[0914] 1か月間の集中的な機能的電気刺激療法前後の運動機能と脳機能画像の変化:症例報告
キーワード:機能的電気刺激, 脳卒中, PET
【はじめに,目的】
機能的電気刺激装置(functional electrical Stimulation:FES)は,運動機能を改善する目的で脳卒中や脊髄損傷後の症例で用いられる。近年,FES中の脳機能画像評価から,随意収縮と同期したFESを実施することで感覚野や小脳の賦活が増大することが報告されているが,実際にFESの治療期間前後の脳機能画像を評価した報告は我々が捗猟し得た限りない。そこで本研究では,慢性期の脳梗塞症例に対してFESを用いた1か月間のリハビリテーションを実施し,その前後の運動課題中の脳活動をポジトロン断層法(positron emission tomography:PET)を用いて評価し,若干の知見を得たので報告する。
【方法】
症例は70歳代の女性。右放線冠の脳梗塞により左不全麻痺を生じ,発症後7年経過している。FESリハビリテーション開始前の上田式12段階片麻痺機能テストは下肢5,Modified Ashworth Scaleは2,左足関節分離した背屈運動は困難であり,下肢伸展拳上を伴うと前脛骨筋の収縮は確認できた。歩行はプラスティックAFOを使用し,T字杖用いて自立レベルであった。脳機能画像評価はH2[15O]-PETにて測定した。電極貼り付け部位は左前脛骨筋とし,安静時に電気刺激で足関節背屈運動が生じることを確認した。電気刺激はCarrier周波数2000Hz,Burst周波数を100Hz,Duty比50%の双極矩形波とした。運動タスクは左足関節背屈を伴った左下肢伸展拳上運動として,3秒間収縮―3秒間安静を反復させた。PET撮像は,①安静,②随意運動のみ,③電気刺激のみ,④随意運動と電気刺激の併用の4タスク中の脳血流を測定した。また,大型床反力計4枚とカメラ10台を同期させたVicon MX(Vicon Motion Systems社)を用いて三次元歩行解析を実施した。歩行解析時には装具は使用せず,T字杖は使用し,裸足での自由歩行とした。評価後1ヶ月間のFESを用いたリハビリテーション(週5回20分間のFESを用いた歩行及びその関連動作練習と,毎日合計1時間程度の電気刺激と随意運動を同期した自主トレーニング)を実施した。1か月後に再度同様の条件でPET撮影と歩行解析を行い,両者を定量的に比較した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は総務省戦略的情報通信研究開発推進制度(SCOPE)の委託研究に基づき,福井大学医学部附属病院治験審査委員会の承認を得て行った。また,症例には事前に十分説明し,書面にて同意を得ている。
【結果】
FESリハビリテーション介入前の脳機能画像評価では,②随意運動のみでは対側運動野のみの血流増大がみられたが,④電気刺激と随意運動の併用では対側感覚野にも血流増大がみられた。③電気のみでは有意な血流増大はみられなかった。1か月間のFESリハビリテーション後のPETでは,介入前に比べ全ての運動条件下で血流増大領域の局在化と増強がみられた。また③電気刺激単独および④電気刺激と随意運動の併用では,感覚野の血流がより増強していた。FESリハビリテーション前の歩行解析では,遊脚期の足関節背屈角度は底屈位であり,1か月間のFES実施後でも底屈位のままであったが,改善傾向にあった。一方,FES実施前は立脚期の膝関節は過伸展位であったが,1か月間のリハビリテーション介入により軽度屈曲位で歩行可能となった。立脚期の下肢支持モーメントは1か月間のFESリハビリテーション介入により0.39±0.02Nm/kgから0.80±0.03Nm/kgと約2倍に増大していた。また,10m最大速度歩行は,36秒/10mから21秒/10mに改善し,12段階下肢麻痺グレードは変化を認めなかったが膝関節屈曲位での自動背屈運動が可能となった。
【考察】
随意運動のみと比較して電気刺激を併用することにより即時的に感覚野まで賦活範囲が拡大し,さらに1か月間のFESリハビリテーション後にはその賦活の程度が増大していた。FESリハビリテーション介入前の電気刺激のみでは明らかな脳の賦活は得られなかったことから,運動と電気刺激を同期することの重要性が示唆された。また,発症7年以上経過した症例においても1か月間のFESリハビリテーション介入により運動機能が改善するとともに運動中の脳の賦活範囲や強度が変化することが示された。
【理学療法学研究としての意義】
脳卒中ガイドラインでFESは推奨されているものの,実際の臨床で広く使用されているとは言い難い。その理由としてFESがもたらす効果が十分解明されていないことが考えられる。本研究ではFESが運動機能のみでなく脳機能にも変化をもたらすことを示唆でき,理学療法研究として意義が大きいと考えられる。
機能的電気刺激装置(functional electrical Stimulation:FES)は,運動機能を改善する目的で脳卒中や脊髄損傷後の症例で用いられる。近年,FES中の脳機能画像評価から,随意収縮と同期したFESを実施することで感覚野や小脳の賦活が増大することが報告されているが,実際にFESの治療期間前後の脳機能画像を評価した報告は我々が捗猟し得た限りない。そこで本研究では,慢性期の脳梗塞症例に対してFESを用いた1か月間のリハビリテーションを実施し,その前後の運動課題中の脳活動をポジトロン断層法(positron emission tomography:PET)を用いて評価し,若干の知見を得たので報告する。
【方法】
症例は70歳代の女性。右放線冠の脳梗塞により左不全麻痺を生じ,発症後7年経過している。FESリハビリテーション開始前の上田式12段階片麻痺機能テストは下肢5,Modified Ashworth Scaleは2,左足関節分離した背屈運動は困難であり,下肢伸展拳上を伴うと前脛骨筋の収縮は確認できた。歩行はプラスティックAFOを使用し,T字杖用いて自立レベルであった。脳機能画像評価はH2[15O]-PETにて測定した。電極貼り付け部位は左前脛骨筋とし,安静時に電気刺激で足関節背屈運動が生じることを確認した。電気刺激はCarrier周波数2000Hz,Burst周波数を100Hz,Duty比50%の双極矩形波とした。運動タスクは左足関節背屈を伴った左下肢伸展拳上運動として,3秒間収縮―3秒間安静を反復させた。PET撮像は,①安静,②随意運動のみ,③電気刺激のみ,④随意運動と電気刺激の併用の4タスク中の脳血流を測定した。また,大型床反力計4枚とカメラ10台を同期させたVicon MX(Vicon Motion Systems社)を用いて三次元歩行解析を実施した。歩行解析時には装具は使用せず,T字杖は使用し,裸足での自由歩行とした。評価後1ヶ月間のFESを用いたリハビリテーション(週5回20分間のFESを用いた歩行及びその関連動作練習と,毎日合計1時間程度の電気刺激と随意運動を同期した自主トレーニング)を実施した。1か月後に再度同様の条件でPET撮影と歩行解析を行い,両者を定量的に比較した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は総務省戦略的情報通信研究開発推進制度(SCOPE)の委託研究に基づき,福井大学医学部附属病院治験審査委員会の承認を得て行った。また,症例には事前に十分説明し,書面にて同意を得ている。
【結果】
FESリハビリテーション介入前の脳機能画像評価では,②随意運動のみでは対側運動野のみの血流増大がみられたが,④電気刺激と随意運動の併用では対側感覚野にも血流増大がみられた。③電気のみでは有意な血流増大はみられなかった。1か月間のFESリハビリテーション後のPETでは,介入前に比べ全ての運動条件下で血流増大領域の局在化と増強がみられた。また③電気刺激単独および④電気刺激と随意運動の併用では,感覚野の血流がより増強していた。FESリハビリテーション前の歩行解析では,遊脚期の足関節背屈角度は底屈位であり,1か月間のFES実施後でも底屈位のままであったが,改善傾向にあった。一方,FES実施前は立脚期の膝関節は過伸展位であったが,1か月間のリハビリテーション介入により軽度屈曲位で歩行可能となった。立脚期の下肢支持モーメントは1か月間のFESリハビリテーション介入により0.39±0.02Nm/kgから0.80±0.03Nm/kgと約2倍に増大していた。また,10m最大速度歩行は,36秒/10mから21秒/10mに改善し,12段階下肢麻痺グレードは変化を認めなかったが膝関節屈曲位での自動背屈運動が可能となった。
【考察】
随意運動のみと比較して電気刺激を併用することにより即時的に感覚野まで賦活範囲が拡大し,さらに1か月間のFESリハビリテーション後にはその賦活の程度が増大していた。FESリハビリテーション介入前の電気刺激のみでは明らかな脳の賦活は得られなかったことから,運動と電気刺激を同期することの重要性が示唆された。また,発症7年以上経過した症例においても1か月間のFESリハビリテーション介入により運動機能が改善するとともに運動中の脳の賦活範囲や強度が変化することが示された。
【理学療法学研究としての意義】
脳卒中ガイドラインでFESは推奨されているものの,実際の臨床で広く使用されているとは言い難い。その理由としてFESがもたらす効果が十分解明されていないことが考えられる。本研究ではFESが運動機能のみでなく脳機能にも変化をもたらすことを示唆でき,理学療法研究として意義が大きいと考えられる。