[0869] 人工膝関節置換術後早期における歩行特性と術前身体機能の関係
キーワード:歩行, 加速度計, 人工膝関節置換術
【はじめに,目的】
変形性膝関節症の一般的な手術療法としての人工膝関節置換術は年間5万件以上施行されている。術前後における理学療法は一般化されており,多くの施設がクリティカルパスを使用している。その効果は標準化された術後管理や理学療法が施行され,在院日数の短縮・医療費の削減に貢献している。しかし,クリティカルパスを使用した術後における後療法はADL動作を中心に,できる・できないといった量的なアウトカムを用いる場合が多く,動作の円滑さや動揺性等の質的な評価は軽視されているのが現状である。当院でも人工膝関節置換術施行例はクリティカルパスを使用し,術後2週以降での退院が標準化されている。この際も歩行動作の獲得が退院基準となっている。歩行動作における動揺性や対称性,円滑性等の歩行の質に関してはあまり重要視されていない。そこで歩行の安定性の評価が可能であり,高い信頼性と再現性のある加速度計を使用して退院時の歩行動揺性を評価し,術後の歩行動作における動揺性の評価と術前の身体機能の影響を明らかとすることを目的とする。
【方法】
対象は当院にて変形性膝関節症と診断され,人工膝関節置換術を施行された18例(平均年齢74±7.9歳,男性:4名,女性:14名)である。除外基準は中枢神経系障害を有する症例,認知機能の低下を認める症例,心疾患を有する症例とした。
歩行評価の測定課題は自由歩行とし,被験者に「普通に歩いてください」と口頭指示した。解析対象は10歩行周期とした。同時に10m歩行時間を計測し,歩行速度を算出した。それぞれ術前と術後2週時に測定された。歩行解析装置として3軸加速度計(MA-3-04Acマイクロストーン社製)を先行研究に従い,重心位置に近く,重心移動に近似する第3腰椎棘突起付近に接するように装着した。これにより体幹の前後・側方・垂直方向の加速度が同時に測定される。サンプリング周波数は200Hzとした。歩行の動揺性の評価として3軸の加速度値のroot mean square(以下RMS)をそれぞれ算出した。また歩行速度の2乗値で除し歩行速度の影響を調整した。
年齢,BMIといった基本情報に加え,大腿脛骨角,膝OAの重症度であるKellgren-lawrence分類をカルテ情報より抽出し,身体機能として術側の膝伸展筋力,膝関節可動域,安静時痛,歩行時痛,JOA score,心理的側面としてSelf-efficacy scaleを測定した。
手術前と術後2週時の加速度データを比較するためにwilcoxonの符号付順位検定を用いた。また術後2週時の加速度データと基本情報,術前身体機能・心理的側面の各項目との関係を明らかにするためspearmanの順位相関係数を用いて相関関係を算出した。各有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に基づき施行され,対象者には紙面を用いて研究の内容・意義を十分に説明し,理解の上書面にて同意を得た。
【結果】
前における動揺性の指標であるRMSは側方成分:1.74±0.83,垂直成分:2.02±0.94,前後成分:2.11±0.87であった。術後2週時のRMSは側方成分:2.77±2.37,垂直成分:3.37±2.67,前後成分:3.48±2.25であった。加速度波形と相関係数を認めたのは膝伸展筋力の項目であった。(側方成分:r=-0.68 p=0.002,垂直成分:r=-0.63 p=0.005,前後成分:r=-0.57 p=0.01)
【考察】
加速度計における歩行の安定性の分析は先行研究により実施されより精度の高い評価として普及している。特に動揺性の指標であるRMSを用いた評価では高い再現性が得られている。今回,動揺性の指標であるRMSの3軸すべての方向において術前より術後2週時の値が有意に増加したことは術後2週時の方が動揺性が大きく不安定な歩容であることを示している。動揺性の大きい歩行とは跛行の残存する歩行であり,標準化されたクリティカルパスを使用しても退院時には跛行が残存しているという結果となった。また術前膝伸展筋力と負の相関関係にあったことは術前からの膝伸展筋力低下が術後の歩行安定性に影響する事を示唆し,退院時の跛行は術前からの理学療法の介入により改善が見込める可能性が考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
人工膝関節置換術術後2週時における歩行の動揺性の評価を加速度計を用いることで客観的指標として明らかにした。また術前身体機能との関係を明らかにすることで術前から理学療法の介入が重要であることが示唆された。
変形性膝関節症の一般的な手術療法としての人工膝関節置換術は年間5万件以上施行されている。術前後における理学療法は一般化されており,多くの施設がクリティカルパスを使用している。その効果は標準化された術後管理や理学療法が施行され,在院日数の短縮・医療費の削減に貢献している。しかし,クリティカルパスを使用した術後における後療法はADL動作を中心に,できる・できないといった量的なアウトカムを用いる場合が多く,動作の円滑さや動揺性等の質的な評価は軽視されているのが現状である。当院でも人工膝関節置換術施行例はクリティカルパスを使用し,術後2週以降での退院が標準化されている。この際も歩行動作の獲得が退院基準となっている。歩行動作における動揺性や対称性,円滑性等の歩行の質に関してはあまり重要視されていない。そこで歩行の安定性の評価が可能であり,高い信頼性と再現性のある加速度計を使用して退院時の歩行動揺性を評価し,術後の歩行動作における動揺性の評価と術前の身体機能の影響を明らかとすることを目的とする。
【方法】
対象は当院にて変形性膝関節症と診断され,人工膝関節置換術を施行された18例(平均年齢74±7.9歳,男性:4名,女性:14名)である。除外基準は中枢神経系障害を有する症例,認知機能の低下を認める症例,心疾患を有する症例とした。
歩行評価の測定課題は自由歩行とし,被験者に「普通に歩いてください」と口頭指示した。解析対象は10歩行周期とした。同時に10m歩行時間を計測し,歩行速度を算出した。それぞれ術前と術後2週時に測定された。歩行解析装置として3軸加速度計(MA-3-04Acマイクロストーン社製)を先行研究に従い,重心位置に近く,重心移動に近似する第3腰椎棘突起付近に接するように装着した。これにより体幹の前後・側方・垂直方向の加速度が同時に測定される。サンプリング周波数は200Hzとした。歩行の動揺性の評価として3軸の加速度値のroot mean square(以下RMS)をそれぞれ算出した。また歩行速度の2乗値で除し歩行速度の影響を調整した。
年齢,BMIといった基本情報に加え,大腿脛骨角,膝OAの重症度であるKellgren-lawrence分類をカルテ情報より抽出し,身体機能として術側の膝伸展筋力,膝関節可動域,安静時痛,歩行時痛,JOA score,心理的側面としてSelf-efficacy scaleを測定した。
手術前と術後2週時の加速度データを比較するためにwilcoxonの符号付順位検定を用いた。また術後2週時の加速度データと基本情報,術前身体機能・心理的側面の各項目との関係を明らかにするためspearmanの順位相関係数を用いて相関関係を算出した。各有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に基づき施行され,対象者には紙面を用いて研究の内容・意義を十分に説明し,理解の上書面にて同意を得た。
【結果】
前における動揺性の指標であるRMSは側方成分:1.74±0.83,垂直成分:2.02±0.94,前後成分:2.11±0.87であった。術後2週時のRMSは側方成分:2.77±2.37,垂直成分:3.37±2.67,前後成分:3.48±2.25であった。加速度波形と相関係数を認めたのは膝伸展筋力の項目であった。(側方成分:r=-0.68 p=0.002,垂直成分:r=-0.63 p=0.005,前後成分:r=-0.57 p=0.01)
【考察】
加速度計における歩行の安定性の分析は先行研究により実施されより精度の高い評価として普及している。特に動揺性の指標であるRMSを用いた評価では高い再現性が得られている。今回,動揺性の指標であるRMSの3軸すべての方向において術前より術後2週時の値が有意に増加したことは術後2週時の方が動揺性が大きく不安定な歩容であることを示している。動揺性の大きい歩行とは跛行の残存する歩行であり,標準化されたクリティカルパスを使用しても退院時には跛行が残存しているという結果となった。また術前膝伸展筋力と負の相関関係にあったことは術前からの膝伸展筋力低下が術後の歩行安定性に影響する事を示唆し,退院時の跛行は術前からの理学療法の介入により改善が見込める可能性が考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
人工膝関節置換術術後2週時における歩行の動揺性の評価を加速度計を用いることで客観的指標として明らかにした。また術前身体機能との関係を明らかにすることで術前から理学療法の介入が重要であることが示唆された。