[0889] 精神・認知機能の低下を合併した大腿骨近位部骨折術後高齢患者の退院環境に着目して
Keywords:精神・認知機能, 大腿骨近位部骨折, 退院環境
【目的】
精神・認知機能の低下が生じた患者が,新たに身体に悪影響を及ぼした場合,理学療法の進行は身体症状と精神症状の相互の影響を配慮しなければならない。そのため理学療法実施において充分な成果が得られず,生活能力獲得に影響を及ぼすことが予測される。今回当院回復期リハビリテーション病棟(以下回復リハ病棟)に入院した,大腿骨近位部骨折術後の高齢患者の中で,精神症状および認知症を合併した患者と,骨折単独の患者に対して理学療法を実施し能力改善を促したことで,退院環境に与えた影響に着目し調査を行った。
【対象と方法】
平成22年10月から平成25年10月までに,大腿骨近位部骨折受傷による観血的手術療法を施行し,当院回復期リハ病棟に入院した89名で,内訳は精神症状群13名(男性:5名,女性:8名,平均年齢79.8歳)認知症群44名(男性:11名,女性:33名,平均年齢85.9歳),単独群32名(男性:6名,女性:26名,平均年齢84.9歳)であった。なお精神・認知機能の低下対象者の選択の定義としては,精神症状群はうつ病,統合失調症の診断と治療対象者とし,認知症群はHDS-R20点以下で認知症の診断および治療がなされているものを対象とした。これらの3群に対し,理学療法による影響を比較する指標として,各群の機能的自立度評価身体機能点数(以下FIM機能点数)の入院時と退院時をpaired-t検定にて比較した。また3群間で初期FIM機能点数と最終FIM機能点数,能力改善に影響を及ぼす要因である入院期間と,理学療法の効果を示すFIM機能点数の利得に対し,Kruskal-Wallis検定を用い統計解析を行った。データの解析にはDr.SPSSII11.01Jを用い,有意水準を5%とした。さらに退院後の環境については自宅,病院,施設の異なる生活環境別に,電子カルテからretrospectiveに調査し受傷前と退院後について生活環境の変化について調査した。
【倫理的配慮】
倫理的配慮として,当院個人情報取り扱い規約に基づき,家族又は本人に調査に関する同意が紙面にて得られた者を対象とした。
【結果】
各群のFIM機能点数の入院時と退院時の比較では,精神症状群(入院時平均45.2±21.5,退院時平均58.5±25.2)ではP<0.05の有意差を認めた。認知症群(入院時平均40.2±21.1,退院時平均46.7±22.9)・単独群(入院時平均58.2±20.0,退院時平均66.1±18.1)ではP<0.01の有意差を認めた。また3群間における初期と最終のFIM機能点数はP<0.01の有意差を認めた。入院期間(精神症状群平均74.9±15.5日,認知症群平均72.4±21.1日,単独群平均73.8±17.7日)とFIM機能点数の利得に関しては有意差を認めなかった。退院環境に関する入院前から入院後の調査では,精神症状群は自宅7名(53.9%)から6名(46.2%),病院5名(38.5%)から3名(23.1%),施設1名(7.7%)から4名(30.8%)であった。また認知症群では自宅25名(56.8%)から23名(52.3%),病院4名(9.1%)から3名(6.8%),施設15名(34.1%)から18名(40.9%)であった。さらに単独群では,自宅27名(84.4%)から23名(71.9%),病院2名(6.3%)から3名(9.4%),施設3名(9.4%)から6名(18.8%)であり,すべての群において施設利用者の増加が確認できた。
【考察】
FIM数の結果から,3群において骨折による一時的な機能低下に陥っても,理学療法による介入が,能力の改善に有効であった。また精神・認知機能面での低下を有する患者においての身体能力の改善,退院環境の変化は,調査前の推論とは異なり単独群と比較しても明らかな差は認められなかった。退院環境に与える影響は,多くの社会的背景も関与してくるが,精神・認知機能の低下の有無を問わず,回復期リハ病棟での介入が有効であることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,高齢者,精神・認知機能といった,理学療法のみならず医療分野において関わりが重要視されるテーマで調査を行った。その中でも,精神・認知機能に問題を有する患者において理学療法士が関わっていく必要性について,認識する機会となることを望む。
精神・認知機能の低下が生じた患者が,新たに身体に悪影響を及ぼした場合,理学療法の進行は身体症状と精神症状の相互の影響を配慮しなければならない。そのため理学療法実施において充分な成果が得られず,生活能力獲得に影響を及ぼすことが予測される。今回当院回復期リハビリテーション病棟(以下回復リハ病棟)に入院した,大腿骨近位部骨折術後の高齢患者の中で,精神症状および認知症を合併した患者と,骨折単独の患者に対して理学療法を実施し能力改善を促したことで,退院環境に与えた影響に着目し調査を行った。
【対象と方法】
平成22年10月から平成25年10月までに,大腿骨近位部骨折受傷による観血的手術療法を施行し,当院回復期リハ病棟に入院した89名で,内訳は精神症状群13名(男性:5名,女性:8名,平均年齢79.8歳)認知症群44名(男性:11名,女性:33名,平均年齢85.9歳),単独群32名(男性:6名,女性:26名,平均年齢84.9歳)であった。なお精神・認知機能の低下対象者の選択の定義としては,精神症状群はうつ病,統合失調症の診断と治療対象者とし,認知症群はHDS-R20点以下で認知症の診断および治療がなされているものを対象とした。これらの3群に対し,理学療法による影響を比較する指標として,各群の機能的自立度評価身体機能点数(以下FIM機能点数)の入院時と退院時をpaired-t検定にて比較した。また3群間で初期FIM機能点数と最終FIM機能点数,能力改善に影響を及ぼす要因である入院期間と,理学療法の効果を示すFIM機能点数の利得に対し,Kruskal-Wallis検定を用い統計解析を行った。データの解析にはDr.SPSSII11.01Jを用い,有意水準を5%とした。さらに退院後の環境については自宅,病院,施設の異なる生活環境別に,電子カルテからretrospectiveに調査し受傷前と退院後について生活環境の変化について調査した。
【倫理的配慮】
倫理的配慮として,当院個人情報取り扱い規約に基づき,家族又は本人に調査に関する同意が紙面にて得られた者を対象とした。
【結果】
各群のFIM機能点数の入院時と退院時の比較では,精神症状群(入院時平均45.2±21.5,退院時平均58.5±25.2)ではP<0.05の有意差を認めた。認知症群(入院時平均40.2±21.1,退院時平均46.7±22.9)・単独群(入院時平均58.2±20.0,退院時平均66.1±18.1)ではP<0.01の有意差を認めた。また3群間における初期と最終のFIM機能点数はP<0.01の有意差を認めた。入院期間(精神症状群平均74.9±15.5日,認知症群平均72.4±21.1日,単独群平均73.8±17.7日)とFIM機能点数の利得に関しては有意差を認めなかった。退院環境に関する入院前から入院後の調査では,精神症状群は自宅7名(53.9%)から6名(46.2%),病院5名(38.5%)から3名(23.1%),施設1名(7.7%)から4名(30.8%)であった。また認知症群では自宅25名(56.8%)から23名(52.3%),病院4名(9.1%)から3名(6.8%),施設15名(34.1%)から18名(40.9%)であった。さらに単独群では,自宅27名(84.4%)から23名(71.9%),病院2名(6.3%)から3名(9.4%),施設3名(9.4%)から6名(18.8%)であり,すべての群において施設利用者の増加が確認できた。
【考察】
FIM数の結果から,3群において骨折による一時的な機能低下に陥っても,理学療法による介入が,能力の改善に有効であった。また精神・認知機能面での低下を有する患者においての身体能力の改善,退院環境の変化は,調査前の推論とは異なり単独群と比較しても明らかな差は認められなかった。退院環境に与える影響は,多くの社会的背景も関与してくるが,精神・認知機能の低下の有無を問わず,回復期リハ病棟での介入が有効であることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,高齢者,精神・認知機能といった,理学療法のみならず医療分野において関わりが重要視されるテーマで調査を行った。その中でも,精神・認知機能に問題を有する患者において理学療法士が関わっていく必要性について,認識する機会となることを望む。