[0872] 人工膝関節全置換術後退院時における膝関節の運動学・運動力学的変化について
キーワード:人工膝関節全置換術, 歩行, 力学的分析
【はじめに,目的】
膝関節内反変形に伴う膝関節の運動学・運動力学的変化を理解する事は,人工膝関節全置換術(以下TKA)術前後の理学療法効果を把握する上で重要である。変形性膝関節症における歩行時膝関節の力学的因子に関する報告がされている一方(山崎ら2010),外科的手術後の膝関節力学的因子の変化についてはよく理解されていない。特に,TKA施行によって膝アライメントが改善され,力学的負荷の減少が期待される一方で,退院目安となる約1ヵ月後の歩行時膝関節の運動学・運動力学的変化について明らかではない。本研究の目的は,術前および術後1ヶ月における歩行時膝関節の運動学・運動力学的変化について比較,検討する事である。
【方法】
対象は,内側型変形性膝関節症により初回TKA(PS型)を施行した女性患者15名(平均年齢68.5±8.1歳,身長154.5±3.6,体重60.8±8.8)である。3次元動作解析装置(MAC3D)及び床反力計(AMTI社)を用い,歩行時身体運動を計測した。快適歩行速度にて数回練習した後に5回自由歩行を計測した。術前後の変化を検討する指標として,術側・非術側の立脚時外部膝関節内反モーメント(knee adduction moment:以下KAM),内反角度,屈曲伸展角度範囲及び床反力上下方向(以下Fz),床反力左右方向(以下Fy)内側・外側成分の最大値・積分値を用いた。KAM,膝関節内反角度,Fz,Fyの最大値及び膝関節屈伸角度範囲の値は,片側立脚期を100%に正規化後,算出した。術側・非術側における全ての指標は,計測した5施行で得られた歩行周期から任意に歩行周期を抽出し,各歩行周期の立脚期の値の加算平均を被験者の代表値とした。術前後の各指標の変化をみるため,等分散及び正規性の有無を確認後,対応のあるt検定を行った。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は所属施設規定の倫理委員会の承認を得て実施し,計測は症例の同意のもと行った。
【結果】
術前に比べ,術後における術側膝関節内反角度及びKAMの最大値・積分値は有意に減少した(p<0.01)。一方,術側・非術側膝関節屈伸角度範囲,Fz及びFy内側・外側成分の最大値・積分値,非術側膝関節内反角度,KAMの最大値・積分値においては術前後で違いは認められなかった。また,術側・非術側間のFzの積分値においても術前後で違いは認められなかった。
【考察】
術後1ヵ月における術側膝関節内反角度及びKAMは有意に減少した。これはMandevilleら(2008)による術後6ヵ月後の同指標を捉えた先行研究の結果と一致した。また,術前における術側・非術側間のFzの差は認められず,術前後においても変化が認められなかった。先行研究において,KAMは膝関節内側部に生じる圧縮負荷を反映する指標(木藤2008),Fz値は下肢の支持性を評価する指標(石井2009)として解釈されている。このことより,術後1ヵ月では,歩行立脚時の膝関節内側圧縮力は減少し,尚且つ術側下肢への荷重が行えている事が示唆された。一方,術側膝関節屈伸角度範囲やFzなど矢状面における運動学・運動力学的因子の差は術前後で変化が認められなかった。また,前額面方向については,歩行時術側KAMの減少に伴い,床反力作用線は膝関節中心に近づくことから,立脚期における膝関節の外側側方動揺が軽減及び床反力のFy外側成分の減少が期待されるが,Fy内側・外側成分においても有意差は認められなかった。このことから膝関節のアライメントの変化によって,膝関節内反角度および内反モーメントを除くその他の運動学・運動力学的因子は術前から変化していない事が明らかになった。
本研究より,術後1ヶ月では,外科的手術によって修正された介入部位の運動学的・運動力学的因子の変化は認められる一方で,その他の因子の変化は認められず,術前の歩行時身体運動が残存していることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
変形性膝関節症の外科的手術後の歩行戦略を把握する事は,適切な退院時指導を行う上で重要である。本研究は,所属施設の退院目安となるTKA術後1ヶ月における膝関節の運動学・運動力学的変化を明らかにすることを目的に行った。今後の課題として,今回明らかとなった運動学・運動力学的変化を考慮した理学療法の介入による歩行時身体運動の変化,退院後の長期的観測,他の身体部位(足・股関節,体幹など)の代償動作の理解が挙げられる。
膝関節内反変形に伴う膝関節の運動学・運動力学的変化を理解する事は,人工膝関節全置換術(以下TKA)術前後の理学療法効果を把握する上で重要である。変形性膝関節症における歩行時膝関節の力学的因子に関する報告がされている一方(山崎ら2010),外科的手術後の膝関節力学的因子の変化についてはよく理解されていない。特に,TKA施行によって膝アライメントが改善され,力学的負荷の減少が期待される一方で,退院目安となる約1ヵ月後の歩行時膝関節の運動学・運動力学的変化について明らかではない。本研究の目的は,術前および術後1ヶ月における歩行時膝関節の運動学・運動力学的変化について比較,検討する事である。
【方法】
対象は,内側型変形性膝関節症により初回TKA(PS型)を施行した女性患者15名(平均年齢68.5±8.1歳,身長154.5±3.6,体重60.8±8.8)である。3次元動作解析装置(MAC3D)及び床反力計(AMTI社)を用い,歩行時身体運動を計測した。快適歩行速度にて数回練習した後に5回自由歩行を計測した。術前後の変化を検討する指標として,術側・非術側の立脚時外部膝関節内反モーメント(knee adduction moment:以下KAM),内反角度,屈曲伸展角度範囲及び床反力上下方向(以下Fz),床反力左右方向(以下Fy)内側・外側成分の最大値・積分値を用いた。KAM,膝関節内反角度,Fz,Fyの最大値及び膝関節屈伸角度範囲の値は,片側立脚期を100%に正規化後,算出した。術側・非術側における全ての指標は,計測した5施行で得られた歩行周期から任意に歩行周期を抽出し,各歩行周期の立脚期の値の加算平均を被験者の代表値とした。術前後の各指標の変化をみるため,等分散及び正規性の有無を確認後,対応のあるt検定を行った。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は所属施設規定の倫理委員会の承認を得て実施し,計測は症例の同意のもと行った。
【結果】
術前に比べ,術後における術側膝関節内反角度及びKAMの最大値・積分値は有意に減少した(p<0.01)。一方,術側・非術側膝関節屈伸角度範囲,Fz及びFy内側・外側成分の最大値・積分値,非術側膝関節内反角度,KAMの最大値・積分値においては術前後で違いは認められなかった。また,術側・非術側間のFzの積分値においても術前後で違いは認められなかった。
【考察】
術後1ヵ月における術側膝関節内反角度及びKAMは有意に減少した。これはMandevilleら(2008)による術後6ヵ月後の同指標を捉えた先行研究の結果と一致した。また,術前における術側・非術側間のFzの差は認められず,術前後においても変化が認められなかった。先行研究において,KAMは膝関節内側部に生じる圧縮負荷を反映する指標(木藤2008),Fz値は下肢の支持性を評価する指標(石井2009)として解釈されている。このことより,術後1ヵ月では,歩行立脚時の膝関節内側圧縮力は減少し,尚且つ術側下肢への荷重が行えている事が示唆された。一方,術側膝関節屈伸角度範囲やFzなど矢状面における運動学・運動力学的因子の差は術前後で変化が認められなかった。また,前額面方向については,歩行時術側KAMの減少に伴い,床反力作用線は膝関節中心に近づくことから,立脚期における膝関節の外側側方動揺が軽減及び床反力のFy外側成分の減少が期待されるが,Fy内側・外側成分においても有意差は認められなかった。このことから膝関節のアライメントの変化によって,膝関節内反角度および内反モーメントを除くその他の運動学・運動力学的因子は術前から変化していない事が明らかになった。
本研究より,術後1ヶ月では,外科的手術によって修正された介入部位の運動学的・運動力学的因子の変化は認められる一方で,その他の因子の変化は認められず,術前の歩行時身体運動が残存していることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
変形性膝関節症の外科的手術後の歩行戦略を把握する事は,適切な退院時指導を行う上で重要である。本研究は,所属施設の退院目安となるTKA術後1ヶ月における膝関節の運動学・運動力学的変化を明らかにすることを目的に行った。今後の課題として,今回明らかとなった運動学・運動力学的変化を考慮した理学療法の介入による歩行時身体運動の変化,退院後の長期的観測,他の身体部位(足・股関節,体幹など)の代償動作の理解が挙げられる。