[0925] 投球肩障害の既往が競技復帰後の肩関節機能に与える影響
キーワード:メディカルチェック, 投球肩障害の既往歴, 肩関節機能
【はじめに,目的】投球肩障害の予防及び早期障害発見を目的としたメディカルチェック(MC)が全国的に行われている。大沢らは,高校野球投手に対するMCから肩障害あり群で肩関節機能テストである原テストの陽性項目が多かったと述べており,土屋らは肩障害の有無に原テストと下肢柔軟性テストの両方が影響していたと述べている。また石井らは高校野球選手の投球肩障害発症の危険因子は,投球肩障害の既往歴(オッズ比17.6)であった事を報告している。臨床上,再発症例も少なからず経験することから,我々は投球肩障害既往の有無による,復帰後の肩関節機能への影響を明らかにすることを目的に,MCデータより後ろ向きに調査,検討した。
【方法】2012年9月に高校硬式野球選手81名に対してMCを行った。問診にて肩痛の有無を確認した後,投球側上肢の原テストと体幹下肢柔軟性(柔軟性)テストを行った。原テストは原により考案された肩関節機能評価であり,近年投球肩障害の診察において広く用いられている。項目は①Scapula Spine Distance(SSD)②Combined Abduction Test(CAT)③Horizontal Flexion Test(HFT)④Elbow Push Test(EPT)⑤Elbow Extension Test(ET)⑥下垂位外旋筋力(ISP)⑦下垂位内旋筋力(SSC)⑧下垂位から30度外転位までの外転筋力(SSP)⑨Impingement sign⑩Loose test⑪Hyper External Rotation Test(HERT)の11項目である。陰性1点,擬陽性0.5点,陽性0点で採点し合計11点とした。柔軟性テストは①下肢伸展挙上(SLR)②膝床距離(KFD)③踵臀距離(HBD)④股関節内旋角度(HIR)⑤長座体前屈⑥体幹回旋可動域(TRT)の6項目とした。土屋らの報告を参考にそれぞれ①70°②3cm③5cm④30°⑤50cm⑥60°と基準値を設け,①~④,⑥は基準値より柔軟なもの(基準値を含む)を1点,⑤は2点で採点し,合計12点とした。選手のうちMC当日に肩痛のあったものを除外した75名を対象に,1年以内に投球中止が必要な投球肩障害のあったものを既往あり群,既往がないものを既往なし群の2群に分けた。統計学的分析はSPSS ver.18を用いて,2群間における原テストと柔軟性テストそれぞれの総合点の比較,原テストと柔軟性テストそれぞれ各項目の比較をmann-whitneyのU検定,X2検定を用いて,原テストと柔軟性テストの関係性をspearmanの順位相関係数を用いて分析した。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本学会での発表に際し,野球部長,監督,選手に口頭,書面にて説明し同意を得た。
【結果】既往あり群14名,既往なし群61名であった。柔軟性テストの各項目と,原テストと柔軟性テストの総合点に有意差は認められなかった。原テスト各項目の陽性率は既往あり群でEPTとISPが有意に陽性であった(p<0.05)。また原テストと柔軟性テストの間に有意な正の相関が認められた(p<0.05,r=0.426)
【考察】原は,投球肩障害の病態を肩inner muscleとouter muscleの機能的なimbalanceで生じたものととらえ,更に大沢らは全身運動である投球動作を繰り返すことから体幹下肢の柔軟性低下を惹起し,肩inner muscleなどの筋力低下につながり,肩腱板等の炎症から投球時肩痛につながると述べている。本研究結果より高校野球選手の肩関節機能と柔軟性には有意な正の相関がみられ,改めて全身柔軟性の重要性が示唆された。また,2群間での柔軟性テスト各項目や原テストと柔軟性テスト総合点に有意差が認められなかったことから,2群間の肩関節機能や柔軟性は総合的にみた場合はほぼ同等の状態でプレー出来ていると考えらえる。しかし原テストの各項目でみると,既往あり群でEPTとISPの陽性率が高いという結果であった。EPT陽性は肩甲骨周囲筋力低下を,ISP陽性は肩外旋筋の中でも特に棘下筋の筋力低下を示すとされており,既往あり群は疼痛無くプレー出来ているもののこれらの筋力低下が起こっていた。これが原の示すinner muscleとouter muscleのimbalanceにつながるものとすれば,プレー継続により投球肩障害を再発する危険因子になり得ると思われ,注意が必要である。なぜ既往あり群にこれらの機能低下が起こっていたかは本研究では明らかにできないが,筋疲労の影響や不良フォームとの関連などの報告もみられており,今後更に症例数や調査項目を増やし検討していきたい。
【理学療法学研究としての意義】投球肩障害の既往がある選手は,復帰後肩痛無くプレーしていても肩関節機能低下が起こっている可能性があることが判明した。機能低下したままプレーを継続した場合,肩痛や肩関節の炎症,解剖学的破綻などの重篤な投球肩障害を発症する危険性もあり,復帰以降も肩関節機能低下や柔軟性低下に特に配慮するよう,定期的なMCを行いストレッチングや肩周囲筋トレーニングの指導の必要性が示唆された。
【方法】2012年9月に高校硬式野球選手81名に対してMCを行った。問診にて肩痛の有無を確認した後,投球側上肢の原テストと体幹下肢柔軟性(柔軟性)テストを行った。原テストは原により考案された肩関節機能評価であり,近年投球肩障害の診察において広く用いられている。項目は①Scapula Spine Distance(SSD)②Combined Abduction Test(CAT)③Horizontal Flexion Test(HFT)④Elbow Push Test(EPT)⑤Elbow Extension Test(ET)⑥下垂位外旋筋力(ISP)⑦下垂位内旋筋力(SSC)⑧下垂位から30度外転位までの外転筋力(SSP)⑨Impingement sign⑩Loose test⑪Hyper External Rotation Test(HERT)の11項目である。陰性1点,擬陽性0.5点,陽性0点で採点し合計11点とした。柔軟性テストは①下肢伸展挙上(SLR)②膝床距離(KFD)③踵臀距離(HBD)④股関節内旋角度(HIR)⑤長座体前屈⑥体幹回旋可動域(TRT)の6項目とした。土屋らの報告を参考にそれぞれ①70°②3cm③5cm④30°⑤50cm⑥60°と基準値を設け,①~④,⑥は基準値より柔軟なもの(基準値を含む)を1点,⑤は2点で採点し,合計12点とした。選手のうちMC当日に肩痛のあったものを除外した75名を対象に,1年以内に投球中止が必要な投球肩障害のあったものを既往あり群,既往がないものを既往なし群の2群に分けた。統計学的分析はSPSS ver.18を用いて,2群間における原テストと柔軟性テストそれぞれの総合点の比較,原テストと柔軟性テストそれぞれ各項目の比較をmann-whitneyのU検定,X2検定を用いて,原テストと柔軟性テストの関係性をspearmanの順位相関係数を用いて分析した。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本学会での発表に際し,野球部長,監督,選手に口頭,書面にて説明し同意を得た。
【結果】既往あり群14名,既往なし群61名であった。柔軟性テストの各項目と,原テストと柔軟性テストの総合点に有意差は認められなかった。原テスト各項目の陽性率は既往あり群でEPTとISPが有意に陽性であった(p<0.05)。また原テストと柔軟性テストの間に有意な正の相関が認められた(p<0.05,r=0.426)
【考察】原は,投球肩障害の病態を肩inner muscleとouter muscleの機能的なimbalanceで生じたものととらえ,更に大沢らは全身運動である投球動作を繰り返すことから体幹下肢の柔軟性低下を惹起し,肩inner muscleなどの筋力低下につながり,肩腱板等の炎症から投球時肩痛につながると述べている。本研究結果より高校野球選手の肩関節機能と柔軟性には有意な正の相関がみられ,改めて全身柔軟性の重要性が示唆された。また,2群間での柔軟性テスト各項目や原テストと柔軟性テスト総合点に有意差が認められなかったことから,2群間の肩関節機能や柔軟性は総合的にみた場合はほぼ同等の状態でプレー出来ていると考えらえる。しかし原テストの各項目でみると,既往あり群でEPTとISPの陽性率が高いという結果であった。EPT陽性は肩甲骨周囲筋力低下を,ISP陽性は肩外旋筋の中でも特に棘下筋の筋力低下を示すとされており,既往あり群は疼痛無くプレー出来ているもののこれらの筋力低下が起こっていた。これが原の示すinner muscleとouter muscleのimbalanceにつながるものとすれば,プレー継続により投球肩障害を再発する危険因子になり得ると思われ,注意が必要である。なぜ既往あり群にこれらの機能低下が起こっていたかは本研究では明らかにできないが,筋疲労の影響や不良フォームとの関連などの報告もみられており,今後更に症例数や調査項目を増やし検討していきたい。
【理学療法学研究としての意義】投球肩障害の既往がある選手は,復帰後肩痛無くプレーしていても肩関節機能低下が起こっている可能性があることが判明した。機能低下したままプレーを継続した場合,肩痛や肩関節の炎症,解剖学的破綻などの重篤な投球肩障害を発症する危険性もあり,復帰以降も肩関節機能低下や柔軟性低下に特に配慮するよう,定期的なMCを行いストレッチングや肩周囲筋トレーニングの指導の必要性が示唆された。