第49回日本理学療法学術大会

講演情報

発表演題 ポスター » 運動器理学療法 ポスター

骨・関節20

2014年5月31日(土) 11:20 〜 12:10 ポスター会場 (運動器)

座長:福迫剛(鹿児島赤十字病院リハビリテーション科)

運動器 ポスター

[0875] 母趾外転運動に対する電気刺激の有効性について

浦本史也1,2, 山本泰雄1, 尾田敦2, 皆川裕樹3 (1.医療法人仁陽会西岡第一病院リハビリテーション部, 2.弘前大学大学院保健学研究科, 3.医療法人仁陽会西岡第一病院整形外科)

キーワード:外反母趾, 母趾外転筋, 機能的電気刺激

【目的】
外反母趾(Hallux Valgus)は第1中足趾節関節で母趾が外反した変形であり,発生頻度が高い疾患である。外反変形の矯正には足底挿板,装具療法,母趾外転筋の随意収縮による母趾外転運動などさまざまな方法が行われている。なかでも,佐本ら(2003)は外反変形の治療方法として母趾外転筋の随意収縮の重要性を報告している。しかし,実際の臨床では,母趾外転筋の随意収縮が困難な例を多く認め,その遂行は容易ではない。我々は以前より,母趾外転筋の随意収縮が困難な健常者に対して,母趾外転筋の随意収縮のみを単独で行うよりも,電気刺激を同期させることで,より随意性が向上することを経験している。しかし,外反母趾症例に対する電気刺激の有効性について検討した報告は見当たらない。そこで本研究の目的は,健常者と外反母趾症例を対象として,電気刺激により母趾外転筋の随意性に影響を及ぼすかどうかを検討することである。
【方法】
対象は当院医師により外反母趾と診断された15名(以下,外反母趾群)と,足部疾患や変形がない健常成人9名(以下,健常群)とした。すべての対象者は,母趾外転筋の随意収縮が困難であり,母趾外転筋を圧迫することによって外転運動が生じることを確認しており,第1中足趾節関節の拘縮がないと判断されたものである。
まず,外反変形の評価として,足外郭線をトレースして得られた足型から測定する第1趾側角(全履協式計測法)を用いた。第1趾側角は内田(2002)によりレントゲン撮影による外反母趾角との相関が最も高いことが確認されていることから,靴医学会で推奨されている評価方法である。次に,安静時の第1趾側角(以下,安静角度)を測定した。その後,母趾外転筋を収縮するよう努力した際の第1趾側角(以下,努力外転角度)を測定した。測定終了後に,機能的電気刺激機器である電子筋肉運動器NeuroTech BMR-16F(BMR社製)を用い,電極を母趾外転筋に貼付し,2秒通電刺激と2秒休止のサイクルを15分間継続した。刺激中は母趾外転筋の随意収縮を行い,刺激強度は対象が耐えられる最大強度とした。刺激終了後に母趾外転筋を収縮するよう努力した際の外転角度(以下,刺激後外転角度)を測定した。なお,電気刺激は対象者全員1回のみとした。
統計処理には安静角度と努力外転角度,刺激後外転角度の比較に,分割プロットデザインによる分散分析およびTukey検定を適用し,有意水準は1%とした。
【説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に則り,対象者には事前に研究目的,測定方法を十分に説明し同意を得た。得られたデータと個人情報の保護に十分配慮した。
【結果】
外反母趾群の安静角度は28.5±5.8°,努力外転角度は28.6±6.1°,刺激後外転角度は25.8±6.4°であった。健常群の安静角度は13.8°±5.5°,努力外転角度は12.4±6.3°,刺激後外転角度は9.0±5.1°であった。群分けの要因と第1趾側角の測定条件要因の間に交互作用は認めなかった。外反母趾群,健常群ともに安静角度と努力外転角度は有意差を認めなかった。一方,安静時角度と刺激後外転時角度では両群ともに第一趾側角が有意に減少した(p<0.01)。
群間の比較では安静角度,努力外転角度,刺激後外転角度全てにおいて有意差を認めた(p<0.01)。
【考察】
過去の健常人を対象とした報告では,電気刺激は母趾外転筋の随意収縮が困難な例に対して,収縮を誘導するために有効であると報告されている。しかし,外反母趾症例を対象とした研究はほとんど見当たらなかった。今回の対象者は安静角度・努力外転角度について両群ともに有意差を認めず,電気刺激前の全対象者は母趾外転筋の随意収縮が困難であったことを示している。一方,安静角度と刺激後外転角度の比較では有意な減少を認めた。これは両群ともに電気刺激により母趾外転筋の随意性が向上したことを示している。
群間比較の安静角度の有意差は外反母趾群が健常群に比して変形が著明であることを示している。先行研究では,外反母趾変形の悪化に伴い,母趾外転筋の随意収縮がより困難となると報告されている。しかし,今回の結果では,安静角度から刺激後外転角度の角度変化に両群間で大きな差は認められなかったことから,電気刺激が外反変形のある症例に対しても,母趾外転筋の随意収縮の誘導に有効であることを示すと考える。
しかし,今回の結果は電気刺激による母趾外転筋の随意収縮誘導の即時効果を示すものである。今後は,電気刺激効果の持続性を調査する必要性があると思われる。
【理学療法研究としての意義】
母趾外転筋の随意収縮が困難な外反母趾症例に対しても,電気刺激を与えることで,母趾外転筋の随意性を向上させることが明らかとなった。電気刺激は外反変形矯正に有効である可能性が示された。