[0898] スマートフォンによる地域在住女性高齢者の運動学的解析
Keywords:スマートフォン, 地域在住高齢者, 姿勢評価
【はじめに,目的】
我々は,スマートフォンの内蔵センサーを用いた運動学的解析アプリケーションを開発し,これまでに,スマートフォンによる運動学的解析の妥当性と再現性を示してきた(Mizunoら,2013)。本学会においても,地域在住女性高齢者の歩行時の姿勢を横断的に調査し,年齢と歩行時の前傾姿勢に関係があることを報告してきた。スマートフォンによる運動学的解析は,費用,汎用性,携帯性の面から,従前より研究室で使用される他の計測装置よりも優れており,臨床や地域への応用が期待される。そこで本研究は,地域在住高齢者を対象に,スマートフォンによる運動学的解析を縦断的に実施し,地域在住高齢者の立位・歩行時の姿勢と身体機能に関する加齢変化について,調査することを目的とした。
【方法】
地域在住高齢者向けの運動教室に参加され,1年前にもスマートフォンによる運動学的解析を行った女性高齢者11名(年齢71.4±2.9歳,身長152.3±5.8 cm,体重52.9±5.9 kg)を対象とし,身体機能として右膝伸展筋力,Timed Up and Go test(TUG),快適歩行を測定した。また,姿勢に関しては,安静立位時,および快適歩行時の矢状面,前額面の体幹傾斜角度を,Mizunoら(2013)の方法に準拠し,iPod touch 5th generation(Apple Inc.)と自作のアプリケーション「ジャイロくん3」を用いて計測した。なお,矢状面は,平均値(平均前傾角度)と最大値(最大前傾角度),最小値(最小前傾角度)を,前額面は,得られたデータの2乗平方根から,平均値(平均側屈角度)と最大値(最大側屈角度)を算出し,解析の対象とした。また,定常歩行時の傾斜角度は,体格による影響を考慮し,安静立位時の傾斜角度で補正した。統計学的解析は,指標ごとに1年間の変化量を算出し,ウィルコクソンの符号付順位検定を用いて差異を調べるとともに,Spearmanの順位和相関係数から姿勢と身体機能の関係を調べた。なお,有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究の対象者には,研究目的および内容に関して,書面および口頭にて充分説明を行った後,書面による同意を得た。また,本研究内容および研究手順は北里大学医療衛生学部の研究倫理審査委員会によって承認されたものである。
【結果】
安静立位時の平均前傾角度が28.0±5.3°,平均側屈角度が1.3±1.1°であり,1年前と比べて有意な平均前傾角度の増大を認め,加齢に伴い体幹が前傾していることを示した(p=0.003)。また,定常歩行時では,1年前と比べて,最大側屈角度に有意な減少を認め,加齢に伴い左右方向の傾斜が減少することを示した(p=0.003)。なお,身体機能では,右膝伸展筋力,快適歩行速度に有意差を認めず,加齢による変化は認めなかったが,TUGは有意に所要時間が延長し,加齢に伴う機能的移動能力の低下を示した。また,Spearmanの順位和相関係数を算出したところ,定常歩行時における最大前傾角度とTUGの変化量(rs=0.69,p<0.019),定常歩行時における最小前傾角度と歩行速度の変化量(rs=0.82,p<0.002)に相関関係を認め,1年前と比べて,歩行時の体幹前傾運動が少ないほど,TUGの所要時間が延長し,歩行速度が低下することが分かった。
【考察】
これまでに,高齢者は加齢に伴い脊柱が前傾すること,また,歩行速度や歩幅が減少することが明らかとなっている。近年では,高齢者は若年者と比較し,歩隔を増大させることによって左右動揺量を減少させるといった報告(高橋ら,2010)も認められる。本調査によって,地域在住女性高齢者においては,安静立位時では体幹が前傾し,歩行時では左右方向の傾斜が減少することが明らかとなった。なお,本調査では,歩隔を調査していないため,歩行時の左右方向の傾斜減少について充分な考察はできないが,これまでの先行研究と同様の結果を示したことから,スマートフォンによる運動学的解析は,地域在住女性高齢者における姿勢の加齢変化を充分に捉えることが可能であると考えた。さらに,安静立位時で補正した歩行時の前傾姿勢が,転倒や生活機能と関係するTUGの所要時間や歩行速度に影響することが明らかとなった。このことから,地域在住女性高齢者は,歩行時の体幹前傾運動が大きいと,機能的移動能力や歩行能力が高い可能性があると考えた。
【理学療法学研究としての意義】
スマートフォンによる運動学的解析が,地域在住女性高齢者の立位・歩行時の姿勢において,特徴的な加齢変化を捉えたことから,地域や臨床への応用も期待できる測定手段になり得ることが提示できたとともに,計測機器が利用できない療法士にとって,非常に有益な情報を与えるものと考える。なお,本研究課題は科学研究費助成事業の若手研究(B)の一環として実施されたものである。
我々は,スマートフォンの内蔵センサーを用いた運動学的解析アプリケーションを開発し,これまでに,スマートフォンによる運動学的解析の妥当性と再現性を示してきた(Mizunoら,2013)。本学会においても,地域在住女性高齢者の歩行時の姿勢を横断的に調査し,年齢と歩行時の前傾姿勢に関係があることを報告してきた。スマートフォンによる運動学的解析は,費用,汎用性,携帯性の面から,従前より研究室で使用される他の計測装置よりも優れており,臨床や地域への応用が期待される。そこで本研究は,地域在住高齢者を対象に,スマートフォンによる運動学的解析を縦断的に実施し,地域在住高齢者の立位・歩行時の姿勢と身体機能に関する加齢変化について,調査することを目的とした。
【方法】
地域在住高齢者向けの運動教室に参加され,1年前にもスマートフォンによる運動学的解析を行った女性高齢者11名(年齢71.4±2.9歳,身長152.3±5.8 cm,体重52.9±5.9 kg)を対象とし,身体機能として右膝伸展筋力,Timed Up and Go test(TUG),快適歩行を測定した。また,姿勢に関しては,安静立位時,および快適歩行時の矢状面,前額面の体幹傾斜角度を,Mizunoら(2013)の方法に準拠し,iPod touch 5th generation(Apple Inc.)と自作のアプリケーション「ジャイロくん3」を用いて計測した。なお,矢状面は,平均値(平均前傾角度)と最大値(最大前傾角度),最小値(最小前傾角度)を,前額面は,得られたデータの2乗平方根から,平均値(平均側屈角度)と最大値(最大側屈角度)を算出し,解析の対象とした。また,定常歩行時の傾斜角度は,体格による影響を考慮し,安静立位時の傾斜角度で補正した。統計学的解析は,指標ごとに1年間の変化量を算出し,ウィルコクソンの符号付順位検定を用いて差異を調べるとともに,Spearmanの順位和相関係数から姿勢と身体機能の関係を調べた。なお,有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究の対象者には,研究目的および内容に関して,書面および口頭にて充分説明を行った後,書面による同意を得た。また,本研究内容および研究手順は北里大学医療衛生学部の研究倫理審査委員会によって承認されたものである。
【結果】
安静立位時の平均前傾角度が28.0±5.3°,平均側屈角度が1.3±1.1°であり,1年前と比べて有意な平均前傾角度の増大を認め,加齢に伴い体幹が前傾していることを示した(p=0.003)。また,定常歩行時では,1年前と比べて,最大側屈角度に有意な減少を認め,加齢に伴い左右方向の傾斜が減少することを示した(p=0.003)。なお,身体機能では,右膝伸展筋力,快適歩行速度に有意差を認めず,加齢による変化は認めなかったが,TUGは有意に所要時間が延長し,加齢に伴う機能的移動能力の低下を示した。また,Spearmanの順位和相関係数を算出したところ,定常歩行時における最大前傾角度とTUGの変化量(rs=0.69,p<0.019),定常歩行時における最小前傾角度と歩行速度の変化量(rs=0.82,p<0.002)に相関関係を認め,1年前と比べて,歩行時の体幹前傾運動が少ないほど,TUGの所要時間が延長し,歩行速度が低下することが分かった。
【考察】
これまでに,高齢者は加齢に伴い脊柱が前傾すること,また,歩行速度や歩幅が減少することが明らかとなっている。近年では,高齢者は若年者と比較し,歩隔を増大させることによって左右動揺量を減少させるといった報告(高橋ら,2010)も認められる。本調査によって,地域在住女性高齢者においては,安静立位時では体幹が前傾し,歩行時では左右方向の傾斜が減少することが明らかとなった。なお,本調査では,歩隔を調査していないため,歩行時の左右方向の傾斜減少について充分な考察はできないが,これまでの先行研究と同様の結果を示したことから,スマートフォンによる運動学的解析は,地域在住女性高齢者における姿勢の加齢変化を充分に捉えることが可能であると考えた。さらに,安静立位時で補正した歩行時の前傾姿勢が,転倒や生活機能と関係するTUGの所要時間や歩行速度に影響することが明らかとなった。このことから,地域在住女性高齢者は,歩行時の体幹前傾運動が大きいと,機能的移動能力や歩行能力が高い可能性があると考えた。
【理学療法学研究としての意義】
スマートフォンによる運動学的解析が,地域在住女性高齢者の立位・歩行時の姿勢において,特徴的な加齢変化を捉えたことから,地域や臨床への応用も期待できる測定手段になり得ることが提示できたとともに,計測機器が利用できない療法士にとって,非常に有益な情報を与えるものと考える。なお,本研究課題は科学研究費助成事業の若手研究(B)の一環として実施されたものである。