第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 神経理学療法 ポスター

その他2

Sat. May 31, 2014 11:20 AM - 12:10 PM ポスター会場 (神経)

座長:寄本恵輔(国立精神・神経医療研究センターリハビリテーション部)

神経 ポスター

[0890] アルツハイマー病患者の歩行自立度と理学療法効果の関連

金子真, 須藤恵理子 (地方独立行政法人秋田県立病院機構秋田県立リハビリテーション精神医療センター)

Keywords:アルツハイマー病, PT効果, ADL

【はじめに,目的】
アルツハイマー病(以下AD)患者への入院加療では,薬物治療と並行し理学療法(以下PT)を行うことで,残存機能の維持と運動機能の改善を図ることが,ADLを維持するために重要と考えられる。認知症患者に対する理学療法の効果を検討した報告はいくつかみられるものの,AD患者に限局した報告は少ない。そこで,歩行可能な入院中のAD患者で,PTを1ヶ月以上継続した人を対象に,理学療法効果を分析した。病棟生活で歩行自立している患者と,歩行は可能だが,安定性や耐久性が不十分であるため,病棟内での歩行が自立していない患者に区分し,入院時点での歩行自立度の違いが,理学療法効果に与える影響を後方視的に調査した。
【方法】
2001~2013年の間,当センターにて入院したAD患者710名の内,歩行や運動機能に問題のない患者と歩行困難な患者を対象から除外した。その上で,疼痛や筋力低下,体力低下などの機能低下がある患者で,PTを1ヶ月以上継続し,以下の条件を満たす122名を対象とした。条件は入退院時の10m最大歩行速度(MWS),体幹・下肢運動年齢(MOA),Barthel Index(BI)が測定可能で,歩行障害をきたす重篤な骨関節疾患や神経・筋疾患を有さないものとした。男性34名,女性88名,平均年齢81.9±5.1歳,AD発症からの罹病期間4.2±2.5年,PT実施期間76.2±57.1日であった。認知症病棟内での入院時歩行自立度をBIの歩行項目を基準として,歩行自立群68名,歩行非自立群54名の2群に分けた。2群間で入院時の年齢,性別,罹病期間,MMSE,PT実施期間に差はみられなかった。入院時と退院時のMWS,MOA,BI総点の2群間の違いを,対応のないt検定を用いて分析した。入退院のMWS,MOA,BI総点の変化は,対応のあるt検定を用いた。また,BIの総点に差がみられた時に下部項目の自立度変化をχ二乗検定で分析した。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に基づき,個人が特定されないように個人情報の保護に配慮して検討を行った。
【結果】
自立群と非自立群の比較ではMWS,MOA,BI総点で自立群が入・退院時共に有意に高い結果であった(p<0.01)。入院中の各項目の変化はMWSでは,自立群は分速52.2±19.5mから56.0±24.9mと有意な変化は見られなかった。非自立群は分速35.0±18.0mから42.9±21.7mとなり,有意な改善を示した(p<0.01)。MOAにおいて自立群は30.1±12.6ヶ月から32.1±13.3ヶ月となり有意に向上した(p<0.05)。非自立群でも20.2±6.2ヶ月から24.9±9.6ヶ月となり,有意な向上を示した(p<0.01)。BI総点では自立群は78.0±16.8点から76.2±20.2点と変化は見られなかった。非自立群は46.1±22.6点から57.0±27.1点となり,有意に改善した(p<0.01)。非自立群で,BIの下部項目の自立度の改善が見られた項目は,移乗と歩行であった。移乗の自立者が14名から29名に,歩行の自立者が0名から19名に有意に増加した(p<0.01)。
【考察】
本研究対象のAD患者は,歩行可能であるが脆弱さがあり,機能低下がすでに生じていた対象者であると考えられる。このような特徴をもつAD患者に対して1ヶ月以上のPTを施行したところ,入院時点での歩行自立度の違いによってPTの効果が異なることが明かになった。運動・動作能力は両群共に改善を示したが,歩行速度,ADL能力は,歩行が自立していない患者でのみ改善した。歩行が自立していない要因として,不活動による廃用性の筋力低下や体力低下の影響が大きい。PT介入により活動性が向上し,歩行量の増大や立位バランスの向上が得られたことで,運動・動作能力,歩行速度,病棟での歩行や移乗が改善したと推測される。対照的に歩行自立者は入院・退院時共に非自立者に比べ,高い運動・動作,歩行能力,ADL能力を有していた。機能低下があると判断してPT介入を行い,運動動作能力の改善は得られたが,ADLの改善につながるほどの効果はなかった。
ADに対するPT効果は,歩行非自立者では歩行や動作能力,移乗・歩行を中心としたADLの改善であった。歩行自立者では,機能維持が主効果であると推察される。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,AD患者の入院時歩行自立度の違いが,理学療法効果に与える影響を検分したものである。今回の結果から,機能低下を有するAD患者にPTを行うことで,歩行非自立者の歩行・移乗を向上させ,自立者の機能を維持させることが可能という知見が得られ,AD患者に対するPT介入の指針となりうる。