[0903] 糖尿病性末梢神経障害患者の身体活動量を低下させる要因
Keywords:糖尿病性末梢神経障害, 身体活動量, 歩行機能
【はじめに,目的】
日本における糖尿病(以下DM)患者は増加し続けており2030年までには1000万人を超えると予測されている。DM患者が患う合併症のうち最も多く,早期に起きるものとして糖尿病性末梢神経障害(以下DPN)がある。DPN患者はDM患者と比較して重篤な合併症の罹患率や死亡率が高いことが報告されており,その原因の1つとして運動を行う頻度が低く,身体活動量が少ないことが報告されている。運動が実施されない背景には社会的要因,環境的要因,個人的要因が複雑に絡み合っているが,DPN患者においては末梢神経機能の低下から生じる歩行機能の低下によって,身体的な疲労を助長させ身体活動量が制限されると考えられる。そこで本研究はDPN患者の身体活動量を低下させる要因について歩行機能を含めた評価から明らかにすることを目的とし,DM患者との比較により検討を行った。
【方法】
対象は当院に教育入院され内分泌内科より運動療法の処方が出されたDM患者7名(年齢51±16歳,身長166.3±6.0cm,体重70.8±15.5kg,BMI25.5±3.8kg/m2),DPN患者24名(年齢57±13歳,身長161.7±6.4cm,体重60.9±12.1kg,BMI23.2±4.4kg/m2)とした。DPNの診断は内分泌内科医によって行われ神経障害の自覚症状,アキレス腱反射の低下,振動覚の低下のうち2項目以上当てはまる者とした。なお,整形外科的疾患や中枢性疾患,疼痛のある者については対象から除外した。測定項目は身体活動量の評価として国際標準化身体活動量質問票Long Versionを用いガイドラインを参考に消費エネルギー量を算出し,運動をしない理由の評価として13項目からなる選択回答式のアンケートを実施した。また,運動耐容能の評価として最大歩行速度での6分間歩行テストを実施し歩行距離を測定した。歩行の動揺性の評価には3軸加速度計を用い,自己選択した速度での10m歩行を実施し,得られたデータよりRoot Mean Square(以下RMS)を算出した。なお,RMSは速度の影響を受けるため速度の2乗値で除し,標準化した値を用いた。統計学的解析はDM群,DPN群の比較として対応のないt検定を行い,有意水準は危険率5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には本研究の趣旨,目的,測定内容を口頭にて説明し,書面にて同意を得た。また,個人情報については当院の個人情報保護の指針に基づき,匿名化し個人が特定されないよう十分な配慮を行った。
【結果】
消費エネルギー量はDM群1530±549kcal,DPN群1076±422kcalでありDPN群にて有意に低値を示した(p<0.05)。運動をしない理由のアンケート結果では,DM群において1位:面倒くさい57%,2位:機会がない,現状で満足29%,3位:疲れる・疲れている14%であり,DPN群では1位:疲れる・疲れている67%,2位:面倒くさい,体調が悪い25%,3位:時間がない16%であった。6分間歩行距離はDM群586±33m,DPN群460±111mでありDPN群にて有意に低値を示した(p<0.05)。RMSはDM群19.1±1.9m/sec2,DPN群24.1±5.6 m/sec2でありDPN群にて有意に高値を示した(p<0.05)。また,年齢,身長,体重,BMIは両群に有意な差を認めなかった。
【考察】
本研究において,DPN患者はDM患者と比較して身体活動量が低く,運動をしない理由として疲労が最も大きな影響を与えていることが明らかとなった。また,DPN患者は運動耐容能が低く,歩行の動揺性が大きいことが明らかとなった。DPNは末梢神経髄鞘の脱落や軸索の変形,感覚受容器の低下によって固有感覚からのフィードバックが低下する。その結果,DPN患者は歩行における足関節の機動性の低下や,前脛骨筋と下腿三頭筋の協調性が変化することが報告されていることから,歩行の動揺性が高値を示したと考えられる。また,歩行の動揺性の増加は歩行中の筋活動量を増加させエネルギー消費量を増加させる。DM患者は健常者と比較し,筋グリコーゲン含有量が少ないことやミトコンドリア機能の低下により運動耐容能が低いことが明らかとなっているが,DPN患者は加えて歩行の動揺性が大きく消費エネルギー量が多いことで運動耐容能が低下していると考えられる。運動耐容能の低下は運動中の疲労を早期に惹起することから,DPN患者の身体活動量は低値を示したと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果より,DPN患者は歩行の動揺性が大きく運動耐容能の低下によって身体的疲労を助長し,身体活動量が低下している可能性が示唆された。DPN患者に対する運動指導は確立されておらず,DM患者と同様の運動指導が行われているのが現状である。DPN患者の歩行機能に対し,理学療法士が評価を行い,問題点を抽出することでDPN患者の運動指導の確立に寄与できると考えられ,理学療法士の職域の拡大に繋がると考えられる。
日本における糖尿病(以下DM)患者は増加し続けており2030年までには1000万人を超えると予測されている。DM患者が患う合併症のうち最も多く,早期に起きるものとして糖尿病性末梢神経障害(以下DPN)がある。DPN患者はDM患者と比較して重篤な合併症の罹患率や死亡率が高いことが報告されており,その原因の1つとして運動を行う頻度が低く,身体活動量が少ないことが報告されている。運動が実施されない背景には社会的要因,環境的要因,個人的要因が複雑に絡み合っているが,DPN患者においては末梢神経機能の低下から生じる歩行機能の低下によって,身体的な疲労を助長させ身体活動量が制限されると考えられる。そこで本研究はDPN患者の身体活動量を低下させる要因について歩行機能を含めた評価から明らかにすることを目的とし,DM患者との比較により検討を行った。
【方法】
対象は当院に教育入院され内分泌内科より運動療法の処方が出されたDM患者7名(年齢51±16歳,身長166.3±6.0cm,体重70.8±15.5kg,BMI25.5±3.8kg/m2),DPN患者24名(年齢57±13歳,身長161.7±6.4cm,体重60.9±12.1kg,BMI23.2±4.4kg/m2)とした。DPNの診断は内分泌内科医によって行われ神経障害の自覚症状,アキレス腱反射の低下,振動覚の低下のうち2項目以上当てはまる者とした。なお,整形外科的疾患や中枢性疾患,疼痛のある者については対象から除外した。測定項目は身体活動量の評価として国際標準化身体活動量質問票Long Versionを用いガイドラインを参考に消費エネルギー量を算出し,運動をしない理由の評価として13項目からなる選択回答式のアンケートを実施した。また,運動耐容能の評価として最大歩行速度での6分間歩行テストを実施し歩行距離を測定した。歩行の動揺性の評価には3軸加速度計を用い,自己選択した速度での10m歩行を実施し,得られたデータよりRoot Mean Square(以下RMS)を算出した。なお,RMSは速度の影響を受けるため速度の2乗値で除し,標準化した値を用いた。統計学的解析はDM群,DPN群の比較として対応のないt検定を行い,有意水準は危険率5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には本研究の趣旨,目的,測定内容を口頭にて説明し,書面にて同意を得た。また,個人情報については当院の個人情報保護の指針に基づき,匿名化し個人が特定されないよう十分な配慮を行った。
【結果】
消費エネルギー量はDM群1530±549kcal,DPN群1076±422kcalでありDPN群にて有意に低値を示した(p<0.05)。運動をしない理由のアンケート結果では,DM群において1位:面倒くさい57%,2位:機会がない,現状で満足29%,3位:疲れる・疲れている14%であり,DPN群では1位:疲れる・疲れている67%,2位:面倒くさい,体調が悪い25%,3位:時間がない16%であった。6分間歩行距離はDM群586±33m,DPN群460±111mでありDPN群にて有意に低値を示した(p<0.05)。RMSはDM群19.1±1.9m/sec2,DPN群24.1±5.6 m/sec2でありDPN群にて有意に高値を示した(p<0.05)。また,年齢,身長,体重,BMIは両群に有意な差を認めなかった。
【考察】
本研究において,DPN患者はDM患者と比較して身体活動量が低く,運動をしない理由として疲労が最も大きな影響を与えていることが明らかとなった。また,DPN患者は運動耐容能が低く,歩行の動揺性が大きいことが明らかとなった。DPNは末梢神経髄鞘の脱落や軸索の変形,感覚受容器の低下によって固有感覚からのフィードバックが低下する。その結果,DPN患者は歩行における足関節の機動性の低下や,前脛骨筋と下腿三頭筋の協調性が変化することが報告されていることから,歩行の動揺性が高値を示したと考えられる。また,歩行の動揺性の増加は歩行中の筋活動量を増加させエネルギー消費量を増加させる。DM患者は健常者と比較し,筋グリコーゲン含有量が少ないことやミトコンドリア機能の低下により運動耐容能が低いことが明らかとなっているが,DPN患者は加えて歩行の動揺性が大きく消費エネルギー量が多いことで運動耐容能が低下していると考えられる。運動耐容能の低下は運動中の疲労を早期に惹起することから,DPN患者の身体活動量は低値を示したと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果より,DPN患者は歩行の動揺性が大きく運動耐容能の低下によって身体的疲労を助長し,身体活動量が低下している可能性が示唆された。DPN患者に対する運動指導は確立されておらず,DM患者と同様の運動指導が行われているのが現状である。DPN患者の歩行機能に対し,理学療法士が評価を行い,問題点を抽出することでDPN患者の運動指導の確立に寄与できると考えられ,理学療法士の職域の拡大に繋がると考えられる。