[0931] 高齢脳卒中患者における退院1か月後の健康関連QOLに関連する要因
キーワード:脳卒中, 健康関連QOL, 回復期リハビリテーション
【はじめに,目的】
健康関連QOLは関連要因が多く,個別性も大きい。さらに脳卒中発症6か月以降は身体介入のみでは健康関連QOLの改善が乏しいと報告され,臨床現場で健康関連QOL改善に向けた介入には難渋する。この点に関して先行研究から,回復期リハビリテーションにおける心身機能・動作能力の改善は,転倒自己効力感の改善を介して退院後の健康関連QOLに関連していると考えられた。そこで本研究では,高齢脳卒中患者における退院1か月後の健康関連QOLと,退院時の心身機能・動作能力および転倒自己効力感との関連性について明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は回復期病棟入院時に片麻痺を呈していた初発高齢脳卒中患者のうち,退院先が自宅かつ移動手段が歩行,Mini-Mental State Examinationが24点以上であった57名(平均:72.7±6.1歳)とした。退院時,心身機能面は疼痛有無,老年期うつ評価尺度(GDS15),麻痺側・非麻痺側片脚立位保持時間(片脚立位),Timed Up & Go Test(TUG)を,動作能力面は10m歩行速度(歩行),機能的自立度評価尺度運動項目(M-FIM)を,その他に転倒歴,Falls Efficacy Scale(FES)を調査した。退院1か月後における調査項目はSF-8の身体的側面のQOL(PCS),精神的側面のQOL(MCS)とした。PCS・MCSと関連する要因の分析には,疼痛,抑うつは対応のないt検定を実施し,歩行,TUG,片脚立位,M-FIMはPCS・MCSそれぞれとPearsonの積率相関係数を算出した。その後,PCS・MCSを従属変数としたステップワイズ法による重回帰分析を実施した。さらに転倒自己効力感と心身機能・動作能力との関連性を示すために,疼痛,抑うつ,転倒歴は対応のないt検定を実施し,TUG,片脚立位,M-FIMはFESとPearsonの積率相関係数を算出した。その後,FESを従属変数としたステップワイズ法による重回帰分析を実施した。FESに関する分析ではPCS・MCSの重回帰分析で採択された変数は除外した。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,本院倫理審査委員会の承認を得て実施し,対象者には研究の内容を口頭と書面で説明し,書面にて同意を得た。
【結果】
退院1か月後調査の回収率は75.4%であり,分析は43名(平均年齢73.2±6.5歳)で行った。PCSと関連性を認めた要因は,疼痛,歩行(r=-.491),TUG(r=-.487),麻痺側片脚立位(r=.419),M-FIM(r=.462),FES(r=.613)であった(p<.05)。その後の重回帰分析の結果,FES(β=.495)と歩行(β=-.290)が採択され,決定係数は。446であった(p<.05)。またFESと関連性を認めた要因は,転倒歴,TUG(r=-.346),M-FIM(r=.487)であった。その後の重回帰分析の結果,M-FIM(β=.579)が採択され,決定係数は。335であった(p<.05)。MCSと関連する要因は抽出されなかった。
【考察】
身体的側面のQOLには転倒自己効力感が最も関連し,転倒自己効力感には日常生活活動が関連していたことから,日常生活活動は転倒自己効力感を介して身体的側面のQOLに関連していると考えた。臨床場面において日常生活活動は動作獲得に留まらず,動作遂行時の心理状況まで改善させる必要性が示唆された。歩行においては,転倒自己効力感を介さずに身体的側面のQOLと関連しており,動作獲得が重要であると考えられた。一方,精神的側面のQOLと転倒自己効力感は地域の高齢者において関連性が報告されていたが,本研究対象者では異なる結果となった。脳卒中は身体機能障害による精神的ストレス以外にも精神的な影響を惹起させていることから,身体機能との関連性が高い転倒自己効力感には関連性を示さなかったと考えた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,健康関連QOL改善のための回復期リハビリテーション方策立案において意義のある研究であると考える。
健康関連QOLは関連要因が多く,個別性も大きい。さらに脳卒中発症6か月以降は身体介入のみでは健康関連QOLの改善が乏しいと報告され,臨床現場で健康関連QOL改善に向けた介入には難渋する。この点に関して先行研究から,回復期リハビリテーションにおける心身機能・動作能力の改善は,転倒自己効力感の改善を介して退院後の健康関連QOLに関連していると考えられた。そこで本研究では,高齢脳卒中患者における退院1か月後の健康関連QOLと,退院時の心身機能・動作能力および転倒自己効力感との関連性について明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は回復期病棟入院時に片麻痺を呈していた初発高齢脳卒中患者のうち,退院先が自宅かつ移動手段が歩行,Mini-Mental State Examinationが24点以上であった57名(平均:72.7±6.1歳)とした。退院時,心身機能面は疼痛有無,老年期うつ評価尺度(GDS15),麻痺側・非麻痺側片脚立位保持時間(片脚立位),Timed Up & Go Test(TUG)を,動作能力面は10m歩行速度(歩行),機能的自立度評価尺度運動項目(M-FIM)を,その他に転倒歴,Falls Efficacy Scale(FES)を調査した。退院1か月後における調査項目はSF-8の身体的側面のQOL(PCS),精神的側面のQOL(MCS)とした。PCS・MCSと関連する要因の分析には,疼痛,抑うつは対応のないt検定を実施し,歩行,TUG,片脚立位,M-FIMはPCS・MCSそれぞれとPearsonの積率相関係数を算出した。その後,PCS・MCSを従属変数としたステップワイズ法による重回帰分析を実施した。さらに転倒自己効力感と心身機能・動作能力との関連性を示すために,疼痛,抑うつ,転倒歴は対応のないt検定を実施し,TUG,片脚立位,M-FIMはFESとPearsonの積率相関係数を算出した。その後,FESを従属変数としたステップワイズ法による重回帰分析を実施した。FESに関する分析ではPCS・MCSの重回帰分析で採択された変数は除外した。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,本院倫理審査委員会の承認を得て実施し,対象者には研究の内容を口頭と書面で説明し,書面にて同意を得た。
【結果】
退院1か月後調査の回収率は75.4%であり,分析は43名(平均年齢73.2±6.5歳)で行った。PCSと関連性を認めた要因は,疼痛,歩行(r=-.491),TUG(r=-.487),麻痺側片脚立位(r=.419),M-FIM(r=.462),FES(r=.613)であった(p<.05)。その後の重回帰分析の結果,FES(β=.495)と歩行(β=-.290)が採択され,決定係数は。446であった(p<.05)。またFESと関連性を認めた要因は,転倒歴,TUG(r=-.346),M-FIM(r=.487)であった。その後の重回帰分析の結果,M-FIM(β=.579)が採択され,決定係数は。335であった(p<.05)。MCSと関連する要因は抽出されなかった。
【考察】
身体的側面のQOLには転倒自己効力感が最も関連し,転倒自己効力感には日常生活活動が関連していたことから,日常生活活動は転倒自己効力感を介して身体的側面のQOLに関連していると考えた。臨床場面において日常生活活動は動作獲得に留まらず,動作遂行時の心理状況まで改善させる必要性が示唆された。歩行においては,転倒自己効力感を介さずに身体的側面のQOLと関連しており,動作獲得が重要であると考えられた。一方,精神的側面のQOLと転倒自己効力感は地域の高齢者において関連性が報告されていたが,本研究対象者では異なる結果となった。脳卒中は身体機能障害による精神的ストレス以外にも精神的な影響を惹起させていることから,身体機能との関連性が高い転倒自己効力感には関連性を示さなかったと考えた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,健康関連QOL改善のための回復期リハビリテーション方策立案において意義のある研究であると考える。