第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 基礎理学療法 口述

身体運動学1

Sat. May 31, 2014 1:00 PM - 1:50 PM 第3会場 (3F 301)

座長:相馬俊雄(新潟医療福祉大学理学療法学科)

基礎 口述

[0891] 歩行速度の変化による体幹・下肢の加速度の変動性の違い

戸田晴貴1,2, 長野明紀2, 羅志偉2 (1.倉敷平成病院リハビリテーション部, 2.神戸大学大学院システム情報学研究科)

Keywords:歩行速度, 加速度計, 健常者

【はじめに,目的】
歩行動作は,周期性のある動作とされているが,歩行中の関節運動,歩幅や立脚期時間はわずかに変動している。歩行中の変動性の大きさは,歩行速度に影響を受けることが報告されている。日常生活においては,快適な歩行速度のみならずさまざまな速度で歩行を行っている。よって,歩行速度の違いにより変動性がどのように影響を受けるのか分析する必要がある。
3軸加速度計を用いて歩行中の変動性を検討した先行研究の多くは,加速度計を頭部または腰椎・仙骨部に貼付して計測を行っている。しかしながら,これらの部位の変動性は,両下肢の制御に影響を受けることが予測される。しかしながら,歩行中の下肢運動の変動性が歩行速度により影響を受けるのか,また体節により影響に違いが見られるかを検討した報告は,我々が渉猟した範囲においてはなされていない。本研究の目的は,健常成人において歩行中の変動性の程度が体幹と下肢の各体節により歩行速度にどのように影響を受けるかを検討することとした。
【方法】
対象者は,20歳代の健常な若年者20名(男性10名,女性10名)であった。計測課題は,歩行速度を5段階に設定した歩行とした。対象者の快適歩行時のケイデンスを100%(Normal;N条件)とし,80%(Very Low;VL条件),90%(Low;L条件),110%(First;F条件),120%(Very First;VF条件)のケイデンスを算出した。歩行速度は,メトロノームのリズムにより統一した。対象者は,ランダムに選択されたケイデンスごとに15mの直線歩行路を1往復行った。
歩行中の加速度は,小型無線多機能センサー(TSND121;ATR Promotions社製)を用いてサンプリング周波数100Hzにて計測した。センサーは,頭部と第3腰椎棘突起部の後面と両側の股関節,大腿遠位部,下腿遠位部の外側に貼付した。得られた加速度波形から歩き始めと歩き終わりの4歩を除く10歩を抽出した。そこから,変動性の程度を評価するために,抽出された信号波形同士の相互相関係数(CCC)を算出した。CCCは,抽出された10歩のすべての組み合わせで算出し,得られた値を加算平均したものを代表値とした。統計解析は,歩行速度と性別の違いによる変動性の違いを検討するために2元配置分散分析とTukeyの多重比較検定を行った。有意水準は,5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,ヘルシンキ宣言に沿ったものであり,実施に先立ち当院倫理委員会の承認を得た後,すべての被検者に研究の目的と内容を説明し,文書による同意を得たうえで計測を行った。
【結果】
上下方向のCCCは,頭部,腰部,右股関節,右大腿部において,VL条件では,FとVF条件と比較して有意に大きくなっていた。また右下腿部において男性は,N条件ではVF条件と比較し有意に大きくなっており,女性では,L条件で他の4条件と比較して有意に小さくなっていた。しかしながら,それらの値の差は小さく,上下方向のCCCは,部位や速度の違いに関わらず,高い値を示した(0.94-0.98)。前後方向のCCCは,頭部と左大腿部において,男性は女性と比較し有意に大きくなっていた。また右股関節,右大腿部,右下腿部,左下腿部においては,交互作用が有意となり男性と女性では異なる傾向を示した。男性は,これらの部位において速度条件による差を認めなかったが,女性は特にL条件において他の4条件と比較して有意に小さくなっていた。左右方向のCCCは,主に性別による差を認め,右股関節と左大腿部において,男性は女性と比較して有意に大きくなっていた。反対に,腰部,右大腿部,左股関節においては,男性は女性と比較して有意に小さくなっていた。
【考察】
本研究の結果,上下方向のCCCは,速度条件による有意差を認めたものの男性と女性の両方とも高い値を示していたことから,歩行において上下方向の変動性が小さくなるような制御が行われている可能性がある。前後方向のCCCは,性別により傾向の違いを認めた。女性は,快適歩行速度から少し歩行速度を遅くした場合に,体幹と下肢の両方とも前後方向の変動性が大きくなることが示唆された。左右方向のCCCは,速度条件による影響は少なく,主に性別による違いを認めた。このことから,男性と女性では歩行時の左右方向への制御方略が異なる可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,若年健常者において歩行速度の違いが身体各部位の変動性に及ぼす影響と性別による違いを示した。このことは,高齢者や歩行障害を有するものの歩行中の体幹・下肢の制御メカニズムを検討して行くための基盤とすることができる。