[0905] 介護予防教室を利用する二次予防対象者における,転倒関連因子の改善と糖尿病の影響
キーワード:糖尿病, 介護予防, 転倒
【はじめに,目的】地域高齢者の20%前後が1年間に転倒を経験し,要介護の原因の11%を占めている。平成18年度介護保険法改正により,高齢者の生活機能の低下を早期に発見し改善するための二次予防事業として介護予防教室が整備された。この事業の実施により要介護のリスクの高い高齢者の心身機能の改善効果が確認され,運動指導の必要性が示されている。2011年度の国民健康・栄養調査によると日本の糖尿病人口は1067万人に上り,その多くは60歳70歳代の高齢者である。高齢者における糖尿病割合は約20%であり,糖尿病高齢者に対する転倒予防を目的とした運動療法の検討が必要とされる。現在の介護予防教室では,集団での運動介入が多く,糖尿病の有無により内容を変更するといった取組みはなされておらず,糖尿病高齢者の転倒予防に十分効果があるとは言い難い。そこで,本研究では二次予防対象者において,介護予防教室の運動介入による転倒関連因子に対する改善効果及び糖尿病の有無による効果の相違を検討する。糖尿病に罹患している二次予防高齢者における,転倒関連因子の運動介入の効果的な改善方法を探ることを目的とした。
【方法】平成24年10月から平成25年9月にかけて,山梨県A市の介護予防教室に参加している二次予防高齢者を対象に,厚生労働省の運動器機能向上マニュアルに基づいた運動介入を理学療法士により3か月間,週2回の頻度で実施した。3か月間の介入前後で末梢神経障害・運動機能・生活機能など評価を実施した。末梢神経障害は,自覚症状の有無,アキレス腱反射,振動覚,モノフィラメント検査により評価した。運動機能の評価のために,足関節背屈可動域,母趾中足趾節間関節(以下MTP)可動域,Timed up and go test(以下TUG),開眼片脚立位時間,5m歩行速度(通常・最大),30秒椅子立ち上がりテスト(以下CS-30)を実施した。生活機能の評価には,日本理学療法士協会のE-SASを使用し調査した。統計手法はSPSSにて,χ2検定,独立サンプルの検定,対応サンプルの検定,二元配置分散分析を用い,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は吉備国際大学倫理審査委員会の承認を得,全対象者に本研究の趣旨を説明し紙面にて同意を得て実施した。
【結果】1年間で2施設にて70名が参加登録され,データ収集が可能であった63名(男性15名・女性48名)を対象とした。対象を糖尿病または境界型糖尿病(以下DM群)17名(27%),それ以外(以下正常群)46名(73%)の2群に分類した。年齢,性別,既往歴の循環器疾患・脳血管疾患・運動器疾患・視力障害に関してχ2検定を行ったところ2群間に差は認められなかった。群間比較では,運動介入前のBody Mass Index・MTP屈曲可動域に有意差がみられ,介入後では片脚立位時間とMTP屈曲伸展可動域に有意差が認められた。運動介入による効果は運動機能で評価した。運動介入前後の変化率の群間比較では,正常群は運動機能9項目中,最大歩行時間のみDM群と比較し正常群で有意な改善を認めた。しかし,各群の介入前後の比較では,正常群は運動機能9項目中,片脚立位時間・下肢筋力(CS-30)・最大歩行速度・TUGなど7項目に有意な改善が認められた。またDM群は運動機能9項目中,正常群でもみられた片脚立位時間・足関節背屈可動域・MTP屈曲可動域の3項目には有意な改善が認められたが,下肢筋力・最大歩行速度・TUG,MTP伸展可動域に改善は認められなかった。
【考察】
運動介入により2群とも運動機能・生活機能に改善が認められており厚生労働省の結果と一致している。群間比較では,介入前の評価で糖尿病群において有意に母趾MTP屈曲可動域の低下が認められた。それは末梢神経障害や酸化ストレス上昇(Meng,2010)または,腎機能低下に基づくビタミンDの活性化抑制から誘因される筋力低下(Faullcer,2006)によるものと考えられる。介入前後で改善したのは,正常群9項目,DM群3項目であり,糖尿病に罹患していた場合通常の介入では下肢筋力,最大歩行時にTUGなど歩行,動的バランスに関与している項目で改善効果の減少が認められた。運動介入後において糖尿病性神経障害の影響と考えられる感覚障害の有無に有意な差が認められたこと,さらに糖尿病患者においてサルコペニア(加齢性筋肉減弱症)を誘導する要因の1つである(Meng,2010)酸化ストレスが亢進する(Davi,1999)ことなどがそのことに関与していると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】二次予防対象者において糖尿病の有無による運動介入の効果の相違を明らかにした点,加齢による影響と糖尿病罹患の影響とを区別して検証した点に意義があると考える。またそのメカニズムと症状や疾患別プログラムなど,検討すべき理学療法研究課題を明らかにした点も同様である。
【方法】平成24年10月から平成25年9月にかけて,山梨県A市の介護予防教室に参加している二次予防高齢者を対象に,厚生労働省の運動器機能向上マニュアルに基づいた運動介入を理学療法士により3か月間,週2回の頻度で実施した。3か月間の介入前後で末梢神経障害・運動機能・生活機能など評価を実施した。末梢神経障害は,自覚症状の有無,アキレス腱反射,振動覚,モノフィラメント検査により評価した。運動機能の評価のために,足関節背屈可動域,母趾中足趾節間関節(以下MTP)可動域,Timed up and go test(以下TUG),開眼片脚立位時間,5m歩行速度(通常・最大),30秒椅子立ち上がりテスト(以下CS-30)を実施した。生活機能の評価には,日本理学療法士協会のE-SASを使用し調査した。統計手法はSPSSにて,χ2検定,独立サンプルの検定,対応サンプルの検定,二元配置分散分析を用い,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は吉備国際大学倫理審査委員会の承認を得,全対象者に本研究の趣旨を説明し紙面にて同意を得て実施した。
【結果】1年間で2施設にて70名が参加登録され,データ収集が可能であった63名(男性15名・女性48名)を対象とした。対象を糖尿病または境界型糖尿病(以下DM群)17名(27%),それ以外(以下正常群)46名(73%)の2群に分類した。年齢,性別,既往歴の循環器疾患・脳血管疾患・運動器疾患・視力障害に関してχ2検定を行ったところ2群間に差は認められなかった。群間比較では,運動介入前のBody Mass Index・MTP屈曲可動域に有意差がみられ,介入後では片脚立位時間とMTP屈曲伸展可動域に有意差が認められた。運動介入による効果は運動機能で評価した。運動介入前後の変化率の群間比較では,正常群は運動機能9項目中,最大歩行時間のみDM群と比較し正常群で有意な改善を認めた。しかし,各群の介入前後の比較では,正常群は運動機能9項目中,片脚立位時間・下肢筋力(CS-30)・最大歩行速度・TUGなど7項目に有意な改善が認められた。またDM群は運動機能9項目中,正常群でもみられた片脚立位時間・足関節背屈可動域・MTP屈曲可動域の3項目には有意な改善が認められたが,下肢筋力・最大歩行速度・TUG,MTP伸展可動域に改善は認められなかった。
【考察】
運動介入により2群とも運動機能・生活機能に改善が認められており厚生労働省の結果と一致している。群間比較では,介入前の評価で糖尿病群において有意に母趾MTP屈曲可動域の低下が認められた。それは末梢神経障害や酸化ストレス上昇(Meng,2010)または,腎機能低下に基づくビタミンDの活性化抑制から誘因される筋力低下(Faullcer,2006)によるものと考えられる。介入前後で改善したのは,正常群9項目,DM群3項目であり,糖尿病に罹患していた場合通常の介入では下肢筋力,最大歩行時にTUGなど歩行,動的バランスに関与している項目で改善効果の減少が認められた。運動介入後において糖尿病性神経障害の影響と考えられる感覚障害の有無に有意な差が認められたこと,さらに糖尿病患者においてサルコペニア(加齢性筋肉減弱症)を誘導する要因の1つである(Meng,2010)酸化ストレスが亢進する(Davi,1999)ことなどがそのことに関与していると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】二次予防対象者において糖尿病の有無による運動介入の効果の相違を明らかにした点,加齢による影響と糖尿病罹患の影響とを区別して検証した点に意義があると考える。またそのメカニズムと症状や疾患別プログラムなど,検討すべき理学療法研究課題を明らかにした点も同様である。