第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 運動器理学療法 ポスター

骨・関節19

Sat. May 31, 2014 11:20 AM - 12:10 PM ポスター会場 (運動器)

座長:田中創(九州医療スポーツ専門学校理学療法学科)

運動器 ポスター

[0868] 姿勢移行課題における人工膝関節全置換術後患者の術側および非術側下肢の筋活動パターン

小林巧1, 山中正紀1, 神成透2, 堀内秀人3, 松井直人2, 角瀬邦晃2, 野陳佳織4, 大川麻衣子5 (1.北海道大学大学院保健科学研究院, 2.北海道整形外科記念病院, 3.NTT東日本札幌病院, 4.時計台記念病院, 5.札幌山の上病院)

Keywords:人工膝関節全置換術, 姿勢制御, 筋活動

【はじめに,目的】人工膝関節全置換術(以下,TKA)は重篤な変形性膝関節症患者に対して疼痛除去と機能改善を目的として施行される。これまで,TKA後の筋活動に関して,膝伸展運動時や歩行時の大腿二頭筋の筋活動量が増加するなど,筋活動量に関する報告は散見されるが,筋活動開始時間などの筋活動パターンに関する報告は見当たらない。足関節不安定症患者や腰痛症患者など局所障害を有する患者は正常とは異なった筋活動パターンを示すことや,膝蓋大腿部痛患者では障害側より非障害側の筋活動パターンが変化することがこれまで報告されているが,TKA患者の筋活動パターンについては不明である。本研究の目的は,両脚立位から片脚立位へ移行する姿勢移行課題を用いて,TKA患者の術側および非術側の筋活動開始時間について調査し,TKA患者の筋活動パターンについて検討することである。
【方法】対象はTKA後4週が経過した10名(TKA群:男2女8名,平均年齢68.9歳)と年齢をマッチさせた健常高齢者10名(健常群:男1女9名,平均年齢68.0歳)とした。施行動作は,音刺激開始後すぐに両脚立位から片脚立位となる動作とした。筋活動開始時間の測定はNoraxon社製筋電計を使用し,導出筋は支持側の大殿筋,中殿筋,長内転筋,外側広筋,大腿二頭筋,前脛骨筋および外側腓腹筋とした。音刺激開始をtime0とし,音刺激開始直前の安静立位100msでの平均筋活動を基線とし,time0から基線より2SDの範囲を越えた最初の時間を筋活動開始時間と定義した。また,挙上側足底にフットスイッチを取り付け,下肢挙上開始時間を測定した。統計学的分析として,TKA患者の術側,非術側および健常群の筋活動開始時間の比較と,各群における筋活動開始時間と下肢挙上開始時間の比較に二元配置分散分析を実施した。多重比較の調整としてBonferroni法を用いた。また,下肢挙上開始時間と筋活動開始時間の関連性の検討にピアソンの相関係数を用いた。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】対象者にはヘルシンキ宣言に則り,検査実施前に研究について十分な説明を行い,研究参加の同意ならびに結果の使用について了承を得た。
【結果】TKA患者の術側,非術側および健常群の比較について,外側広筋の筋活動開始時間は健常群(0.44±0.12s)と比較して術側(0.76±0.36s)および非術側(0.77±0.47s)で有意に遅延した。各群における比較について,TKA群の術側では下肢挙上開始時間と比較して,外側広筋を除く全ての筋活動開始時間が有意に早かった。非術側では下肢挙上開始時間と比較して,中殿筋,長内転筋および前脛骨筋の筋活動開始時間が有意に早かった。また,健常群では下肢挙上開始時間と比較して,中殿筋,長内転筋,外側広筋,大腿二頭筋および前脛骨筋の筋活動開始時間が有意に早かった。また,下肢挙上開始時間と筋活動開始時間の関連について,TKA群の術側では下肢挙上開始時間と外側広筋,大腿二頭筋および外側腓腹筋,非術側では大内転筋および大腿二頭筋に有意な相関を認めた。健常群は下肢挙上開始時間と有意な相関を示す筋は無かった。
【考察】本研究結果から,TKA群では術側および非術側の外側広筋の筋活動開始時間が健常群より遅延し,また,TKA患者の術側,非術側および健常群で下肢挙上開始時間より筋活動開始時間が有意に早くなる筋に違いがあることが観察された。Horakらは足関節の体性感覚を低下させたとき,代償的に股関節による姿勢制御戦略を使用することを述べており,TKA患者では姿勢移行課題において術側および非術側ともに大腿四頭筋の筋機能を代償する正常とは異なった筋活動パターンを用いる可能性が示唆された。下肢挙上開始時間と筋活動開始時間の関連性について,TKA群では術側および非術側ともに膝周囲筋との有意な相関を認めたが,健常群では有意な相関を示す筋は無かった。TKA患者の姿勢移行動作は健常者と異なり両側ともに膝周囲筋の筋活動パターンの影響が大きい可能性が推察され,今後より詳細な検討が必要である。
【理学療法学研究としての意義】TKA後の筋機能の障害については,筋力あるいは筋活動量など量的パラメーターに焦点を当てることが多い。しかしながら,質的評価である筋活動パターンの変化が姿勢安定性に影響する可能性も推察される。本研究で用いた姿勢移行課題において観察された筋活動パターンの違いがTKA後の姿勢制御に影響することも予想され,本研究結果は臨床上,有用な知見である。今後,TKA後の筋活動パターンの変化がパフォーマンスに与える影響などについて調査し,TKA後の姿勢制御について更なる検討を進めたい。