[0900] 前屈動作時の腰椎変位に影響する因子
キーワード:体幹機能, 体幹前屈, 固定
【はじめに】
前屈動作は日常生活で多用され,腰痛者が困難になる代表的な動作である。先行研究では腰痛者を対象に前屈動作時の身体部位の動きを分析した報告(Lariviereら,2000:Leeら,2002)は散見されるが,影響する体幹機能を検討したものは見当たらない。また,椎間板ヘルニアや椎間関節症では動作中に腰椎固定性を高める必要があるが,その影響因子は明らかにされていない。
前屈動作に関与する身体機能は複雑多岐にわたると考えられ,単純な影響要因の検討では不十分である。そこでまず基礎的な知見を得るため,健常者を対象に前屈動作時の腰椎の動きと,影響すると考えられる複数の身体機能を測定し,相互関係性を考慮した多変量解析によって検討することを目的とした。
【方法】
対象は健常成人男性30名とした。平均年齢は20.4±1.9歳,身長は171.7±4.3cm,体重は62.9±9.7kgであった。全ての被験者は,腰痛や整形外科学的既往を有していなかった。被験者の左大腿骨外側上顆・左上前腸骨棘(ASIS)・両上後腸骨棘の中点(PSIS中点)・PSIS中点から15cm上方・左肩峰にマーカー(直径25mmと40mmの赤色球)を貼付した。まず,被験者に足を肩幅に開いた安静立位となってもらう。その後,二種類の条件で前屈動作を行わせた。一つ目の条件は自由条件とし,「膝を曲げずに,やりやすいやすい早さでかがんで下さい」と指示,二つ目の条件は固定条件とし,「膝と体幹を曲げずに,やりやすいやすい早さでかがんで下さい」と指示した。各前屈動作は,被験者の左側方に三脚固定しておいたデジタルカメラ(CASIO社製EXFH100:240fps)で撮影した。撮影した動画はパソコン用の動画変換用ソフト(Free Video to JPG Converter)を用いて静止画に変換した。静止画からImaje J ver1.46を用いて前屈角度と腰椎変位を測定した。前屈角度は肩峰と大転子を結ぶ線と,大転子と大腿骨外側上顆を結ぶ線がなす角度とした。腰椎変位はASISとPSIS中点を結ぶ線と,PSIS中点とPSIS中点から15cm上方がなす角度とし,安静立位時を基準にして前屈角度30°(前屈30°)と前屈角度60°(前屈60°)で算出した。
次に,筋機能として体幹伸展最大筋力,体幹伸展持久力(Kraus Weber Test大阪市大式変法),側腹筋持久力(Side Bridge Test)を測定した。最大筋力は,両足部をベルトで固定した腹臥位で徒手筋力測定器(日本メディックス社製Micro FET)を用いて測定した。この他に,股関節柔軟性としてボールを蹴る方の下肢伸展挙上(SLR)角度,腰椎柔軟性としてModified Modified Schober Test,胸椎柔軟性としてPSIS中点から15cm上方と第1胸椎棘突起の距離をメジャーで測定し,安静立位を基準にして立位から最大前屈位の距離の差を算出した。
統計解析はR2.8.1(CRAN,freeware)を用い,自由・固定条件の腰椎変位を従属変数,身体基本情報・筋機能・柔軟性の項目を独立変数とした正準相関分析を前屈30°と前屈60°それぞれで適用した。
【倫理的配慮,説明と同意】
この研究はヘルシンキ宣言に沿って行った。対象者には研究の目的・方法を十分説明した後,書面への署名によって実験参加への同意を得た。また,筆頭演者所属施設の倫理委員会の承認を得ている。
【結果】
前屈30°において第1正準変量は,体幹伸展持久力(正準負荷量:0.55),腰部柔軟性(0.47)の順に自由条件の腰椎変位(0.55),固定条件の腰椎変位(0.47)へ影響していた。
前屈60°において第1正準変量は,身長(0.77),股関節柔軟性(0.43),腰部柔軟性(0.32)の順に自由条件の腰椎変位(0.97)へ影響していた。第2正準変量は,体幹伸展最大筋力(0.62),体幹伸展持久力(0.61),腰部柔軟性(0.39),側腹筋持久力(0.34)の順に,固定条件の腰椎変位(0.83)へ影響していた。
【考察】
腰椎の動きを制御するには筋機能が重要であるが(Panjabi,1992),前屈30°では,筋持久力のような最大筋力とは異なった機能が重要であることが明らかとなった。また,前屈最終域以外でも腰部柔軟性が影響した。前屈初期で腰椎の動き易さが問題となる症例では体幹伸展筋に加え,腰部柔軟性へアプローチする必要があると考える。
前屈60°では,自由条件の場合,腰部・股関節の柔軟性以外に身長が大きく影響していた。これは椅子や机など外的環境に適応し,身体機能が変化することで影響したと考える。また,固定条件で筋機能が影響するのは当然であるが,特に体幹伸展筋機能は前屈動作時の腰椎固定性を高める可能性がある。
【理学療法学研究としての意義】
前屈動作における腰椎制御機能の基礎的知見を得ることで,理学療法評価の指標となり,また,腰痛患者の治療を考案する一助となる。
前屈動作は日常生活で多用され,腰痛者が困難になる代表的な動作である。先行研究では腰痛者を対象に前屈動作時の身体部位の動きを分析した報告(Lariviereら,2000:Leeら,2002)は散見されるが,影響する体幹機能を検討したものは見当たらない。また,椎間板ヘルニアや椎間関節症では動作中に腰椎固定性を高める必要があるが,その影響因子は明らかにされていない。
前屈動作に関与する身体機能は複雑多岐にわたると考えられ,単純な影響要因の検討では不十分である。そこでまず基礎的な知見を得るため,健常者を対象に前屈動作時の腰椎の動きと,影響すると考えられる複数の身体機能を測定し,相互関係性を考慮した多変量解析によって検討することを目的とした。
【方法】
対象は健常成人男性30名とした。平均年齢は20.4±1.9歳,身長は171.7±4.3cm,体重は62.9±9.7kgであった。全ての被験者は,腰痛や整形外科学的既往を有していなかった。被験者の左大腿骨外側上顆・左上前腸骨棘(ASIS)・両上後腸骨棘の中点(PSIS中点)・PSIS中点から15cm上方・左肩峰にマーカー(直径25mmと40mmの赤色球)を貼付した。まず,被験者に足を肩幅に開いた安静立位となってもらう。その後,二種類の条件で前屈動作を行わせた。一つ目の条件は自由条件とし,「膝を曲げずに,やりやすいやすい早さでかがんで下さい」と指示,二つ目の条件は固定条件とし,「膝と体幹を曲げずに,やりやすいやすい早さでかがんで下さい」と指示した。各前屈動作は,被験者の左側方に三脚固定しておいたデジタルカメラ(CASIO社製EXFH100:240fps)で撮影した。撮影した動画はパソコン用の動画変換用ソフト(Free Video to JPG Converter)を用いて静止画に変換した。静止画からImaje J ver1.46を用いて前屈角度と腰椎変位を測定した。前屈角度は肩峰と大転子を結ぶ線と,大転子と大腿骨外側上顆を結ぶ線がなす角度とした。腰椎変位はASISとPSIS中点を結ぶ線と,PSIS中点とPSIS中点から15cm上方がなす角度とし,安静立位時を基準にして前屈角度30°(前屈30°)と前屈角度60°(前屈60°)で算出した。
次に,筋機能として体幹伸展最大筋力,体幹伸展持久力(Kraus Weber Test大阪市大式変法),側腹筋持久力(Side Bridge Test)を測定した。最大筋力は,両足部をベルトで固定した腹臥位で徒手筋力測定器(日本メディックス社製Micro FET)を用いて測定した。この他に,股関節柔軟性としてボールを蹴る方の下肢伸展挙上(SLR)角度,腰椎柔軟性としてModified Modified Schober Test,胸椎柔軟性としてPSIS中点から15cm上方と第1胸椎棘突起の距離をメジャーで測定し,安静立位を基準にして立位から最大前屈位の距離の差を算出した。
統計解析はR2.8.1(CRAN,freeware)を用い,自由・固定条件の腰椎変位を従属変数,身体基本情報・筋機能・柔軟性の項目を独立変数とした正準相関分析を前屈30°と前屈60°それぞれで適用した。
【倫理的配慮,説明と同意】
この研究はヘルシンキ宣言に沿って行った。対象者には研究の目的・方法を十分説明した後,書面への署名によって実験参加への同意を得た。また,筆頭演者所属施設の倫理委員会の承認を得ている。
【結果】
前屈30°において第1正準変量は,体幹伸展持久力(正準負荷量:0.55),腰部柔軟性(0.47)の順に自由条件の腰椎変位(0.55),固定条件の腰椎変位(0.47)へ影響していた。
前屈60°において第1正準変量は,身長(0.77),股関節柔軟性(0.43),腰部柔軟性(0.32)の順に自由条件の腰椎変位(0.97)へ影響していた。第2正準変量は,体幹伸展最大筋力(0.62),体幹伸展持久力(0.61),腰部柔軟性(0.39),側腹筋持久力(0.34)の順に,固定条件の腰椎変位(0.83)へ影響していた。
【考察】
腰椎の動きを制御するには筋機能が重要であるが(Panjabi,1992),前屈30°では,筋持久力のような最大筋力とは異なった機能が重要であることが明らかとなった。また,前屈最終域以外でも腰部柔軟性が影響した。前屈初期で腰椎の動き易さが問題となる症例では体幹伸展筋に加え,腰部柔軟性へアプローチする必要があると考える。
前屈60°では,自由条件の場合,腰部・股関節の柔軟性以外に身長が大きく影響していた。これは椅子や机など外的環境に適応し,身体機能が変化することで影響したと考える。また,固定条件で筋機能が影響するのは当然であるが,特に体幹伸展筋機能は前屈動作時の腰椎固定性を高める可能性がある。
【理学療法学研究としての意義】
前屈動作における腰椎制御機能の基礎的知見を得ることで,理学療法評価の指標となり,また,腰痛患者の治療を考案する一助となる。