第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 運動器理学療法 ポスター

骨・関節20

Sat. May 31, 2014 11:20 AM - 12:10 PM ポスター会場 (運動器)

座長:福迫剛(鹿児島赤十字病院リハビリテーション科)

運動器 ポスター

[0874] 当院における下腿切断症例の義足歩行獲得までの期間

森本貴之, 國澤洋介, 武井圭一, 岩﨑寛之, 三本木光, 前川宗之, 山本満 (埼玉医科大学総合医療センター)

Keywords:下腿切断, 義足, 歩行

【はじめに,目的】
当院では,下腿切断症例の切断術から義足歩行獲得までの工程をシリコンライナー(ライナー)管理,ソケット装着下での荷重練習,義足組み立て後の義足歩行練習と段階的に進めており,その判断は術創部の治癒状況,断端への荷重能力などからチームカンファレンスにて症例ごとに決定している。近年,在院日数は短縮化しており,切断症例に対する理学療法(PT)においてもより効率的に義足歩行を獲得することは重要な課題である。しかし,切断症例に対する評価や対応については各施設で経験に基づいて行われているのが現状であり,より効率的に義足歩行を獲得していくためには,各施設における評価や対応を明確に提示していくことが重要である。本研究の目的は,当院における下腿切断症例の切断術から義足歩行獲得までの各段階に要した期間と遅延要因を後方視的に調査することにより,当院における義足歩行獲得に向けたPTの現状と今後の課題を検討することである。
【方法】
対象は,2008年1月から2012年12月に当院で切断術から義足歩行獲得(日常生活での義足歩行自立)まで至った下腿切断症例7例とした。切断原因は外傷性3例,血管原性4例,性別は全例男性,平均年齢は47.7±13.5歳であった。切断術から義足歩行獲得までを4段階(第1段階:切断-ライナー管理開始,第2段階:ライナー管理開始-ソケット装着下での荷重練習開始,第3段階:ソケット装着下での荷重練習開始-義足歩行練習開始,第4段階:義足歩行練習開始-義足歩行獲得)に分類し,症例ごとに各段階に要した期間を診療録から調査した。また,記述統計を用いて,各段階に要した期間の最小値,中央値,最大値,外れ値を算出した。更に,各段階における期間の最小値から25%値以上遅延した症例については,その要因を診療録から調査した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は当院の倫理委員会の承認を得て実施した。
【結果】
各段階に要した期間(最小値,中央値,最大値,外れ値の順)は,第1段階は25日,44日,113日,186日であり,遅延要因は術創部の感染と癒合不全であった。第2段階は14日,14日,21日,28日であり,遅延要因として明らかな患者要因は認めなかった。第3段階は7日,21日,35日,74日であり,遅延要因は荷重練習における術創部の一部離開,水疱形成や断端痛であった。第4段階は17日,38日,54日,外れ値なしであり,遅延要因は歩行安定性の低下と歩容上の問題であった。なお,第4段階では全例においてPT以外での義足歩行練習を実施しておらず,義足歩行獲得時の歩行形態は最小値の症例が片松葉杖歩行,遅延例が両松葉杖歩行,歩行器歩行,片松葉杖歩行,T字杖歩行,片ロフストランド杖歩行であった。
【考察】
各段階における最小値(第1段階25日,第2段階14日,第3段階7日,第4段階17日)は,PTが最も順調に経過した結果であり,各段階において獲得可能な最短の日数である。そのため,本研究で示したような遅延要因となる問題を認めない症例については,漫然とプログラムを進行するのではなく,この最小値を次の段階へ移行すべき目標日数と捉えてプログラムを進行していくことが可能と考えた。また,遅延要因としては,複数の段階において創治癒の遷延を認めていたため,安易な段階の移行は断端への急激なストレス増加を招き,義足歩行獲得を遅らせる危険性があることも考えられ,今後は遅延する症例を選別しながら適切に対応することが重要と考えた。各段階の遅延要因への対応としては,第1段階では感染対策を徹底し,術創部への過剰なストレスを避けることが重要と考えられた。第3段階においても慎重に術創部を含めた断端の状態を評価した上で,荷重量・荷重時間やソケットのフィッティングの調整等を行い,断端トラブルを予防することが重要と考えられた。第4段階では,義足歩行を獲得するまでPT以外での義足歩行練習を実施していなかったことから,症例ごとに適切な歩行補助具を選択し,早期からPT以外での義足歩行練習を開始することも重要と考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
義足は,ライナーを用いたTSB式義足が主流となりフィッティング性能は格段に向上した。また,下肢切断の原因は,高齢者の血行障害によるものが多くなるなど,下肢切断に対するPTは大きく変遷している。しかし,その評価や対応は科学的に検証されていないのが実情であり,各施設で経験に基づき行われている評価や対応を明確に提示していくことで,より良い評価や対応が確立されると考える。本研究で,当院における下腿切断症例の義足歩行獲得に向けたPTの現状と今後の課題を提示したことは意義があると考える。