第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 神経理学療法 口述

脳損傷理学療法8

Sat. May 31, 2014 1:00 PM - 1:50 PM 第13会場 (5F 503)

座長:大槻利夫(上伊那生協病院リハビリテーション課)

神経 口述

[0932] 当院における脳損傷患者の自動車運転再開と交通事故予測因子の検討

万代正輝1, 高橋雅和1, 森本幸子1, 小倉勇輝1, 先納照典2, 西村奈津子2, 安部大昭2, 木村憂希2, 藤木郁子2, 和氣純夫2, 小幡賢吾3 (1.総合病院津山第一病院リハビリテーション科理学療法士, 2.総合病院津山第一病院リハビリテーション科作業療法士, 3.岡山赤十字病院リハビリテーション科)

Keywords:脳損傷, 自動車運転再開, 交通事故

【はじめに,目的】
われわれは,過去の検討にて,脳損傷患者の退院後における自動車運転再開(以下,再開)に関して報告した。その結果の内,再開率は48.8%,中でも高次脳機能障害者の再開率は26.8%であり安全運転を図っている者がほとんどであった。また,ロジスティック回帰分析の結果,再開の予測因子としてFIM-totalが得られ,再開者の交通事故(以下,事故)率は10.0%であった。自己判断による再開者が多く,入院中より事故に対する対策を検討する必要性が認められた。しかし,本邦における先行研究では,高次脳機能障害者の運転適性判断についての報告は多くみられるが未だ一定の見解は得られておらず,認知機能以外の要因や事故の要因についての報告は少ない。そこで本研究では,医療機関内で実施可能な脳損傷患者の再開における事故の予測因子について検討を行い若干の知見を得たのでここに報告する。
【方法】
2012年4月1日から2013年3月31日に当院の回復期リハビリテーション病棟を退院した脳損傷患者115名の内,歩行能力を獲得して自宅退院となった60名を対象に聞き取り調査を行い(有効回答率100%),入院直前まで自動車運転を行っていた41名の内,再開した20名の中から検査協力の同意を得た11名を対象とした。内訳は,男性10名,女性1名,平均年齢64.1±10.3歳,疾患は,脳梗塞8例,脳出血2例,外傷性脳損傷1例,また麻痺側については右片麻痺8例,左片麻痺2例,両麻痺1例であった。この11名に対し検査を行った後,事故の有無について群を分類し,年齢,性別,疾患,Brunnstrom recovery stage,麻痺側(右,左,両側),感覚障害の程度,退院時FIM-total,Trail Making Test,仮名拾い検査,Kohs block design test,Behavioural Assessment of the Dysexecutive Syndrome(以下,BADS),Mini Mental State Examination,Behavioural Inattention Test(以下,BIT),Yatabe-Guilford Personality InventoryについてChi-square test,Fisher’s exact testやMann-Whitney’s U testによる単変量解析を行った。統計学的有意水準は5%とした。単変量解析の結果,両群で有意差を認めた項目を説明変数に,事故の有無(ダミー変数)を目的変数とした重回帰分析を変数減少法にて行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究を行うにあたり,ヘルシンキ宣言に基づき当院理事会の承認を得ており,調査対象者へは本研究の趣旨を十分に説明し書面にて同意を得た。
【結果】
単変量解析の結果,事故と有意な関連を認めた項目は,BADS鍵探し検査(p<0.05),BIT行動(p<0.05),上肢の深部感覚の程度(p<0.05),下肢の深部感覚の程度(p<0.05)であった。重回帰分析(変数減少法)の結果から,「交通事故=-0.232×(BADS鍵探し検査)+0.195×(上肢の深部感覚の程度)+0.489」という2つの説明変数による重回帰式が得られた。重相関係数R=0.754,決定係数R2=0.568,分散分析のF値=5.254,p=0.035であり,BADS鍵探し検査(標準偏回帰係数β=-0.646,p=0.024)のみが事故に影響を及ぼす因子として抽出された。
【考察】
近年では,脳損傷患者の再開が問題視され,運転適性判断としてとりわけ高次脳機能障害が重要視されている。しかし,当院における調査では,再開についてはFIM-totalが予測因子として抽出されており,高次脳機能障害者の再開率は低く,再開していても比較的安全に運転している傾向がうかがえる。事故については,重回帰分析の結果ではBADS鍵探し検査が予測因子として示唆されたが,単変量解析の結果では深部感覚の程度についても有意な関連が認められた。これは,「有効で効果的な道筋を計画する能力」が障害されている影響だけでなく,「実際の操作と感覚の乖離という知覚運動技能」の問題をも示唆していると考える。これらの結果より,事故については認知機能の影響もさることながら身体的な要素についても熟慮する必要があると思われた。また,「運転代行者が同居家族に存在しない」,「生活に必要不可欠」,「過疎地であり公共の交通機関の代償が困難」などの諸問題が背景因子として考えられ,危険を承知で再開している者も少なくないと推察する。今後の課題として,症例の蓄積や地域性も考慮に入れた様々な視点からの継続的な検討が必要だと考える。
【理学療法学研究としての意義】
自己判断による再開抑止,退院後の運転技能獲得の必要性,事故の防止について,認知機能だけでなく身体性・活動性の要素,社会背景も十分に検討される必要があり,積極的に支援に関与することはわれわれの使命だと考える。