[0934] 素早い切り返し動作において重要な動作様式の検討
Keywords:競技能力, 運動学的分析, 切り返し動作
【はじめに,目的】
切り返し動作はスポーツ競技場面において頻繁に行われる動作である。オフェンス時には素早く切り返し,相手を抜く能力が求められる。素早い動作とは,踏切場面にて急激に速度を上げる動作とされている。つまり,踏切場面での重心加速度が大きい動作であると考えられる。しかし,この素早い切り返し動作について力学的・運動学的に検討している先行研究はない。そこで,本研究の目的を踏切場面での重心加速度を大きくする動作様式を解明することとし,初めに,踏切場面での重心最大加速度と床反力との関連を検討し,次に重心最大加速度と関連があった床反力と姿勢との関連を検討した。
【方法】
対象は大学で部活動を行っている健常女性13名(年齢21.5±1.1歳,身長160.5±5.4cm,体重53.6±4.8kg)とし,利き脚を測定対象とした。なお利き脚はボールを蹴る脚と定義し,全対象者で右脚であった。測定課題は,高さ30cm台から自然落下し利き脚で着地後,非利き脚側前斜方30°方向への切り返しとし,なるべく速く動作を行うよう指示した。三次元動作解析装置(VICON社製),床反力計(KISTLER社製)を用いて動作中の力学的データおよび運動学的データを収集した。三次元動作解析の反射マーカーは,Plug-in-Gait full body modelに準じて貼付した。切り返し動作において床反力は垂直方向成分,前後方向と左右方向の合成成分(以下,床反力進行方向成分)ともに二峰性を示す。床反力における一つ目のピークは着地時点を示し,二つ目のピークは踏切時点を示す。そこで,着地時点として床反力垂直成分最大時点,踏切時点として床反力進行方向成分最大時点,着地から踏切への移行時点として着地時点と踏切時点間の床反力垂直成分の最小時点を抽出した。力学的データとして3時点における床反力と足圧中心位置座標を抽出し,運動学的データとして同3時点における矢状面・前額面の体幹・下肢の関節角度と身体重心の位置座標を算出した。身体重心は足圧中心に対する相対値とし,対象者の身長により標準化した値を解析に用いた。なお,前後・左右方向の身体重心については,足圧中心に対して後方または非軸足方向(左方向)に位置した場合を正とした。床反力は体重により標準化した値を解析に用いた。進行方向への重心加速度は,水平面における身体重心の変位を2回微分して算出し,軸足(左方向へ切り返しを行う際の右脚を指す)が接地している間での最大値を最大加速度として解析に用いた。統計はピアソンの積率相関係数を用い,まず重心最大加速度と床反力との関連を,その上で重心最大加速度と関連があった床反力とそれぞれの時点での運動学的データとの関連を調べた。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は所属施設の倫理委員会の承認を得,その後研究の目的について十分に説明をし,同意が得られた者を対象者とした。
【結果】
重心最大加速度と床反力の関連において,重心最大加速度と着地時点・移行時点・踏切時点での床反力進行方向成分に正の相関を認めた(r=0.605,r=0.681,r=0.585)。しかし,床反力垂直成分とは相関を認めなかった。重心最大加速度と相関を認めた3時点での床反力進行方向成分とそれぞれの時点における運動学的データとの関連において,着地時点では床反力進行方向成分と体幹左側屈角度および左右方向の身体重心との間に正の相関を認めた(r=0.587,r=0.656)。移行時点では床反力進行方向成分と体幹左側屈角度および骨盤左下制角度との間に正の相関を認めた(r=0.585,r=0.675)。踏切時点では床反力進行方向成分と足関節背屈角度との間に正の相関が,身体重心の高さとの間に負の相関を認めた(r=0.792,r=-0.646)。
【考察】
重心最大加速度と着地時点・移行時点・踏切時点の床反力進行方向成分との間に関連を認めた。これより,重心最大加速度は踏切時点の床反力進行方向成分だけではなく,着地時点や移行時点での床反力進行方向成分とも関連があると考えられた。また,これら3時点での運動学的解析により,着地時点や移行時点で体幹や骨盤を進行方向へ傾けた姿勢および踏切時点で重心を低く保つ姿勢が,それぞれの時点での床反力進行方向成分と関連がある事が示された。本研究の結果より,切り返し動作における踏切時の重心最大加速度を大きくするためには,着地時点から体を進行方向に傾け,踏切時点にて重心が低い姿勢を取れる能力が必要であると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により,素早い切り返し動作において重要な床反力と姿勢の特徴が明らかとなった。これは切り返し動作におけるパフォーマンス向上を目的とした指導方法の一助となると考えられる。
切り返し動作はスポーツ競技場面において頻繁に行われる動作である。オフェンス時には素早く切り返し,相手を抜く能力が求められる。素早い動作とは,踏切場面にて急激に速度を上げる動作とされている。つまり,踏切場面での重心加速度が大きい動作であると考えられる。しかし,この素早い切り返し動作について力学的・運動学的に検討している先行研究はない。そこで,本研究の目的を踏切場面での重心加速度を大きくする動作様式を解明することとし,初めに,踏切場面での重心最大加速度と床反力との関連を検討し,次に重心最大加速度と関連があった床反力と姿勢との関連を検討した。
【方法】
対象は大学で部活動を行っている健常女性13名(年齢21.5±1.1歳,身長160.5±5.4cm,体重53.6±4.8kg)とし,利き脚を測定対象とした。なお利き脚はボールを蹴る脚と定義し,全対象者で右脚であった。測定課題は,高さ30cm台から自然落下し利き脚で着地後,非利き脚側前斜方30°方向への切り返しとし,なるべく速く動作を行うよう指示した。三次元動作解析装置(VICON社製),床反力計(KISTLER社製)を用いて動作中の力学的データおよび運動学的データを収集した。三次元動作解析の反射マーカーは,Plug-in-Gait full body modelに準じて貼付した。切り返し動作において床反力は垂直方向成分,前後方向と左右方向の合成成分(以下,床反力進行方向成分)ともに二峰性を示す。床反力における一つ目のピークは着地時点を示し,二つ目のピークは踏切時点を示す。そこで,着地時点として床反力垂直成分最大時点,踏切時点として床反力進行方向成分最大時点,着地から踏切への移行時点として着地時点と踏切時点間の床反力垂直成分の最小時点を抽出した。力学的データとして3時点における床反力と足圧中心位置座標を抽出し,運動学的データとして同3時点における矢状面・前額面の体幹・下肢の関節角度と身体重心の位置座標を算出した。身体重心は足圧中心に対する相対値とし,対象者の身長により標準化した値を解析に用いた。なお,前後・左右方向の身体重心については,足圧中心に対して後方または非軸足方向(左方向)に位置した場合を正とした。床反力は体重により標準化した値を解析に用いた。進行方向への重心加速度は,水平面における身体重心の変位を2回微分して算出し,軸足(左方向へ切り返しを行う際の右脚を指す)が接地している間での最大値を最大加速度として解析に用いた。統計はピアソンの積率相関係数を用い,まず重心最大加速度と床反力との関連を,その上で重心最大加速度と関連があった床反力とそれぞれの時点での運動学的データとの関連を調べた。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は所属施設の倫理委員会の承認を得,その後研究の目的について十分に説明をし,同意が得られた者を対象者とした。
【結果】
重心最大加速度と床反力の関連において,重心最大加速度と着地時点・移行時点・踏切時点での床反力進行方向成分に正の相関を認めた(r=0.605,r=0.681,r=0.585)。しかし,床反力垂直成分とは相関を認めなかった。重心最大加速度と相関を認めた3時点での床反力進行方向成分とそれぞれの時点における運動学的データとの関連において,着地時点では床反力進行方向成分と体幹左側屈角度および左右方向の身体重心との間に正の相関を認めた(r=0.587,r=0.656)。移行時点では床反力進行方向成分と体幹左側屈角度および骨盤左下制角度との間に正の相関を認めた(r=0.585,r=0.675)。踏切時点では床反力進行方向成分と足関節背屈角度との間に正の相関が,身体重心の高さとの間に負の相関を認めた(r=0.792,r=-0.646)。
【考察】
重心最大加速度と着地時点・移行時点・踏切時点の床反力進行方向成分との間に関連を認めた。これより,重心最大加速度は踏切時点の床反力進行方向成分だけではなく,着地時点や移行時点での床反力進行方向成分とも関連があると考えられた。また,これら3時点での運動学的解析により,着地時点や移行時点で体幹や骨盤を進行方向へ傾けた姿勢および踏切時点で重心を低く保つ姿勢が,それぞれの時点での床反力進行方向成分と関連がある事が示された。本研究の結果より,切り返し動作における踏切時の重心最大加速度を大きくするためには,着地時点から体を進行方向に傾け,踏切時点にて重心が低い姿勢を取れる能力が必要であると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により,素早い切り返し動作において重要な床反力と姿勢の特徴が明らかとなった。これは切り返し動作におけるパフォーマンス向上を目的とした指導方法の一助となると考えられる。