[0906] 植物工場における頚髄損傷者の就労を目的とした坐位作業時の上肢アシスト機器の検討
キーワード:頚髄損傷, 就労, 植物工場
【はじめに,目的】
我々が提唱する福祉型植物工場は,軽負荷かつ坐位での農作業が可能になるため,高齢者の就労年齢の延伸化に貢献するとともに障がい者,特に低賃金かつ就職難にある重度障がい者にも雇用促進,職域拡大,就労賃金の向上を図れる可能性がある。さらに植物工場の特徴として,室内環境で設置場所を自由にできることから都市部の高齢者や障がい者が暮らすコミュニティで事業展開できるため,アクセシビリティーの面からも注目を集めている。第48回全国理学療法学術大会では,リフトロボットを活用した完全人工光型植物工場における作業環境のユニバーサルデザイン化により,高齢者や障がい者の坐位作業での就労の可能性を示した。その後,奥行きが少ない縦50cm×横50cmに縮小した特製の定植板トレーや特製作業棚の開発,農業資材の導入など,作業環境の整備を進めている。一方,上肢を空間位で保持した肢位での作業が強いられることにより肩関節や頸部周囲筋群の活動が高まり,上肢負担が課題となっている。
そこで本研究では,植物工場における頚髄損傷者の就労を目的とし,アシストシステムの一部に「グレイパー」という既存のブドウ収穫時の上肢アシスト機器を使用することで,坐位作業の上肢筋活動の軽減が可能であるかを検討した。
【方法】
対象は,男性頚髄損傷者3名(Zancolliの分類:C6A,BI,BIIの各レベル1名),平均年齢34±10歳であった。作業課題は,縦50cm×横50cmに9つの穴を空けた特製の定植板トレーを用い,9つの苗を植える「定植」を行わせた。植物は本学の植物工場研究センターで実際に育成している定植用の苗(約10g)を用いた。作業は事前に十分な説明を行い,植物を丁寧に扱うよう指示を与え,作業速度は任意で実施させた。測定条件は,上肢アシスト機器の有無による2条件とし,ランダムに実施した。なお,作業環境は対象者が日常生活で使用している車椅子を用い,作業台の高さを70cm,作業台と体幹の間隔を15cmに設定した。
筋活動は,表面筋電計(Noraxon社製)を用い,作業中の筋電図電位をサンプリング周波数1.5kHzで記録し,作業開始から作業終了までを解析区間とした。対象筋は,農作業に伴う筋骨格系障害が上肢に出現することから,対象者の残存筋のうち,利き手側の僧帽筋,大胸筋,三角筋前部,三角筋中部,上腕二頭筋の5筋とした。測定波形は整流化し,各筋の最大随意収縮(Maximum Voluntary Contraction:MVC)を基準に正規化(%MVC)し,2条件における作業全体の平均%MVCを求め比較した。また,上肢アシスト機器有りでの平均%MVCを上肢アシスト機器無しでの平均%MVCで除し,最も軽減される筋の抽出を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
研究倫理審査委員会の承認を得た後,対象者に本研究の目的および内容について十分に説明し同意を得た。
【結果】
作業全体における平均%MVCは,僧帽筋,大胸筋,三角筋前部,三角筋中部,上腕二頭筋の順に,上肢アシスト機器無し条件では12.5±2.2%,14.9±10.7%,8.8±4.8%,6.4±3.3%,1.2±0.5%であり,上肢アシスト機器有り条件では10.4±2.3%,14.2±9.1%,7.7±3.6%,5.3±2.1%,1.2±0.7%であった。また,上肢アシスト機器有りは無しに比べ,作業中の平均%MVCが僧帽筋において最も軽減した。
【考察】
本研究により,上腕三頭筋の麻痺を有する第6頚髄損傷者でも植物工場の作業遂行が実用レベルで可能であることが分かった。また,定植作業時には僧帽筋と大胸筋の平均%MVCが10%を超えており,上肢アシスト機器を使用することで僧帽筋の活動量が軽減することが明らかとなった。福祉型植物工場におけるアシストシステムは,完全な自動化やロボットのようなものではなく,あくまでも働き手が坐位でも主体的に,そして可能な限り手動操作を基本として作業できる上肢の負担軽減機能を搭載することにより,個々人が有する能力や潜在能力を引き出し,筋骨格系障害を予防しつつ作業効率を維持できること目指している。今回使用した「グレイパー」は,形状記憶合金を用いているため上下・前後への作業時に下方からの柔軟な支えが可能でありつつ,支柱固定部が回旋を妨げないため,作業範囲が横70cm×奥行き50cm必要である定植作業においても下方からの上肢支持が可能であった。一方,形状記憶合金の元の形に戻ろうとする力が,上肢挙上位からの肩関節伸展・内転時の抵抗になり,大胸筋の筋活動が高まる場面もみられ,就労に活用するには習熟が必要であることが分かった。
【理学療法学研究としての意義】
頚髄損傷者の身体特性を捉えた理学療法学研究により,重度身体障がい者の農業分野への就労支援に寄与するとともに,労働者の筋骨格系障害の予防や作業効率を維持できる就労環境を整え,豊かな暮らしを支える一助になり得る。
我々が提唱する福祉型植物工場は,軽負荷かつ坐位での農作業が可能になるため,高齢者の就労年齢の延伸化に貢献するとともに障がい者,特に低賃金かつ就職難にある重度障がい者にも雇用促進,職域拡大,就労賃金の向上を図れる可能性がある。さらに植物工場の特徴として,室内環境で設置場所を自由にできることから都市部の高齢者や障がい者が暮らすコミュニティで事業展開できるため,アクセシビリティーの面からも注目を集めている。第48回全国理学療法学術大会では,リフトロボットを活用した完全人工光型植物工場における作業環境のユニバーサルデザイン化により,高齢者や障がい者の坐位作業での就労の可能性を示した。その後,奥行きが少ない縦50cm×横50cmに縮小した特製の定植板トレーや特製作業棚の開発,農業資材の導入など,作業環境の整備を進めている。一方,上肢を空間位で保持した肢位での作業が強いられることにより肩関節や頸部周囲筋群の活動が高まり,上肢負担が課題となっている。
そこで本研究では,植物工場における頚髄損傷者の就労を目的とし,アシストシステムの一部に「グレイパー」という既存のブドウ収穫時の上肢アシスト機器を使用することで,坐位作業の上肢筋活動の軽減が可能であるかを検討した。
【方法】
対象は,男性頚髄損傷者3名(Zancolliの分類:C6A,BI,BIIの各レベル1名),平均年齢34±10歳であった。作業課題は,縦50cm×横50cmに9つの穴を空けた特製の定植板トレーを用い,9つの苗を植える「定植」を行わせた。植物は本学の植物工場研究センターで実際に育成している定植用の苗(約10g)を用いた。作業は事前に十分な説明を行い,植物を丁寧に扱うよう指示を与え,作業速度は任意で実施させた。測定条件は,上肢アシスト機器の有無による2条件とし,ランダムに実施した。なお,作業環境は対象者が日常生活で使用している車椅子を用い,作業台の高さを70cm,作業台と体幹の間隔を15cmに設定した。
筋活動は,表面筋電計(Noraxon社製)を用い,作業中の筋電図電位をサンプリング周波数1.5kHzで記録し,作業開始から作業終了までを解析区間とした。対象筋は,農作業に伴う筋骨格系障害が上肢に出現することから,対象者の残存筋のうち,利き手側の僧帽筋,大胸筋,三角筋前部,三角筋中部,上腕二頭筋の5筋とした。測定波形は整流化し,各筋の最大随意収縮(Maximum Voluntary Contraction:MVC)を基準に正規化(%MVC)し,2条件における作業全体の平均%MVCを求め比較した。また,上肢アシスト機器有りでの平均%MVCを上肢アシスト機器無しでの平均%MVCで除し,最も軽減される筋の抽出を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
研究倫理審査委員会の承認を得た後,対象者に本研究の目的および内容について十分に説明し同意を得た。
【結果】
作業全体における平均%MVCは,僧帽筋,大胸筋,三角筋前部,三角筋中部,上腕二頭筋の順に,上肢アシスト機器無し条件では12.5±2.2%,14.9±10.7%,8.8±4.8%,6.4±3.3%,1.2±0.5%であり,上肢アシスト機器有り条件では10.4±2.3%,14.2±9.1%,7.7±3.6%,5.3±2.1%,1.2±0.7%であった。また,上肢アシスト機器有りは無しに比べ,作業中の平均%MVCが僧帽筋において最も軽減した。
【考察】
本研究により,上腕三頭筋の麻痺を有する第6頚髄損傷者でも植物工場の作業遂行が実用レベルで可能であることが分かった。また,定植作業時には僧帽筋と大胸筋の平均%MVCが10%を超えており,上肢アシスト機器を使用することで僧帽筋の活動量が軽減することが明らかとなった。福祉型植物工場におけるアシストシステムは,完全な自動化やロボットのようなものではなく,あくまでも働き手が坐位でも主体的に,そして可能な限り手動操作を基本として作業できる上肢の負担軽減機能を搭載することにより,個々人が有する能力や潜在能力を引き出し,筋骨格系障害を予防しつつ作業効率を維持できること目指している。今回使用した「グレイパー」は,形状記憶合金を用いているため上下・前後への作業時に下方からの柔軟な支えが可能でありつつ,支柱固定部が回旋を妨げないため,作業範囲が横70cm×奥行き50cm必要である定植作業においても下方からの上肢支持が可能であった。一方,形状記憶合金の元の形に戻ろうとする力が,上肢挙上位からの肩関節伸展・内転時の抵抗になり,大胸筋の筋活動が高まる場面もみられ,就労に活用するには習熟が必要であることが分かった。
【理学療法学研究としての意義】
頚髄損傷者の身体特性を捉えた理学療法学研究により,重度身体障がい者の農業分野への就労支援に寄与するとともに,労働者の筋骨格系障害の予防や作業効率を維持できる就労環境を整え,豊かな暮らしを支える一助になり得る。