[0861] 回復期リハビリテーション病棟入院患者におけるリハビリテーションへの参加意欲が自宅退院に与える影響
キーワード:回復期, 自宅退院, リハビリ参加意欲
【はじめに,目的】
回復期リハビリテーション病棟(回復期リハ病棟)における自宅退院には,ADLだけでなく,家族介護力などの社会的要因も関連する。また,リハビリテーションへの参加意欲(リハ参加意欲)はADL帰結と正の関連があるが,自宅退院に関しては未だ明らかでない。回復期リハ病棟におけるリハ参加意欲と家族要因を含めた社会的要因が,自宅退院に及ぼす影響について,多施設共同データを用いて検討することを本研究の目的とした。
【方法】
回復期リハ病棟5施設の入院患者200名(性別:男性70名・女性130名)(年齢:78.2±12.0歳)(疾患種別:脳卒中67名・運動器疾患77名・廃用症候群50名・脊髄損傷6名)を対象とした。除外基準は入院期間が30日未満,重度の意識障害や認知障害,高次脳機能障害または不安定な全身状態により自発的なリハが行えない者とした。評価項目は,基本属性として年齢,性別,疾患種別を用いた。個人要因として,入院時FIM運動項目合計(軽度:65点以上,中等度:39~64点,重度:38点以下),入院時FIM認知項目合計(軽度:25点以上,中等度:15~24点,重度:14点以下),入院時認知障害の有無,Pittsburgh Rehabilitation Participation Scale(PRPS)を用いた。認知障害の判定はMini Mental State Examination 24点未満,または改訂長谷川式簡易知能評価スケール20点未満の者を認知障害ありとした。PRPSはLenzeらにより作成されたリハ参加意欲指標であり,セラピストが患者のリハへの参加態度を拒否,受身で促しが必要,積極的等6段階で捉える指標である。その入院期間中の平均値を用い,4以上・未満に分けた。社会的要因として,病前の運動習慣の有無,自主トレーニング(自主トレ)の有無,家族介護力の有無,入院中の家族介護・支援の有無を用いた。家族介護力は自宅にて常時介護者として関われる人数が1人以上の者を介護力ありとした。家族介護は患者のADL介護を家族が行っている者を介護ありとし,家族支援は家族によるリハへの励ましや心理的サポートを行っている者を支援ありとした。リハ要因としてセラピストによる患者教育の有無,家族教育の有無を用いた。統計解析は各項目についてクロス表分析(χ2検定)を行った。その後,疾患種別を調整変数とし,クロス表分析にて有意差を認めた11項目を用いてStepwise法によるロジスティック回帰分析を行った。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究で用いたデータは日常臨床上のデータであり,各施設にて匿名化処理をしているため,研究倫理審査上の問題はない。
【結果】
自宅退院群は114名(57.0%)であった。クロス表分析の結果,自宅退院群は自宅以外への退院群に比べ,75歳未満の者が多く(P<.01),FIMやPRPSが良好であり(P<.01),認知障害が少なかった(P<.01)。また,病前の運動習慣がある者が多く(P<.05),介護力が充実しており(P<.01),入院中の自主トレや家族支援が多く(P<.01),患者,家族教育を行っている者が多かった(P<.01)。ロジスティック回帰分析の結果,自宅退院が多くなる要因は,75歳以上に比べ75歳未満でオッズ比3.8(95% CI:1.4-10.5),入院時FIM運動項目が重度に比べ,中等度でオッズ比2.9(1.1-7.2),または軽度でオッズ比8.0(2.2-28.3),入院時FIM認知項目が重度に比べ軽度でオッズ比5.0(1.8-14.4)であった。これらの要因を同時投入しても,PRPSが4未満に比べ4以上でオッズ比2.5(1.1-5.9),家族介護力が1人未満に比べ1人以上でオッズ比3.0(1.3-7.2),家族教育がないに比べあるでオッズ比12.8(4.7-35.3)であった(判別的中率83.0%)。
【考察】
今回,FIMを調整してもリハ参加意欲が選択されていることから,ADLや家族介護力とは独立してリハ参加意欲が自宅退院に関連することを示唆している。質的研究において,リハ意欲に家族要因が関連することが報告されており,例えば,自宅退院が患者・家族双方において共通目標になっている,または共有化したという良好な関係性が,高いリハ参加意欲に作用した可能性が考えられる。また,家族教育が独立して強く自宅退院に関連したことは,セラピストが家族に対して,リハの目的や家族が関わることの必要性の説明を行うことや,具体的な介護方法や自主トレの指導を行うなど,家族がリハに関わることを目的とした教育的介入を行うことの重要性を示唆しているものと考える。
【理学療法学研究としての意義】
本邦の理学療法研究において患者のリハ参加意欲をみた研究報告は殆ど無い。本研究はその数少ないリハ参加意欲に関する知見を提供するとともに,多施設共同研究として施設間特性の偏りを除いた知見を提供するため,理学療法研究として意義あるものと考えられる。
回復期リハビリテーション病棟(回復期リハ病棟)における自宅退院には,ADLだけでなく,家族介護力などの社会的要因も関連する。また,リハビリテーションへの参加意欲(リハ参加意欲)はADL帰結と正の関連があるが,自宅退院に関しては未だ明らかでない。回復期リハ病棟におけるリハ参加意欲と家族要因を含めた社会的要因が,自宅退院に及ぼす影響について,多施設共同データを用いて検討することを本研究の目的とした。
【方法】
回復期リハ病棟5施設の入院患者200名(性別:男性70名・女性130名)(年齢:78.2±12.0歳)(疾患種別:脳卒中67名・運動器疾患77名・廃用症候群50名・脊髄損傷6名)を対象とした。除外基準は入院期間が30日未満,重度の意識障害や認知障害,高次脳機能障害または不安定な全身状態により自発的なリハが行えない者とした。評価項目は,基本属性として年齢,性別,疾患種別を用いた。個人要因として,入院時FIM運動項目合計(軽度:65点以上,中等度:39~64点,重度:38点以下),入院時FIM認知項目合計(軽度:25点以上,中等度:15~24点,重度:14点以下),入院時認知障害の有無,Pittsburgh Rehabilitation Participation Scale(PRPS)を用いた。認知障害の判定はMini Mental State Examination 24点未満,または改訂長谷川式簡易知能評価スケール20点未満の者を認知障害ありとした。PRPSはLenzeらにより作成されたリハ参加意欲指標であり,セラピストが患者のリハへの参加態度を拒否,受身で促しが必要,積極的等6段階で捉える指標である。その入院期間中の平均値を用い,4以上・未満に分けた。社会的要因として,病前の運動習慣の有無,自主トレーニング(自主トレ)の有無,家族介護力の有無,入院中の家族介護・支援の有無を用いた。家族介護力は自宅にて常時介護者として関われる人数が1人以上の者を介護力ありとした。家族介護は患者のADL介護を家族が行っている者を介護ありとし,家族支援は家族によるリハへの励ましや心理的サポートを行っている者を支援ありとした。リハ要因としてセラピストによる患者教育の有無,家族教育の有無を用いた。統計解析は各項目についてクロス表分析(χ2検定)を行った。その後,疾患種別を調整変数とし,クロス表分析にて有意差を認めた11項目を用いてStepwise法によるロジスティック回帰分析を行った。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究で用いたデータは日常臨床上のデータであり,各施設にて匿名化処理をしているため,研究倫理審査上の問題はない。
【結果】
自宅退院群は114名(57.0%)であった。クロス表分析の結果,自宅退院群は自宅以外への退院群に比べ,75歳未満の者が多く(P<.01),FIMやPRPSが良好であり(P<.01),認知障害が少なかった(P<.01)。また,病前の運動習慣がある者が多く(P<.05),介護力が充実しており(P<.01),入院中の自主トレや家族支援が多く(P<.01),患者,家族教育を行っている者が多かった(P<.01)。ロジスティック回帰分析の結果,自宅退院が多くなる要因は,75歳以上に比べ75歳未満でオッズ比3.8(95% CI:1.4-10.5),入院時FIM運動項目が重度に比べ,中等度でオッズ比2.9(1.1-7.2),または軽度でオッズ比8.0(2.2-28.3),入院時FIM認知項目が重度に比べ軽度でオッズ比5.0(1.8-14.4)であった。これらの要因を同時投入しても,PRPSが4未満に比べ4以上でオッズ比2.5(1.1-5.9),家族介護力が1人未満に比べ1人以上でオッズ比3.0(1.3-7.2),家族教育がないに比べあるでオッズ比12.8(4.7-35.3)であった(判別的中率83.0%)。
【考察】
今回,FIMを調整してもリハ参加意欲が選択されていることから,ADLや家族介護力とは独立してリハ参加意欲が自宅退院に関連することを示唆している。質的研究において,リハ意欲に家族要因が関連することが報告されており,例えば,自宅退院が患者・家族双方において共通目標になっている,または共有化したという良好な関係性が,高いリハ参加意欲に作用した可能性が考えられる。また,家族教育が独立して強く自宅退院に関連したことは,セラピストが家族に対して,リハの目的や家族が関わることの必要性の説明を行うことや,具体的な介護方法や自主トレの指導を行うなど,家族がリハに関わることを目的とした教育的介入を行うことの重要性を示唆しているものと考える。
【理学療法学研究としての意義】
本邦の理学療法研究において患者のリハ参加意欲をみた研究報告は殆ど無い。本研究はその数少ないリハ参加意欲に関する知見を提供するとともに,多施設共同研究として施設間特性の偏りを除いた知見を提供するため,理学療法研究として意義あるものと考えられる。