第49回日本理学療法学術大会

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神経・筋機能制御,疼痛管理

2014年5月31日(土) 13:00 〜 14:45 第8会場 (4F 411+412)

座長:坂口顕(兵庫医療大学大学院医療科学研究科リハビリテーション学部理学療法学科)

物理療法 セレクション

[0917] がん性疼痛に対する経皮的電気刺激治療の効果

徳田光紀1,2, 庄本康治2 (1.社会医療法人平成記念病院, 2.畿央大学大学院健康科学研究科)

キーワード:がん性疼痛, 経皮的電気刺激治療(TENS), 薬物使用量

【はじめに,目的】
末期がん患者の70~90%はがん性疼痛を経験し,骨転移はがん性疼痛の40%に関与すると報告されている。骨転移のがん性疼痛の治療は薬物療法が中心となるが,頻繁に使用されるオピオイドによる副作用の問題は必発し,副作用を抑制するために薬物が追加されている現状がある。がん性疼痛に加え,薬物の副作用によって日常生活動作レベルや日中活動量,生活の質の低下をきたすため,薬物使用量は可能な限り少量であることが望ましいと考えられる。一方で,経皮的電気刺激治療(Transcutaneous electrical nerve stimulation:TENS)はゲートコントロール理論と内因性オピオイド放出などによる鎮痛効果があり,非侵襲的で副作用がほとんどない理学療法手段として多く使用されている。TENSが骨転移のがん性疼痛に対して有効とした報告は散見されるが,本邦では積極的に実施されていない状況がある。また,がん性疼痛に対するTENSが薬物使用量に与える影響を検討した報告は極めて少ない。したがって,本研究の目的は,肺癌で骨転移によるがん性疼痛を呈した1症例に対して薬物療法に加えてTENSを実施し,鎮痛効果ならびに薬物使用量や副作用に与える影響を検討することとした。
【方法】
対象は肺癌で第2,3腰椎(L2,3)に骨転移を認め,がん性疼痛を呈した70代の男性である。鎮痛目的の薬物療法はオピオイドの経口投与で,オキシコンチン®1日用量60mg(30mg×2回),屯用薬オキノーム®10mg/回であった。本症例は突出痛の頻度の増加に伴って薬物使用量が漸増し,副作用の嘔気と眠気が増強していたため,薬物増量への不安も強くなっていた。
研究デザインはシングルケースのABABデザインとし,A期は薬物療法のみ,B期は薬物療法に加えてTENSを併用して実施した。各期間は2日間で,計8日間の実施期間とした。TENSには電気治療器(Trio300,伊藤超短波社製)および自着性電極(Axelgaard社製,PALS,5 cm×9 cm)を2枚用いた。パラメーターはパルス幅100μs,周波数200Hzの対称性二相性パルス波に設定した。刺激強度は感覚レベルで不快でない最大強度とし,治療時間は1回30分,疼痛時に任意での使用を指導した。電極設置部位は,疼痛の原因部位と考えられるL2,3のスクレロトームと電気刺激が入力されるデルマトームが一致するように考慮し,腰部のL2,3デルマトーム上とした。
評価は疼痛と副作用(嘔気,眠気)の程度を11段階(0~10)のNumerical Rating Scale(NRS)にて測定した(嘔吐があれば10として記録した)。各評価は盲検化された看護師によって記録されたデータ(昼,夕,翌朝の1日3回測定)を用いて1日の平均値を算出した。また屯用薬使用量(薬物使用量)とB期のTENS使用回数および内省報告も記録した。なお,便秘などの予防的副作用対策として他の薬物も併用されていたが,本研究実施期間中に,薬物の追加や用量の増量は認めなかった。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言を遵守したうえで,対象者に十分な説明を行い,同意および署名を得た。
【結果】1~8日目にかけて,各々の疼痛は2.3,1.7,2.3,1.7,2.3,2.7,1.7,2.3となった。同様に副作用症状の嘔気は6.7,5.0,2.7,2.3,4.7,6.7,2.3,2.0,眠気は5.3,5.0,3.3,2.0,4.3,5.3,2.0,2.0となり,薬物使用量(mg)は40,40,20,20,40,50,10,10となった。A期の評価項目の平均値は疼痛2.3,嘔気5.8,眠気5.0,薬物使用量42.5mgとなり,同様にB期では疼痛2.0,嘔気2.3,眠気2.3,薬物使用量17.5mgとなった。B期のTENS使用回数(3,4,7,8日目)は各々4,4,6,6回であった。また,「電気治療中は痛みが紛れる」,「電気治療は薬の代わりになる」,「電気治療すると薬を減らせるから嘔気や眠気が軽い」といった内省報告が得られた。
【考察】疼痛の程度にA期とB期で大きな差は認めなかったが,A期よりもB期の方が副作用の程度は軽減し,薬物使用量も減少した。TENSによる鎮痛効果によって薬物使用量が減少し,結果的に副作用症状も軽減したと考えられた。また内省報告やTENSの使用回数が多い方が薬物使用量は減少していることから,TENSが屯用薬の代替療法となり得る可能性が示唆された。今後は,症例数の蓄積に加えて,骨転移以外のがん性疼痛への介入,TENS介入時間による検討,痛みの質の評価の追加など,よりTENSの効果や適応を明確にしていく必要があると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】がん性疼痛を呈した1症例に対してTENSを実施し,鎮痛効果および薬物使用量の減少と薬物副作用症状の軽減を認めた。がん性疼痛に対する薬物療法の補助・代替療法としてTENSが有用である可能性があり,効果を明確にしていくことで理学療法分野拡大や医療経済効果の貢献にも繋がると考えられる。