[0928] フィードバックの種類が脳卒中後片麻痺患者の反復運動に与える影響
Keywords:片麻痺, 運動学習, 荷重
【はじめに,目的】
脳卒中後片麻痺患者では,麻痺の影響や代償運動などにより発症前と異なる運動パターンで動作を行うことが知られており,運動パターンを改善させることを目的として理学療法を行うことが多い。
上肢リーチの反復練習に関する先行研究では,与えるフィードバックの種類が運動学習に影響することが報告されている。その研究では,到達点と目標物との誤差(Knowledge of result:KR)を教示することでリーチ動作は成功するようになるが,運動パターンを変えるには動作中の動き方(Knowledge of performance:KP)を教示する必要があったことが示されている。このことから,フィードバックの種類により学習される運動パターンは異なると考えられる。運動パターンについては,上肢だけでなく,下肢においても片麻痺患者に特徴的な歩容,立位や立ち上がり動作時の下肢荷重量の左右非対称性が報告されているが,異なる種類のフィードバックが下肢の運動に与える影響は明らかとされていない。
したがって,本研究の目的は,下肢運動として臨床でよく用いられる麻痺側への荷重練習に対してKR,KPが与える影響の違いを明らかにすることとした。
【方法】
対象は,地域在住で独歩可能な慢性期片麻痺患者15名(年齢56.7±9.7歳,男性9名,女性6名,発症年数5.4±5.2年,Brunnstrom StageIII~VI,Barthel Index98.7±3.0点)とした。
対象者に,フィードバック内容の異なる2種類の反復課題を無作為な順序で行わせた。両課題とも,麻痺側前型のステップ肢位を開始姿勢として,麻痺側(前方)への最大荷重を10試行ずつ反復させた。ステップ肢位は両踵間距離15cm,左右の踵足趾間距離0cmに規定した。開始,最大荷重位の姿勢は各5秒間保持するよう指示した。測定機器は,足圧分布計(Zebris社製)と電気角度計(Noraxon社製)を用い,最大荷重位5秒間の麻痺側荷重割合(以下,荷重量),および麻痺側の股関節と膝関節の角度を記録した。フィードバックを毎試行後に行い,KR条件として荷重量を教示した場合と,KP条件として股関節,膝関節の角度0°を最適な姿勢とみなして誤差を±5°以内にするよう教示した場合の2条件でそれぞれ動作を反復させた。
荷重量,各関節角度誤差(以下,関節角度)は,各試行5秒間の平均値を算出し,1試行目を学習前,8~10回試行の平均値を学習後の値とした。また,それらの値から学習前後の変化率を求めた。統計解析にはWilcoxon検定を用い,荷重量,股関節・膝関節角度の学習前後の変化と,KR・KP条件における変化率の違いを検討した。統計学的有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本学倫理委員会の承認を得て,各対象者に測定方法および本研究の目的を説明した後,書面にて同意を得て行われた。
【結果】
学習前後の変化として,荷重量はKR条件で有意に増加した(前60.1±10.1%,後64.7±11.4%,p<0.05)が,KP条件では有意な変化は認められなかった(前60.7±10.8%,後62.5±12.4%)。関節角度は,KR条件では股関節(前10.19±5.7°,後13.2±12.7°),膝関節(前10.9±13.5°,後13.2±17.4°)とも有意な変化はなく,KP条件で股関節(前13.1±7.3°,後6.0±4.8°),膝関節(前13.5±15.6,後3.2±2.4°)とも有意に変化し,0°に近づいた(p<0.01)。
変化率について,荷重量はKP条件とKR条件で有意な差はなく,股・膝関節はKR条件よりKP条件で0°に近づく方向に有意な変化を示した(p<0.05)。
【考察】
片麻痺患者に立位荷重課題を反復させる際,荷重量をフィードバックすると運動パターンは有意な変化を示さずに,荷重量が増加した。一方,課題中の運動パターンと目指すべき運動パターンとの誤差を教示すると,荷重量は変化しなかったが,運動が適切なパターンに近づいた。このことから,片麻痺患者の下肢反復運動では,与えるフィードバックの種類によって特異的に運動が変化すると考えられる。つまり,KRをフィードバックするとKRで示した結果のみが向上し,KPをフィードバックすると運動パターンのみを向上させることが示された。慢性期であってもフィードバックにより運動を変化させることができ,その反復練習には目的に応じたフィードバックを与えることが重要であると考えられる。
さらに,KR条件で運動パターンが変化しなかったことから,KRのみを与えて運動を反復した場合には,不適切な運動パターンで学習が進む可能性が考えられる。したがって,上肢の運動と同様,下肢の運動においても,反復練習ではKPを与えて運動パターンを変える必要性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,片麻痺患者の反復練習におけるフィードバック効果の違いを明らかにするものであり,動作練習方法を選ぶ一助になると考えられる。
脳卒中後片麻痺患者では,麻痺の影響や代償運動などにより発症前と異なる運動パターンで動作を行うことが知られており,運動パターンを改善させることを目的として理学療法を行うことが多い。
上肢リーチの反復練習に関する先行研究では,与えるフィードバックの種類が運動学習に影響することが報告されている。その研究では,到達点と目標物との誤差(Knowledge of result:KR)を教示することでリーチ動作は成功するようになるが,運動パターンを変えるには動作中の動き方(Knowledge of performance:KP)を教示する必要があったことが示されている。このことから,フィードバックの種類により学習される運動パターンは異なると考えられる。運動パターンについては,上肢だけでなく,下肢においても片麻痺患者に特徴的な歩容,立位や立ち上がり動作時の下肢荷重量の左右非対称性が報告されているが,異なる種類のフィードバックが下肢の運動に与える影響は明らかとされていない。
したがって,本研究の目的は,下肢運動として臨床でよく用いられる麻痺側への荷重練習に対してKR,KPが与える影響の違いを明らかにすることとした。
【方法】
対象は,地域在住で独歩可能な慢性期片麻痺患者15名(年齢56.7±9.7歳,男性9名,女性6名,発症年数5.4±5.2年,Brunnstrom StageIII~VI,Barthel Index98.7±3.0点)とした。
対象者に,フィードバック内容の異なる2種類の反復課題を無作為な順序で行わせた。両課題とも,麻痺側前型のステップ肢位を開始姿勢として,麻痺側(前方)への最大荷重を10試行ずつ反復させた。ステップ肢位は両踵間距離15cm,左右の踵足趾間距離0cmに規定した。開始,最大荷重位の姿勢は各5秒間保持するよう指示した。測定機器は,足圧分布計(Zebris社製)と電気角度計(Noraxon社製)を用い,最大荷重位5秒間の麻痺側荷重割合(以下,荷重量),および麻痺側の股関節と膝関節の角度を記録した。フィードバックを毎試行後に行い,KR条件として荷重量を教示した場合と,KP条件として股関節,膝関節の角度0°を最適な姿勢とみなして誤差を±5°以内にするよう教示した場合の2条件でそれぞれ動作を反復させた。
荷重量,各関節角度誤差(以下,関節角度)は,各試行5秒間の平均値を算出し,1試行目を学習前,8~10回試行の平均値を学習後の値とした。また,それらの値から学習前後の変化率を求めた。統計解析にはWilcoxon検定を用い,荷重量,股関節・膝関節角度の学習前後の変化と,KR・KP条件における変化率の違いを検討した。統計学的有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本学倫理委員会の承認を得て,各対象者に測定方法および本研究の目的を説明した後,書面にて同意を得て行われた。
【結果】
学習前後の変化として,荷重量はKR条件で有意に増加した(前60.1±10.1%,後64.7±11.4%,p<0.05)が,KP条件では有意な変化は認められなかった(前60.7±10.8%,後62.5±12.4%)。関節角度は,KR条件では股関節(前10.19±5.7°,後13.2±12.7°),膝関節(前10.9±13.5°,後13.2±17.4°)とも有意な変化はなく,KP条件で股関節(前13.1±7.3°,後6.0±4.8°),膝関節(前13.5±15.6,後3.2±2.4°)とも有意に変化し,0°に近づいた(p<0.01)。
変化率について,荷重量はKP条件とKR条件で有意な差はなく,股・膝関節はKR条件よりKP条件で0°に近づく方向に有意な変化を示した(p<0.05)。
【考察】
片麻痺患者に立位荷重課題を反復させる際,荷重量をフィードバックすると運動パターンは有意な変化を示さずに,荷重量が増加した。一方,課題中の運動パターンと目指すべき運動パターンとの誤差を教示すると,荷重量は変化しなかったが,運動が適切なパターンに近づいた。このことから,片麻痺患者の下肢反復運動では,与えるフィードバックの種類によって特異的に運動が変化すると考えられる。つまり,KRをフィードバックするとKRで示した結果のみが向上し,KPをフィードバックすると運動パターンのみを向上させることが示された。慢性期であってもフィードバックにより運動を変化させることができ,その反復練習には目的に応じたフィードバックを与えることが重要であると考えられる。
さらに,KR条件で運動パターンが変化しなかったことから,KRのみを与えて運動を反復した場合には,不適切な運動パターンで学習が進む可能性が考えられる。したがって,上肢の運動と同様,下肢の運動においても,反復練習ではKPを与えて運動パターンを変える必要性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,片麻痺患者の反復練習におけるフィードバック効果の違いを明らかにするものであり,動作練習方法を選ぶ一助になると考えられる。