[0913] 歩行神経筋電気刺激装置ウォークエイド使用による回復期脳卒中片麻痺患者の歩行因子の変化
Keywords:機能的電気刺激, 片麻痺, 歩行速度
【目的】
近年,脳卒中片麻庫患者の身体機能回復を主たる目的としてFunctional Electrical Stimulation(以下FES)を使用することの有効性が注目されている。下肢へのFESの効果として,末梢神経を電気的に刺激することで筋収縮を促すことや筋収縮に伴う求心性の感覚入力による神経経路の改善,歩行速度が向上することなどが報告されている。
当院では2013年より歩行神経筋電気刺激装置ウォークエイドを使用した脳卒中片麻庫患者に対するFESトレーニングを開始した。ウォークエイドは患者の歩行パターンに合わせて腓骨神経を電気刺激して足関節背屈を促すFES装置である。本研究の目的は,FESトレーニングを実施した症例の歩行因子の変化を通してウォークエイドの効果を検証することである。
【方法】
対象は脳梗塞発症後1ヶ月が経過した右片麻痺患者である。下肢装具を使用せずに見守りで歩行が可能であったが,前脛骨筋の筋力低下および下腿三頭筋の筋緊張亢進により麻痺側下肢のイニシャルスイング(以下ISw)からミッドスイング(以下MSw)にかけてトゥドラッグが見られ,これが歩行の不安定性に繋がっていた。検証開始時の10m歩行所要時間は14.7秒,川村義肢社製Gait Judge Systemを用い計測されるイニシャルコンタクト(以下IC)からローディングレスポンス(以下LR)に装具に発生する足関節底屈トルク値(ファーストピーク値:以下FP値)は3.5Nm,プレスイングに発生する足関節底屈トルク値(セカンドピーク値:以下SP値)は3.8Nmであった。
本症例においてウォークエイド使用による歩行因子の変化を検証した。研究デザインにはAB法によるシングルケーススタディを用いた。A期(28日間)には歩行トレーニングの際にウォークエイドを併用した電気刺激を実施し,B期(28日間)には通常の歩行トレーニングを実施した。計測は1週間毎に計8度実施し,結果は各期間で二分平均法により回帰直線とその傾きを求めた。
【倫理的配慮,説明と同意】
当研究はヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則に配慮し,被験者に研究の目的,方法を説明し同意を得た。また所属施設長の承認を得て実施された。
【結果】
各期間のデータの平均値と回帰係数は,10m歩行所要時間がA期に11.2±1.4秒/-1.24,B期に10.3±0.3秒/0.05と,ウォークエイドによる治療介入前と比較しA期で所要時間が短縮し,ウォークエイドの使用を中止したB期においても所要時間の短縮を維持していた。また,FP値がA期に7.4±1.1Nm/0.85,B期に5.8±0.9Nm/-0.13,SP値がA期に7.0±1.8Nm/1.55,B期に7.0±0.9Nm/0.09と,それぞれの指標においても歩行所要時間と同様にA期での改善とB期での維持を認めた。
【考察】
健常歩行においては,足関節はISwで15°底屈位から5°底屈位へ,またMSwで5°底屈位からニュートラルゼロポジションまで背屈し,このとき前脛骨筋の活動が活発になるとされる。本症例は麻痺側前脛骨筋の筋力低下および下腿三頭筋の筋緊張亢進により,ISwからの足関節背屈位への切り替えが不十分となっていた。A期に歩行中の深腓骨神経への電気刺激を実施したことで,前脛骨筋の筋力向上および適切なタイミングでの収縮の学習がなされたことにより,トゥドラッグが解消され,歩行スピードの向上に繋がったものと考えられる。また足関節のヒールロッカー機能を示すFP値およびフォアフットロッカー機能を示すSP値も向上が見られた。FP値はICからLRにかけての足関節背屈機能の向上により増大するとされており,今回の結果からウォークエイド使用により前脛骨筋の筋力が向上し,立脚初期の麻痺側足関節背屈機能が向上したことを反映しているものと考えられた。またSP値の増大は,ISwでの背屈位への切り替えが保障されたことでプレスイングにおいて十分な足関節底屈運動が可能となり,フォアフットロッカー機能が向上した結果であると考えられる。先行研究では脳卒中片麻痺患者のSP値は歩行速度と正の相関があることが明らかになっている。本症例においてもSP値の増大が歩行の推進力を向上させ,10m歩行所要時間の短縮に繋がったものと思われる。
これらの指標はB期においても維持・向上を示しており,ウォークエイドが歩行能力を向上させる効果には持続性があるものと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は近年臨床場面で普及しつつあるFESがトゥドラッグを有する回復期脳卒中片麻痺患者の足関節背屈機能を向上させる効果を示唆するものであり,中枢神経疾患に対する電気療法の発展において重要な示唆を与えるものであると考える。
近年,脳卒中片麻庫患者の身体機能回復を主たる目的としてFunctional Electrical Stimulation(以下FES)を使用することの有効性が注目されている。下肢へのFESの効果として,末梢神経を電気的に刺激することで筋収縮を促すことや筋収縮に伴う求心性の感覚入力による神経経路の改善,歩行速度が向上することなどが報告されている。
当院では2013年より歩行神経筋電気刺激装置ウォークエイドを使用した脳卒中片麻庫患者に対するFESトレーニングを開始した。ウォークエイドは患者の歩行パターンに合わせて腓骨神経を電気刺激して足関節背屈を促すFES装置である。本研究の目的は,FESトレーニングを実施した症例の歩行因子の変化を通してウォークエイドの効果を検証することである。
【方法】
対象は脳梗塞発症後1ヶ月が経過した右片麻痺患者である。下肢装具を使用せずに見守りで歩行が可能であったが,前脛骨筋の筋力低下および下腿三頭筋の筋緊張亢進により麻痺側下肢のイニシャルスイング(以下ISw)からミッドスイング(以下MSw)にかけてトゥドラッグが見られ,これが歩行の不安定性に繋がっていた。検証開始時の10m歩行所要時間は14.7秒,川村義肢社製Gait Judge Systemを用い計測されるイニシャルコンタクト(以下IC)からローディングレスポンス(以下LR)に装具に発生する足関節底屈トルク値(ファーストピーク値:以下FP値)は3.5Nm,プレスイングに発生する足関節底屈トルク値(セカンドピーク値:以下SP値)は3.8Nmであった。
本症例においてウォークエイド使用による歩行因子の変化を検証した。研究デザインにはAB法によるシングルケーススタディを用いた。A期(28日間)には歩行トレーニングの際にウォークエイドを併用した電気刺激を実施し,B期(28日間)には通常の歩行トレーニングを実施した。計測は1週間毎に計8度実施し,結果は各期間で二分平均法により回帰直線とその傾きを求めた。
【倫理的配慮,説明と同意】
当研究はヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則に配慮し,被験者に研究の目的,方法を説明し同意を得た。また所属施設長の承認を得て実施された。
【結果】
各期間のデータの平均値と回帰係数は,10m歩行所要時間がA期に11.2±1.4秒/-1.24,B期に10.3±0.3秒/0.05と,ウォークエイドによる治療介入前と比較しA期で所要時間が短縮し,ウォークエイドの使用を中止したB期においても所要時間の短縮を維持していた。また,FP値がA期に7.4±1.1Nm/0.85,B期に5.8±0.9Nm/-0.13,SP値がA期に7.0±1.8Nm/1.55,B期に7.0±0.9Nm/0.09と,それぞれの指標においても歩行所要時間と同様にA期での改善とB期での維持を認めた。
【考察】
健常歩行においては,足関節はISwで15°底屈位から5°底屈位へ,またMSwで5°底屈位からニュートラルゼロポジションまで背屈し,このとき前脛骨筋の活動が活発になるとされる。本症例は麻痺側前脛骨筋の筋力低下および下腿三頭筋の筋緊張亢進により,ISwからの足関節背屈位への切り替えが不十分となっていた。A期に歩行中の深腓骨神経への電気刺激を実施したことで,前脛骨筋の筋力向上および適切なタイミングでの収縮の学習がなされたことにより,トゥドラッグが解消され,歩行スピードの向上に繋がったものと考えられる。また足関節のヒールロッカー機能を示すFP値およびフォアフットロッカー機能を示すSP値も向上が見られた。FP値はICからLRにかけての足関節背屈機能の向上により増大するとされており,今回の結果からウォークエイド使用により前脛骨筋の筋力が向上し,立脚初期の麻痺側足関節背屈機能が向上したことを反映しているものと考えられた。またSP値の増大は,ISwでの背屈位への切り替えが保障されたことでプレスイングにおいて十分な足関節底屈運動が可能となり,フォアフットロッカー機能が向上した結果であると考えられる。先行研究では脳卒中片麻痺患者のSP値は歩行速度と正の相関があることが明らかになっている。本症例においてもSP値の増大が歩行の推進力を向上させ,10m歩行所要時間の短縮に繋がったものと思われる。
これらの指標はB期においても維持・向上を示しており,ウォークエイドが歩行能力を向上させる効果には持続性があるものと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は近年臨床場面で普及しつつあるFESがトゥドラッグを有する回復期脳卒中片麻痺患者の足関節背屈機能を向上させる効果を示唆するものであり,中枢神経疾患に対する電気療法の発展において重要な示唆を与えるものであると考える。