[0881] 脳卒中片麻痺患者3症例における麻痺側運動機能と筋弛緩の遅延の関連性
Keywords:筋弛緩, 片麻痺, 反応時間
【はじめに,目的】
臨床的に,中枢神経障害から生じる筋緊張亢進により,円滑な運動が行えない運動障害を多く経験する。この背景として,脳卒中片麻痺患者の麻痺側運動機能の低下と,麻痺側の収縮及び弛緩の遅延が関係している(Chane et al, 2002)ことが報告されている。しかし,筋弛緩の遅延に焦点を当てた麻痺側運動機能評価との関連性に関する報告が少なく,また,麻痺側痙縮筋の弛緩課題に関わる筋活動状況を検討した報告は少ない。そこで本研究では,脳卒中片麻痺患者3例において,麻痺側運動機能と筋弛緩の遅延の関連性を明らかにすること,また,弛緩課題中の痙縮筋と拮抗筋の筋活動状況を明らかにし考察することを目的とした。
【方法】
対象は脳卒中片麻痺患者3名である。対象選定条件は,①意識障害や重度高次脳機能障害がなく研究内容を理解し実施できる②主動作筋の橈側手根屈筋(FCR)がmodified ashworth scale(以下MAS)3以下③表在・深部感覚が脱失ではない④麻痺側上肢機能Br.stageIII以上とした。検査時基礎情報は以下の通りである。患者1は脳出血(左頭頂葉),70歳台,発症後51日。患者2はラクナ梗塞(右内包後脚),60歳台,発症後26日。患者3はアテローム血栓性脳梗塞(左被殻~放線冠),70歳台,発症後109日。片麻痺患者の麻痺側運動機能に関する評価は,Fugl-Meyer assessment(以下FMA)の上肢評価,FCRのMASとした。片麻痺患者の筋弛緩の遅延に関する評価は,弛緩反応時間課題とし,麻痺側と非麻痺側の両方を測定した。また,右利きの健常成人7名を対象に弛緩反応時間も測定した。弛緩反応課題は,目標の筋収縮量(20%MVC,40%MVCの2種類)を等尺性収縮による手関節掌屈運動で保持し,その後,音合図にて,拮抗筋の収縮伴わず,可能な限り速く主動作筋(FCR)を弛緩する課題とした。FCR,橈側手根伸筋(ECR)の2筋から表面筋電図記録をした。各測定筋電波形データは4kHzに記録後,10-350Hzのバンドパスフィルターで処理し,10ms毎のRMS値を算出した。FCRの弛緩反応時間は,音合図後に,音合図前50msのRMSの平均を2SD下回った時点とした。片麻痺患者の麻痺側弛緩課題中の筋活動状況に関する評価は,弛緩反応課題の音合図前50msのRMSの同時収縮率(FCR/ECR比)とし,さらに,患者ごとに,同時収縮率と弛緩反応時間の相関を,Spearmanの順位相関にて相関性を求めた。統計解析はSPSS(ver16.0)を用いて,有意水準5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に基づき,研究前に,被験者に目的と手順を十分に説明し,同意書にて同意を得た。なお,本研究は,当院研究倫理審査委員会で承認された。
【結果】
麻痺側運動機能に関する結果は,FMA(Motor function/sensation/passive joint motion/joint pain),FCRのMASの順に,患者1は49/10/22/21,1+,患者2は65/12/24/24,1,患者3は63/12/24/24,1であった。
筋弛緩の遅延に関する弛緩反応時間の結果は,麻痺側(弛緩前収縮量20%,40%),非麻痺側(弛緩前収縮量20%,40%)の順に,患者1は麻痺側(321±139msec,250±69msec),非麻痺側(149±57msec,186±67msec),患者2は麻痺側(157±45msec,242±72msec),非麻痺側(197±98msec,177±117msec),患者3は麻痺側(211±37msec,214±39msec),非麻痺側(143±27msec,162±20msec),同様に,健常者(132±31msec,149±43msec)であった。弛緩前筋収縮量により傾向は見られず,麻痺側で弛緩反応時間が遅延する傾向が見られた。
麻痺側弛緩課題中の筋活動状況に関する同時収縮率と反応時間の相関係数は,患者1:-0.43,患者2:-0.17,患者3:0.17であった。
【考察】
患者1は,患者2と3と比べ,麻痺側運動機能が低下し,筋緊張が亢進し,さらに弛緩反応時間が遅延していた。この結果から,麻痺側運動機能が低いほど,筋弛緩の遅延が関係している可能性が考えられた。また,患者1における同時収縮率と反応時間の結果から,麻痺側運動機能が低いほど,弛緩直前に同時収縮が起きやすく,この同時収縮が起きている場合は弛緩反応時間が遅延する傾向が見られた。この結果から,麻痺側運動機能が低下している場合,弛緩の遅延に関わるメカニズムは同時収縮による現象であり,主動作筋の活動の減衰不全および拮抗筋の余剰活動の表出による影響であることが明確となった。弛緩制御を行う上で両筋の相反的制御の必要性が重要であることが考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
麻痺側運動機能は,筋収縮に焦点が当てられることが多いが,本研究の結果から,弛緩の遅延や同時収縮の状態に着目したアプローチをすることも,麻痺側運動機能回復の獲得ために重要な視点となることが考えられた。この点は臨床的に理学療法にとって有用な知見であると推察される。
臨床的に,中枢神経障害から生じる筋緊張亢進により,円滑な運動が行えない運動障害を多く経験する。この背景として,脳卒中片麻痺患者の麻痺側運動機能の低下と,麻痺側の収縮及び弛緩の遅延が関係している(Chane et al, 2002)ことが報告されている。しかし,筋弛緩の遅延に焦点を当てた麻痺側運動機能評価との関連性に関する報告が少なく,また,麻痺側痙縮筋の弛緩課題に関わる筋活動状況を検討した報告は少ない。そこで本研究では,脳卒中片麻痺患者3例において,麻痺側運動機能と筋弛緩の遅延の関連性を明らかにすること,また,弛緩課題中の痙縮筋と拮抗筋の筋活動状況を明らかにし考察することを目的とした。
【方法】
対象は脳卒中片麻痺患者3名である。対象選定条件は,①意識障害や重度高次脳機能障害がなく研究内容を理解し実施できる②主動作筋の橈側手根屈筋(FCR)がmodified ashworth scale(以下MAS)3以下③表在・深部感覚が脱失ではない④麻痺側上肢機能Br.stageIII以上とした。検査時基礎情報は以下の通りである。患者1は脳出血(左頭頂葉),70歳台,発症後51日。患者2はラクナ梗塞(右内包後脚),60歳台,発症後26日。患者3はアテローム血栓性脳梗塞(左被殻~放線冠),70歳台,発症後109日。片麻痺患者の麻痺側運動機能に関する評価は,Fugl-Meyer assessment(以下FMA)の上肢評価,FCRのMASとした。片麻痺患者の筋弛緩の遅延に関する評価は,弛緩反応時間課題とし,麻痺側と非麻痺側の両方を測定した。また,右利きの健常成人7名を対象に弛緩反応時間も測定した。弛緩反応課題は,目標の筋収縮量(20%MVC,40%MVCの2種類)を等尺性収縮による手関節掌屈運動で保持し,その後,音合図にて,拮抗筋の収縮伴わず,可能な限り速く主動作筋(FCR)を弛緩する課題とした。FCR,橈側手根伸筋(ECR)の2筋から表面筋電図記録をした。各測定筋電波形データは4kHzに記録後,10-350Hzのバンドパスフィルターで処理し,10ms毎のRMS値を算出した。FCRの弛緩反応時間は,音合図後に,音合図前50msのRMSの平均を2SD下回った時点とした。片麻痺患者の麻痺側弛緩課題中の筋活動状況に関する評価は,弛緩反応課題の音合図前50msのRMSの同時収縮率(FCR/ECR比)とし,さらに,患者ごとに,同時収縮率と弛緩反応時間の相関を,Spearmanの順位相関にて相関性を求めた。統計解析はSPSS(ver16.0)を用いて,有意水準5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に基づき,研究前に,被験者に目的と手順を十分に説明し,同意書にて同意を得た。なお,本研究は,当院研究倫理審査委員会で承認された。
【結果】
麻痺側運動機能に関する結果は,FMA(Motor function/sensation/passive joint motion/joint pain),FCRのMASの順に,患者1は49/10/22/21,1+,患者2は65/12/24/24,1,患者3は63/12/24/24,1であった。
筋弛緩の遅延に関する弛緩反応時間の結果は,麻痺側(弛緩前収縮量20%,40%),非麻痺側(弛緩前収縮量20%,40%)の順に,患者1は麻痺側(321±139msec,250±69msec),非麻痺側(149±57msec,186±67msec),患者2は麻痺側(157±45msec,242±72msec),非麻痺側(197±98msec,177±117msec),患者3は麻痺側(211±37msec,214±39msec),非麻痺側(143±27msec,162±20msec),同様に,健常者(132±31msec,149±43msec)であった。弛緩前筋収縮量により傾向は見られず,麻痺側で弛緩反応時間が遅延する傾向が見られた。
麻痺側弛緩課題中の筋活動状況に関する同時収縮率と反応時間の相関係数は,患者1:-0.43,患者2:-0.17,患者3:0.17であった。
【考察】
患者1は,患者2と3と比べ,麻痺側運動機能が低下し,筋緊張が亢進し,さらに弛緩反応時間が遅延していた。この結果から,麻痺側運動機能が低いほど,筋弛緩の遅延が関係している可能性が考えられた。また,患者1における同時収縮率と反応時間の結果から,麻痺側運動機能が低いほど,弛緩直前に同時収縮が起きやすく,この同時収縮が起きている場合は弛緩反応時間が遅延する傾向が見られた。この結果から,麻痺側運動機能が低下している場合,弛緩の遅延に関わるメカニズムは同時収縮による現象であり,主動作筋の活動の減衰不全および拮抗筋の余剰活動の表出による影響であることが明確となった。弛緩制御を行う上で両筋の相反的制御の必要性が重要であることが考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
麻痺側運動機能は,筋収縮に焦点が当てられることが多いが,本研究の結果から,弛緩の遅延や同時収縮の状態に着目したアプローチをすることも,麻痺側運動機能回復の獲得ために重要な視点となることが考えられた。この点は臨床的に理学療法にとって有用な知見であると推察される。