[0864] ホッパックとストレッチングの同時施行によりストレッチング効果の向上とホットパック施行時間の短縮は可能か?
Keywords:ホットパック, ストレッチング, 同時施行
【はじめに,目的】
表在性温熱療法であるホットパック(HP)の筋伸張性向上効果については否定的な報告が多いが,ストレッチングの前処置としてのHPの有効性については肯定的な報告がある(川口,2013.)。その理由として,HPにより皮膚へ温熱刺激が入力されることで門制御理論に基づきストレッチングに伴う伸張痛が軽減され,筋伸張性が向上しなくてもストレッチングが実施しやすくなるとの仮説が提示されている。この仮説が正しければ,HPとストレッチングを同時に施行した方が,温熱刺激の入力に伴う門制御理論に基づいた鎮痛作用を更に高められ,より効果的なストレッチングが可能となるかもしれない。また,HPに伴う皮膚温の上昇はHP開始後5分程度でピークに達する(Behrens, 1996.)ため,前述の門制御理論に基づいた鎮痛作用もHP開始後5分程度で最大となる可能性がある。従って,HPとストレッチングの同時施行によりストレッチング開始までのHP施行時間の短縮が可能かもしれない。以上から本研究では,HPとストレッチングの同時施行によりストレッチング効果の向上とHP施行時間の短縮が可能か検討することを目的とした。
【方法】
健常者18名(女性9名,男性9名,20.9±1.4歳)を対象とし,以下の2つの実験を実施順序をランダムとして1日以上の間隔を空けて実施した。なお,ストレッチングの標的筋は左右のハムストリングスとし,HPは乾式HP(OGパックスKT-541,OG技研)を用いた。<実験1>対象者は,両大腿後面に未加温のHPを装着し,10分間の安静背臥位保持(馴化)の後に事前評価として後述する3つの評価項目の測定を実施した(どの項目も両下肢で実施)。その後,HPの加温(HPの表面温度は42℃)を開始し,5分後,20分後に再度測定を実施した。<実験2>対象者は両大腿後面にHPを装着せず,それ以外は実験1と同一の手順で実験を実施した。評価項目について,大腿後面皮膚温については,放射温度計(Fluke-572,Fluke)を用いて,各実験での3評価時点での大腿後面中央部の皮膚温を測定した。その上で,各実験での3評価時点間の値をTukey-Kramer法にて比較した。膝最大自動伸展角度については,対象者に股・膝90度屈曲位での背臥位から膝最大自動伸展運動を行わせ,その際に矢状面上で撮影されたデジタル画像から画像処理ソフト(ImageJ 1.43u,NIH)を用いて大腿骨大転子,大腿骨外側上顆,腓骨外果を指標とした膝最大自動伸展角度を測定した。その上で,各実験での事前評価時の測定値を基準値として5分後および20分後の基準値からの変化量を算出し,各実験での3時点間の値をTukey-Kramer法にて比較した。膝最大自動伸展運動時の大腿後面の伸張痛(伸張痛)については,各実験での膝最大自動伸展運動時の伸張痛の程度をNumeric Rating Scale(伸張痛の程度:無し0~最大10)により対象者から聴取した。その上で,各実験での3時点間の値をSteel-Dwass法にて比較した。全ての統計学的検定の有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者に対して本研究の目的や本研究への参加同意及び同意撤回の自由,プライバシー保護の徹底について予め十分に説明し,書面にて同意を得た。
【結果】
実験1では,大腿後面皮膚温と膝最大自動伸展角度の変化量(平均値)については,事前評価時(31.8℃,基準値0)と比較して5分後(38.6℃, 3.2度),20分後(38.2℃, 4.6度)での有意な増加を認めたものの,5分後と20分後との間では明らかな違いを認めなかった。伸張痛(中央値)については,事前評価時(3)と比較して5分後(2),20分後(2)での有意な低下を認めたものの,5分後と20分後との間では明らかな違いを認めなかった。一方,実験2では,いずれの評価項目についても3時点間での明らかな違いを認めなかった。
【考察】
本研究では,実験1の全ての評価項目において,事前評価と比較した5分後および20分後での有意な変化を認めただけでなく,5分後と20分後との間では明らかな違いを認めなかった。少なくとも,HP開始5分後という短時間で筋の加温に伴う筋伸張性向上効果が得られるとは考え難い。これらの所見は,HPとストレッチングの同時施行では,HPによる温熱刺激はHP開始5分後の時点で既に十分に入力されており,且つこの時点で門制御理論に基づいた伸張痛の十分な軽減が得られ,その結果としてストレッチング効果の向上が得られたことを示唆していると考える。今後,ストレッチングの前処置としてHPを適用した場合との効果の比較検討が必要である。
【理学療法学研究としての意義】
本研究では,HPとストレッチングの同時施行によりストレッチング効果が向上するだけでなく,HP施行時間の短縮も可能となることを示し得た。本結果は,ストレッチングの新たな治療戦略の構築に寄与し得る内容であり,臨床理学療法上,意義深いと考える。
表在性温熱療法であるホットパック(HP)の筋伸張性向上効果については否定的な報告が多いが,ストレッチングの前処置としてのHPの有効性については肯定的な報告がある(川口,2013.)。その理由として,HPにより皮膚へ温熱刺激が入力されることで門制御理論に基づきストレッチングに伴う伸張痛が軽減され,筋伸張性が向上しなくてもストレッチングが実施しやすくなるとの仮説が提示されている。この仮説が正しければ,HPとストレッチングを同時に施行した方が,温熱刺激の入力に伴う門制御理論に基づいた鎮痛作用を更に高められ,より効果的なストレッチングが可能となるかもしれない。また,HPに伴う皮膚温の上昇はHP開始後5分程度でピークに達する(Behrens, 1996.)ため,前述の門制御理論に基づいた鎮痛作用もHP開始後5分程度で最大となる可能性がある。従って,HPとストレッチングの同時施行によりストレッチング開始までのHP施行時間の短縮が可能かもしれない。以上から本研究では,HPとストレッチングの同時施行によりストレッチング効果の向上とHP施行時間の短縮が可能か検討することを目的とした。
【方法】
健常者18名(女性9名,男性9名,20.9±1.4歳)を対象とし,以下の2つの実験を実施順序をランダムとして1日以上の間隔を空けて実施した。なお,ストレッチングの標的筋は左右のハムストリングスとし,HPは乾式HP(OGパックスKT-541,OG技研)を用いた。<実験1>対象者は,両大腿後面に未加温のHPを装着し,10分間の安静背臥位保持(馴化)の後に事前評価として後述する3つの評価項目の測定を実施した(どの項目も両下肢で実施)。その後,HPの加温(HPの表面温度は42℃)を開始し,5分後,20分後に再度測定を実施した。<実験2>対象者は両大腿後面にHPを装着せず,それ以外は実験1と同一の手順で実験を実施した。評価項目について,大腿後面皮膚温については,放射温度計(Fluke-572,Fluke)を用いて,各実験での3評価時点での大腿後面中央部の皮膚温を測定した。その上で,各実験での3評価時点間の値をTukey-Kramer法にて比較した。膝最大自動伸展角度については,対象者に股・膝90度屈曲位での背臥位から膝最大自動伸展運動を行わせ,その際に矢状面上で撮影されたデジタル画像から画像処理ソフト(ImageJ 1.43u,NIH)を用いて大腿骨大転子,大腿骨外側上顆,腓骨外果を指標とした膝最大自動伸展角度を測定した。その上で,各実験での事前評価時の測定値を基準値として5分後および20分後の基準値からの変化量を算出し,各実験での3時点間の値をTukey-Kramer法にて比較した。膝最大自動伸展運動時の大腿後面の伸張痛(伸張痛)については,各実験での膝最大自動伸展運動時の伸張痛の程度をNumeric Rating Scale(伸張痛の程度:無し0~最大10)により対象者から聴取した。その上で,各実験での3時点間の値をSteel-Dwass法にて比較した。全ての統計学的検定の有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者に対して本研究の目的や本研究への参加同意及び同意撤回の自由,プライバシー保護の徹底について予め十分に説明し,書面にて同意を得た。
【結果】
実験1では,大腿後面皮膚温と膝最大自動伸展角度の変化量(平均値)については,事前評価時(31.8℃,基準値0)と比較して5分後(38.6℃, 3.2度),20分後(38.2℃, 4.6度)での有意な増加を認めたものの,5分後と20分後との間では明らかな違いを認めなかった。伸張痛(中央値)については,事前評価時(3)と比較して5分後(2),20分後(2)での有意な低下を認めたものの,5分後と20分後との間では明らかな違いを認めなかった。一方,実験2では,いずれの評価項目についても3時点間での明らかな違いを認めなかった。
【考察】
本研究では,実験1の全ての評価項目において,事前評価と比較した5分後および20分後での有意な変化を認めただけでなく,5分後と20分後との間では明らかな違いを認めなかった。少なくとも,HP開始5分後という短時間で筋の加温に伴う筋伸張性向上効果が得られるとは考え難い。これらの所見は,HPとストレッチングの同時施行では,HPによる温熱刺激はHP開始5分後の時点で既に十分に入力されており,且つこの時点で門制御理論に基づいた伸張痛の十分な軽減が得られ,その結果としてストレッチング効果の向上が得られたことを示唆していると考える。今後,ストレッチングの前処置としてHPを適用した場合との効果の比較検討が必要である。
【理学療法学研究としての意義】
本研究では,HPとストレッチングの同時施行によりストレッチング効果が向上するだけでなく,HP施行時間の短縮も可能となることを示し得た。本結果は,ストレッチングの新たな治療戦略の構築に寄与し得る内容であり,臨床理学療法上,意義深いと考える。