第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 運動器理学療法 口述

スポーツ3

Sat. May 31, 2014 1:00 PM - 1:50 PM 第12会場 (5F 502)

座長:千葉慎一(昭和大学藤ヶ丘リハビリテーション病院リハビリテーション部)

運動器 口述

[0923] 大学野球投手における肩関節筋力・関節可動域の変化と投球障害肩の発生の関係

宮下浩二1, 小山太郎2 (1.中部大学生命健康科学部理学療法学科, 2.まつした整形外科)

Keywords:投球障害, 肩関節機能, スポーツ現場

【はじめに,目的】
投球障害肩を生じた選手は,肩腱板筋力低下や内旋可動域制限などの関節機能低下を呈しているとする報告は多いが,投球障害肩の発生とこれらの問題の因果関係はいまだ明確でない。現在のところ発生要因に関する根拠は,医療機関でみられた病態からの推論や,疼痛発生の半年以上前に実施されたメディカルチェックでの問題点から分析した報告が多い。しかし,野球の現場では選手の投球動作や関節機能は日々変化しており,投球障害肩の発生要因を特定することは難しい。
そこで本研究では,野球の現場においてシーズンインの投球開始時期から1ヶ月後の試合開始期に至る肩の筋力,関節可動域の変化と,試合開始期に生じていた投球時の痛みとの関係について分析した。
【方法】
本大学硬式野球部投手14名を対象とした。投球開始時の1月中旬(シーズンイン期)に肩関節の筋力および関節可動域を測定し,その後,試合開始時期の2月下旬(試合開始期)に再度,測定を行った。筋力は,徒手筋力測定機器により肩関節90度外転位での外転筋力,外旋筋力を測定した。関節可動域は90°外転位での内旋,外旋および外転(肩内外旋中間位・肘深屈曲位)の最終域をデジタルビデオで撮影し,画像解析ソフトで角度を算出した。次に,試合開始期における投球時の肩痛の有無を評価し,有痛群と健常群に分類した。両群ともに7名であった。筋力および関節可動域について両群間,各群の時期間の差,およびシーズンイン期から試合開始期にかけての筋力の変化率,関節可動域の変化量の差を統計学的に分析した(p<0.05)。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は本学倫理審査委員会の承諾を得た。研究の目的を十分に対象に行い,参加の選択は対象の自由意志で決定させ,同意の上での参加とした。
【結果】
外転筋力はシーズンイン期に,有痛群114±24N,健常群106±13Nであり,試合開始期では有痛群93±31N,健常群112±17Nであった。変化率は有痛群-19±17%,健常群6±15%であった。外旋筋力はシーズンイン期に,有痛群127±24N,健常群118±16Nであり,試合開始期では有痛群104±24N,健常群126±16Nであった。変化率は有痛群-18±12%,健常群8±11%であった。外転筋力,外旋筋力ともに変化率で両群間に有意差があった。内旋可動域はシーズンイン期に,有痛群24±8°,健常群29±8°であり,試合開始期では有痛群16±9°,健常群29±9°であった。試合開始期には有痛群が有意に低かった。変化量は有痛群-7±9°,健常群1±6°であった。外旋可動域はシーズンイン期に,有痛群124±8°,健常群123±9°であり,試合開始期では有痛群118±5°,健常群118±12°であった。変化量は有痛群-6±8°,健常群5±9°であった。外転可動域はシーズンイン期に,有痛群108±4°,健常群108±8°であり,試合開始期では有痛群94±4°,健常群101±10°であった。変化量は有痛群-14±5°,健常群-6±6°であった。有痛群はシーズンイン期より有意に低く,また変化量は有痛群が健常群より有意に低かった。
【考察】
大学野球選手の肩関節の筋力および関節可動域はシーズンイン期から変化し,投球の継続に伴って増減することが確認された。試合開始期に投球時の痛みを生じていた有痛群は投球の開始時期となるシーズンイン期には健常群よりもむしろ筋力は強く,関節可動域もほぼ同じであった。このことはシーズン開始時の筋力,関節可動域からは試合開始期の痛みの発生予測はできないことを示唆している。
一方,投球障害肩により医療機関を受診した選手に肩の筋力低下を認めることが多いことから,筋力低下が投球障害肩の主要因と考えられている。しかし我々の先行研究では,4月から10月の試合期において野球の現場で投球時の肩の痛みを生じた時に筋力低下を生じていた選手は1割もいなかった。そのため,痛みを有したまま投球を継続することで,結果として痛みの増悪と筋力低下が進行する場合が多いと考えた。今回の研究はシーズンインから試合開始期までの調査である。この時期は登板に向けて,いわゆる「肩をつくる」時期となり,通常は筋力が増加する傾向にあることが健常群の結果より示された。しかし,有痛群はシーズンイン期からの約1ヶ月間に筋力低下や可動域制限を生じていた。この時期には,投球に伴う問題(疲労による投球動作の悪化,投球数の過多など)により肩の機能低下が生じ,その結果として投球時の痛みにつながる場合もあると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
医療機関ではなく,野球の現場で関節機能評価を日常的かつ継続して行うことで,投球障害の発生と関節機能低下の関係をより明確にできた。この結果は有効な投球障害予防活動の一助となると考える。