第49回日本理学療法学術大会

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人体構造・機能情報学3

2014年5月31日(土) 11:20 〜 12:10 ポスター会場 (基礎)

座長:中川浩(京都大学霊長類研究所統合脳システム分野)

基礎 ポスター

[0851] マウスを用いたビタミンD3の経口投与による学習能力に与える影響

中村友貴1, 前川美幸2, 矢代梓3, 野中紘士4, 森潤一5, 秋山純一3,5 (1.社会医療法人清風会日本原病院, 2.独立行政法人国立病院機構福山医療センター, 3.吉備国際大学保健医療福祉学部理学療法学科, 4.大阪府立大学総合リハビリテーション学部理学療法学科, 5.吉備国際大学大学院保健科学研究科)

キーワード:受動的回避試験, ビタミンD3, 学習能力

【はじめに,目的】
我が国における認知症患者は2010年時点で約200万人とされてきたが,今後高齢者人口の増加とともに認知症患者数もさらに増加し,2020年には325万人まで増加すると推定され,認知症の対応が重要である。日常生活を行う上で,認知症は学習能力・理解力を低下させ,理学療法を行う上で阻害因子となる。現在,ビタミンD3による認知症・学習効果に関する詳細な基礎的研究はみられない。ビタミンD3は腸管からカルシウムの吸収を促進したり,尿からのカルシウム排泄を抑制したりすることで,血中カルシウム濃度高めるという作用が知られている。また,適度な血中カルシウム濃度の安定化は精神活動に良い影響を与えると考えられている。そこで,ビタミンD3が血中カルシウム濃度を介して,学習能力にも影響を与えるのではないかと考え,本研究を行った。マウスに各種濃度のビタミンD3の経口投与を行い,受動的回避試験による学習効果と明暗弁別回避学習の習得や空間記憶に関与するとされる脳内セロトニン濃度の変動について検討を行った。
【方法】
本実験は,生後26週齢のICR系雌性マウス40匹を使用した。マウスを無作為に4群に分け,それぞれ10匹ずつの①コントロール群(無処置群),②ビタミンD3(2ng)投与群(以下2ng群),③ビタミンD3(10ng)投与群(以下10ng群),④ビタミンD3(20ng)投与群(以下20ng群)とした。②~④群に対して1日1回,ラットの体重20gに対して各種濃度のビタミンD3の経口投与を行った。経口投与開始,1週,2週後に各群10匹ずつを用いて受動的回避試験を実施した。受動的回避試験とは暗室に進入した際に電気刺激を与えることで,暗室への進入を痛みである恐怖と関連付けて記憶させて,暗室への進入に要した時間と試行の回数により学習効果判定を行う試験である。試験後,麻酔の腹腔内大量投与により屠殺し,大脳の採取を行った。受動的回避試験の結果とELISA法による大脳のセロトニン濃度測定により評価を行い,ビタミンD3の経口投与が学習能力に与える影響について比較検討を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
本動物実験は,吉備国際大学動物実験委員会の承認を得て行った。(承認番号A-11-03)
【結果】
各群間で受動的回避試験の結果を比較したところ,1週目ではコントロール群と比べて10ng群で有意に高い学習効果を示し,次いで20ng群で有意に高い学習効果を示した。しかし,2週目ではコントロール群と比べて10ng群にのみ学習効果の有意差が認められた。さらに,脳内のセロトニン濃度測定をコントロール群と比較したところ,1週目では10ng群,20ng群の順に有意に高い値を示した。さらに2週目においても,10ng群,20ng群の順に有意で高い値を示した。1週目と2週目の比較では有意に同様の高い値を示し,ビタミンD3の経口投与での持続的な効果が認められた。以上より,ビタミンD3が学習能力に有意性を与 えることが確認された。また,マウスに対してのビタミンD3の適量は低濃度投与群の10ngであることが明らかであった。
【考察】
受動的回避試験と大脳セロトニン濃度の測定結果より,ビタミンD3の経口投与が学習能力の向上作用を持つことが強く示唆された。脳内セロトニンは,明暗弁別回避学習の習得や空間記憶機能に関与するとされる。本研究は,明暗の弁別という受動的回避試験と大脳セロトニン濃度測定により学習効果判定を行ったために,高い学習効果が得られたと考えられる。また,ビタミンD3が学習能力に与える効果の至適濃度の存在が認められた。至適濃度以上の高濃度のビタミンD3投与では高カルシウム血症状態になったためではないかと考えられる。高カルシウム血症状態が精神活動の不安定化が引き起すとされており,このことが学習能力に悪影響を与えたのではないかと考えた。
今後の展望として,ビタミンD3投与による学習効果向上が認められたことから,ビタミンD3の経口投与が認知症の予防や治療にも応用できるのではないかと考えられる。今後,Y字型迷路試験や水探索試験のように学習・記憶行動の様々な評価法で学習効果判定を行うことで,ビタミンD3経口投与による学習効果の更なる有効性が確認出来るのではないかと考える。
【理学療法学研究としての意義】
マウスを用いてビタミンD3経口投与による学習効果に与える影響について,受動的回避試験と脳内セロトニン濃度測定により検討した。その結果,ビタミンD3経口投与が学習効果の向上作用を持つことが明らかになった。高濃度のビタミンD3経口投与では高い学習効果が得られなかったことから,ビタミンD3の経口投与には至適濃度が存在することが示唆された。ビタミンD3の経口投与により学習効果が改善されることで,理学療法の各種治療が効率的に行えると考える。