[0866] 前輪ユニット車いすを用いた機能的電気刺激サイクリングの動作特性
Keywords:機能的電気刺激, 自転車, リンクモデル
【はじめに,目的】
脊髄損傷者では心血管フィットネス,筋萎縮,麻痺肢の循環低下などの二次的な退行変化がしばしば増加する。近年,機能的電気刺激(FES)ローイング,FESサイクリング,FES下肢エルゴメータなどによる下肢筋を含めたトレーニングがこれらに有効であることが報告されている。これまで国内外のFESサイクリングに関する先行研究では前輪と車いすが一体となったものがほとんどであり,リカンベントタイプのようにペダルの位置が座面よりも上部に位置しているものが多く,手軽にサイクリングできるものはなかった。われわれは座面以下の高さでの下肢ペダリングを目的とした二輪型前輪ユニットを開発し,下肢麻痺者が標準型車いすに座ったまま接続させてFESサイクリングによる移動を可能とした。本研究の目的は,下肢麻痺者への実用化に向け,製作した前輪ユニット車いす,制御装置,三次元動作計測装置,6軸力覚センサなどを用いて,FESサイクリングを動力学的に解析することである。
【方法】
被験者は健常男性1名であり,身長181cm,体重74kgである。FESサイクリングの制御システムは,クランク軸に取り付けたロータリーエンコーダでクランク角度を検出しコンピュータに送信し,得られた角度に応じて表面電極を介して神経・筋を刺激しサイクリング運動を生じさせる。FES装置にはパルスキュアー・プロKR-7(OG技術社製)(最大出力電圧80V)を用い,単極性矩形波,周波数50Hzで刺激した。先行研究を参考に,刺激筋は両側の大腿四頭筋およびハムストリングスとし,刺激強度は10分の3~4とした。電気刺激のタイミングの調整にはわれわれが製作したリレー・スイッチ回路を用いた。FES使用時は被験者には全く力をいれないようにしてもらい,FES不使用時は使用時と同じ速さになるようにペースを維持してもらった。計測時期はペダリングを開始して直進してから回転速度が60回転/分に安定してから5サイクル,各3回ずつ(FES有無の両方において)とした。球体反射マーカの貼付位置は左右の大転子,膝関節裂隙,外果,クランク軸,ペダル軸とし,VICON370を用いて位置データを計測した。また,前輪ユニットのペダル部分に6軸力覚センサを取り付け,足部の反力を記録した。これらのデータを2次元剛体リンクモデルに代入し股,膝,足関節のモーメントを算出した。算出したデータのFESの有無による群間の差をみるために,ペダリング周期ごとの極値を採用し,反復測定分散分析を行った。統計学的有意水準は危険率5%未満とした。さらに下肢関節の仕事とFESサイクルのクランクに入力された機械的仕事量を各関節で行われる仕事量の総和で除すことでサイクリング時の運動効率を算出した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究では,世界医師会によるヘルシンキ宣言の趣旨に沿った医の倫理的配慮の下に実施した。被験者には十分な説明をするとともに書面で同意を得た。
【結果】
大腿四頭筋とハムストリングスの刺激のみでFESサイクリングが可能であった。サイクリング時の関節角度および関節モーメントは各関節でFESの有無による有意な差はなかった。各関節モーメントを観察するとペダリングにはほとんど伸展(底屈)方向にモーメントが働いていた。運動効率はFESなしで79.9%,FESありで62.2%であった。
【考察】
FESサイクリングのパフォーマンスは,座位ポジション,身体的パラメータ,表面刺激の状態,ペダル回転レートなどの影響を受ける。今回の実験ではクランク軸がリカンベントタイプより低くても,大殿筋を除外して大腿四頭筋とハムストリングスの刺激のみでサイクリングが可能であることが確認された。本実験では,ペダリングでは伸展方向へのパワーが重要であることが推察されたが,発進時のパワーなどは検討していない。電気刺激による筋疲労の問題,身体的パラメータに応じたクランク軸の位置調整の必要性など,運動障害例に実用化させるためには解決すべき問題があり,今後の検討を要する。一方,FESサイクリングでは代謝効率や出力が低いことが報告されている。今回計測した運動効率も効率の指標のひとつとして今後も検討していきたい。
【理学療法学研究としての意義】
FESサイクリングは脊髄損傷対麻痺者のみならず脳卒中片麻痺者にも健康維持・増進に貢献することが期待されている。今回開発した装置は,車いすでの移動やレクリエーションを行うことで下肢トレーニングが可能となるものであり,QOLの向上も期待できる。研究により残された課題が解決されれば実用化に至る可能性が高い。
脊髄損傷者では心血管フィットネス,筋萎縮,麻痺肢の循環低下などの二次的な退行変化がしばしば増加する。近年,機能的電気刺激(FES)ローイング,FESサイクリング,FES下肢エルゴメータなどによる下肢筋を含めたトレーニングがこれらに有効であることが報告されている。これまで国内外のFESサイクリングに関する先行研究では前輪と車いすが一体となったものがほとんどであり,リカンベントタイプのようにペダルの位置が座面よりも上部に位置しているものが多く,手軽にサイクリングできるものはなかった。われわれは座面以下の高さでの下肢ペダリングを目的とした二輪型前輪ユニットを開発し,下肢麻痺者が標準型車いすに座ったまま接続させてFESサイクリングによる移動を可能とした。本研究の目的は,下肢麻痺者への実用化に向け,製作した前輪ユニット車いす,制御装置,三次元動作計測装置,6軸力覚センサなどを用いて,FESサイクリングを動力学的に解析することである。
【方法】
被験者は健常男性1名であり,身長181cm,体重74kgである。FESサイクリングの制御システムは,クランク軸に取り付けたロータリーエンコーダでクランク角度を検出しコンピュータに送信し,得られた角度に応じて表面電極を介して神経・筋を刺激しサイクリング運動を生じさせる。FES装置にはパルスキュアー・プロKR-7(OG技術社製)(最大出力電圧80V)を用い,単極性矩形波,周波数50Hzで刺激した。先行研究を参考に,刺激筋は両側の大腿四頭筋およびハムストリングスとし,刺激強度は10分の3~4とした。電気刺激のタイミングの調整にはわれわれが製作したリレー・スイッチ回路を用いた。FES使用時は被験者には全く力をいれないようにしてもらい,FES不使用時は使用時と同じ速さになるようにペースを維持してもらった。計測時期はペダリングを開始して直進してから回転速度が60回転/分に安定してから5サイクル,各3回ずつ(FES有無の両方において)とした。球体反射マーカの貼付位置は左右の大転子,膝関節裂隙,外果,クランク軸,ペダル軸とし,VICON370を用いて位置データを計測した。また,前輪ユニットのペダル部分に6軸力覚センサを取り付け,足部の反力を記録した。これらのデータを2次元剛体リンクモデルに代入し股,膝,足関節のモーメントを算出した。算出したデータのFESの有無による群間の差をみるために,ペダリング周期ごとの極値を採用し,反復測定分散分析を行った。統計学的有意水準は危険率5%未満とした。さらに下肢関節の仕事とFESサイクルのクランクに入力された機械的仕事量を各関節で行われる仕事量の総和で除すことでサイクリング時の運動効率を算出した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究では,世界医師会によるヘルシンキ宣言の趣旨に沿った医の倫理的配慮の下に実施した。被験者には十分な説明をするとともに書面で同意を得た。
【結果】
大腿四頭筋とハムストリングスの刺激のみでFESサイクリングが可能であった。サイクリング時の関節角度および関節モーメントは各関節でFESの有無による有意な差はなかった。各関節モーメントを観察するとペダリングにはほとんど伸展(底屈)方向にモーメントが働いていた。運動効率はFESなしで79.9%,FESありで62.2%であった。
【考察】
FESサイクリングのパフォーマンスは,座位ポジション,身体的パラメータ,表面刺激の状態,ペダル回転レートなどの影響を受ける。今回の実験ではクランク軸がリカンベントタイプより低くても,大殿筋を除外して大腿四頭筋とハムストリングスの刺激のみでサイクリングが可能であることが確認された。本実験では,ペダリングでは伸展方向へのパワーが重要であることが推察されたが,発進時のパワーなどは検討していない。電気刺激による筋疲労の問題,身体的パラメータに応じたクランク軸の位置調整の必要性など,運動障害例に実用化させるためには解決すべき問題があり,今後の検討を要する。一方,FESサイクリングでは代謝効率や出力が低いことが報告されている。今回計測した運動効率も効率の指標のひとつとして今後も検討していきたい。
【理学療法学研究としての意義】
FESサイクリングは脊髄損傷対麻痺者のみならず脳卒中片麻痺者にも健康維持・増進に貢献することが期待されている。今回開発した装置は,車いすでの移動やレクリエーションを行うことで下肢トレーニングが可能となるものであり,QOLの向上も期待できる。研究により残された課題が解決されれば実用化に至る可能性が高い。