[0853] 重複障害を有する慢性心不全患者における入院期の日常生活活動の検討
キーワード:慢性心不全, 重複障害, 日常生活活動
【はじめに,目的】
超高齢化や医療技術の進歩による虚血性心疾患の救命率の向上に伴い,慢性心不全(CHF)患者は増加している。また近年では高齢心疾患患者は,心機能障害に加えて肢体不自由障害や内部障害を合併した重複障害患者が増加していることが報告されている。CHFに対する理学療法の有用性は先行研究で多く検討されているが,重複障害を有するCHF患者を対象とした報告は少ない。そこで本研究は,重複障害を有するCHF患者を対象に背景因子と入院期における理学療法実施前後の日常生活活動(ADL)について明らかにすることを目的とした。
【方法】
診療記録より後方視的に調査した。対象は,2012年4月~2013年9月まで当院において理学療法を実施したCHF患者のうち,死亡例,認知症患者を除外した41例(78.5±8.4歳)とした。患者背景因子として年齢,性別,入院期間,転帰,入院前の自立度,入院時脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP),左室駆出率(LVEF),NYHA心機能分類,併存疾患(高血圧,糖尿病,腎臓病)の有無を調査した。理学療法実施前後のADLは,機能的自立度評価法(FIM)を用いて評価した。各調査項目を重複障害のある群(重複あり群)と重複障害のない群(重複なし群)に分けて比較検討した。この場合,重複障害は疾患別理学療法をもとに運動器疾患,脳血管疾患,呼吸器疾患の既往があるものとた。統計学的検討として,患者背景因子には2標本t検定,Mann-Whitneyの検定およびχ2検定を用いた。FIMの比較は,重複の有無と測定時期(理学療法実施前後)の2要因による2元配置分散分析を用いた。有意水準はすべて5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言を遵守し,対象者に不利益が生じないよう全て匿名化されたデータを使用し検討を行った。
【結果】
重複障害を有するCHFのうち,運動器疾患の既往は12例,脳血管疾患の既往は8例,呼吸器疾患の既往は9例であった。また,1人で2つ以上の重複障害を有する患者は5例であった。患者背景因子に関して年齢,性別,入院期間,転帰,BNP,LVEF,NYHA心機能分類,併存疾患においては2群間で有意な差は認めなかった。一方,重複なし群に比べて重複あり群の入院前の自立度は低下し,何らかの介助を要する者が多かった(p<0.05)。FIMについて2群間で交互作用は認めなかった。理学療法開始時と終了時の各測定時期において,重複なし群に比べて重複あり群のFIMは有意に低かった(F=17.2,p<0.001)。しかし,2群とも理学療法開始時に比べて終了時のFIMは改善傾向であった(F=4.5,p<0.05)。
【考察】
本研究では入院期における重複障害を有するCHF患者のADLについて検討した。米澤らは,運動機能障害を合併しているCHF患者でも理学療法により入院期のADLが改善したと報告し,運動機能障害やADL障害を把握し,適切な理学療法介入を選択する必要があると述べている。今回の結果において,重複障害を有するCHF患者のADLは,重複障害のないCHF患者に比べて入院前より低下傾向であり,入院期における到達度も低くかった。しかし,重複障害のないCHF患者と同様に理学療法実施前後でADLは改善し重複障害があっても効果的な理学療法介入が可能であることが示唆された。重複障害を有するCHF患者に対して,十分なリスク管理と共に肢体不自由障害や内部障害,ADL障害を評価して個別の目標設定のもと症例に応じた理学療法を実践していことが重要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】
超高齢化社会が進む中,重複障害を有するCHF患者は増加してくることが予想される。今後,重複障害を有するCHF患者を対象とした理学療法介入の有効性を検討する必要がある。今回の結果より,入院期において重複障害を有するCHF患者であっても理学療法によりADLの改善を促すことが示唆された。本研究は,高齢CHF患者に対して理学療法が有効であることを示す一助になると考える。
超高齢化や医療技術の進歩による虚血性心疾患の救命率の向上に伴い,慢性心不全(CHF)患者は増加している。また近年では高齢心疾患患者は,心機能障害に加えて肢体不自由障害や内部障害を合併した重複障害患者が増加していることが報告されている。CHFに対する理学療法の有用性は先行研究で多く検討されているが,重複障害を有するCHF患者を対象とした報告は少ない。そこで本研究は,重複障害を有するCHF患者を対象に背景因子と入院期における理学療法実施前後の日常生活活動(ADL)について明らかにすることを目的とした。
【方法】
診療記録より後方視的に調査した。対象は,2012年4月~2013年9月まで当院において理学療法を実施したCHF患者のうち,死亡例,認知症患者を除外した41例(78.5±8.4歳)とした。患者背景因子として年齢,性別,入院期間,転帰,入院前の自立度,入院時脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP),左室駆出率(LVEF),NYHA心機能分類,併存疾患(高血圧,糖尿病,腎臓病)の有無を調査した。理学療法実施前後のADLは,機能的自立度評価法(FIM)を用いて評価した。各調査項目を重複障害のある群(重複あり群)と重複障害のない群(重複なし群)に分けて比較検討した。この場合,重複障害は疾患別理学療法をもとに運動器疾患,脳血管疾患,呼吸器疾患の既往があるものとた。統計学的検討として,患者背景因子には2標本t検定,Mann-Whitneyの検定およびχ2検定を用いた。FIMの比較は,重複の有無と測定時期(理学療法実施前後)の2要因による2元配置分散分析を用いた。有意水準はすべて5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言を遵守し,対象者に不利益が生じないよう全て匿名化されたデータを使用し検討を行った。
【結果】
重複障害を有するCHFのうち,運動器疾患の既往は12例,脳血管疾患の既往は8例,呼吸器疾患の既往は9例であった。また,1人で2つ以上の重複障害を有する患者は5例であった。患者背景因子に関して年齢,性別,入院期間,転帰,BNP,LVEF,NYHA心機能分類,併存疾患においては2群間で有意な差は認めなかった。一方,重複なし群に比べて重複あり群の入院前の自立度は低下し,何らかの介助を要する者が多かった(p<0.05)。FIMについて2群間で交互作用は認めなかった。理学療法開始時と終了時の各測定時期において,重複なし群に比べて重複あり群のFIMは有意に低かった(F=17.2,p<0.001)。しかし,2群とも理学療法開始時に比べて終了時のFIMは改善傾向であった(F=4.5,p<0.05)。
【考察】
本研究では入院期における重複障害を有するCHF患者のADLについて検討した。米澤らは,運動機能障害を合併しているCHF患者でも理学療法により入院期のADLが改善したと報告し,運動機能障害やADL障害を把握し,適切な理学療法介入を選択する必要があると述べている。今回の結果において,重複障害を有するCHF患者のADLは,重複障害のないCHF患者に比べて入院前より低下傾向であり,入院期における到達度も低くかった。しかし,重複障害のないCHF患者と同様に理学療法実施前後でADLは改善し重複障害があっても効果的な理学療法介入が可能であることが示唆された。重複障害を有するCHF患者に対して,十分なリスク管理と共に肢体不自由障害や内部障害,ADL障害を評価して個別の目標設定のもと症例に応じた理学療法を実践していことが重要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】
超高齢化社会が進む中,重複障害を有するCHF患者は増加してくることが予想される。今後,重複障害を有するCHF患者を対象とした理学療法介入の有効性を検討する必要がある。今回の結果より,入院期において重複障害を有するCHF患者であっても理学療法によりADLの改善を促すことが示唆された。本研究は,高齢CHF患者に対して理学療法が有効であることを示す一助になると考える。