の報告と同様にトレッドミル運動後に上昇する傾向が確認されたが,トレーニング前後における大きな違いはみられなかった。5-HTに関してはトレーニング前の方が大きな値を示す傾向が見られた。しかし,トレッドミル運動前後の比較では違いが小さく,運動の影響が少ない可能性が考えられる。海馬ではNEと5-HTの細胞外濃度がトレーニング後に高くなる傾向を示した。今回の実験では対象数が少なく,統計学的な違いは確認できないが,運動を経験することにより,記憶や運動学習に関連のある海馬で神経活動に変化をもたらした可能性が考えられる。今後,対象数を増やしてトレーニングの影響を更に検討していきたい。
【理学療法学研究としての意義】今回の実験ではトレーニングの経験の有無が神経活動に与える影響を検討できる。このことは理学療法のエビデンスを示す基礎データをとなり,理学療法の発展に大きく貢献できると考えられる。