第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 神経理学療法 ポスター

脳損傷理学療法17

Sat. May 31, 2014 11:20 AM - 12:10 PM ポスター会場 (神経)

座長:増田知子(千里リハビリテーション病院)

神経 ポスター

[0884] 小脳梗塞によりバランス機能障害を呈した症例へのリアライン・コアを用いた体幹アプローチの有用性:症例報告

新谷大輔1, 民谷雄太1, 蒲田和芳2 (1.恩賜財団済生会みすみ病院リハビリテーション部, 2.広島国際大学総合リハビリテーション学部リハビリテーション学科)

Keywords:体幹, 運動学習, 装具

【はじめに,目的】
小脳梗塞後に体幹失調に対して多数の機能改善法が存在するが,治療者内および治療者間の再現性の高い治療法は確立されていない。本症例報告では,小脳梗塞後の体幹失調を呈する患者に対するリアライン・コア(GLAB社)(以下コア)の使用経験を報告する。
【方法】
1.症例紹介:小脳梗塞後に体幹失調を生じる症例(男性61歳)を対象とした。症例のMRI上の障害部位は主に右小脳半球後葉から傍虫部(一部虫部)で,水平裂を中央に上下に2スライスと広範囲な脳梗塞を認め,小脳白質を中心に歯状核・栓状核・球状核の障害が推測された。大脳半球症状である四肢の協調運動障害は梗塞巣の割に軽度であった。臨床上,体幹の姿勢調整・歩行機能が著明であり,傍虫部(歯状核・栓状核・球状核)の障害による遠心性(上小脳脚)の問題が疑われた。そのうち,歯状核は前頭葉(補足運動野)と連絡があり,リハビリテーション効果が見込めると判断できた。
2.治療経過:コア導入以前,歩行器使用が日常生活で必須であり,不安定課題では体幹が右後方へ傾き姿勢保持できなかった。「腰が据わらない」,「ふわふわした感じがする」といった発言があった。歩容は重心が常に高く,歩行周期中上下動は乏しかった。表情はこわばり,末梢の筋緊張は高く,体幹の安定性が損なわれている状況であった。体幹のスタビライズを目的に,四つ這い・バランスボール・深呼気等を行ったところ起居動作の改善は得られたが,片脚立位や歩行への般化が乏しかった。
3.測定:測定日は初回介入時(7月6日:発症から64日),7月24日,8月18日であり,それぞれ介入前後に測定を行った。7月6日には,コア装着前,装着中,装着後に10m歩行・TUGを計測した。7月24日と8月18日,我々が考案した6種類の運動からなるコアを用いた脳卒中パッケージの即時効果の検証を行った。その際の評価項目は(A)10m歩行(B)TUG(C)不安定板のまたぎ可能距離とした。
4.介入:コア装着下での直接動作(歩行・またぎ)と脳卒中パケージを7月24日から監視型自主運動として8月18日まで継続して週4・5回程度行った。脳卒中パッケージは(1)ペルビックラテラル(骨盤の左右側方への振り)(2)ソラシックローテーション(胸郭の左右回旋)(3)サイクリング(その場での左右交互踵挙げ)(4)ヒップローテーション(股関節の左右回旋)(5)フロントランジ(前方への片脚振り出し)(6)サイドランジ(側方への片脚振り出し)の6種目から構成される。なお,コア導入後も四肢・体幹の筋力訓練,四つ這い運動,視覚的運動プログラムなどの間接訓練も同時並行的に行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
へルシンキ宣言に則り,十分に説明し同意を得た。個人情報の保護を順守した。
【結果】
(1)10m歩行(装着前8秒62・装着中7秒56・装着後7秒53)で,TUG(装着前8秒82・装着中8秒86・装着後8秒87)であった。(2)脳卒中パッケージ後の各評価項目の変化は(A)10m歩行(7月24日:介入前7秒97・介入後7秒72)(8月18日:介入前7秒32・介入後6秒52)。(B)TUG(7月24日:介入前8秒60・介入後7秒72)(8月18日:介入前7秒32・介入後6秒96)。(C)不安定板のまたぎ可能距離(7月24日:介入前10cm・介入後18cm)(8月18日:介入前36cm・介入後50cm)。
【考察】
7月6日ではコアの着用のみにより10m歩行において即時効果があった。「ここに力が入れば安定する」と本人に明確なフィードバックができ,体幹機能の問題点を効果的に認識させたと推測された。7月18日から約4週間に渡り脳卒中パッケージを継続したところ,運動学習を加速させる動作学習支援機器として,運動機能改善を加速させた。結果として,不安定板のまたぎ動作からジャンプが可能となり,下肢荷重伝達障害へのアプローチが行えた。以上の変化は,病巣部位や当初の介入の経過を考慮すると,これまで引き出すことが困難と思われた高いレベルの機能改善であった。
【理学療法学研究としての意義】
四つ這い位などで実施する体幹機能向上を目的とした間接訓練のみでは,小脳失調患者に著明な立位での運動能力向上は得られにくい。コアを用いることで,立位での運動機能障害に対して直接訓練を実施でき,体幹失調患者に著効をもたらす可能性がある。また,コアを機能評価に用いることで,中枢神経疾患患者においても,骨盤安定性という機械的要因の影響の有無を即時的に判断することが可能となる。コアの脳卒中患者のリハビリテーションにおける活用および失調患者用の骨盤装具の開発が期待される。