[0936] 靴下着脱動作に必要な脊椎・股関節の可動域の検討
~四肢長は動作に有利となるか~
Keywords:靴下着脱動作, 関節可動域, 四肢長
【はじめに,目的】
靴下着脱はセルフケア動作の一つであり,自立生活を営むうえで重要である。上肢を足先にリーチする際には,上肢機能や体幹,下肢の可動域が必要となるが,脳血管疾患による上肢の運動麻痺,加齢性変化や脊椎・股関節疾患による脊椎や股関節の可動域制限は動作を困難にする。靴下着脱動作はほぼ毎日繰り返され,ソックスエイドの使用方法の困難さや頻回な介助に抵抗を示す患者が多くみられる。そこで,靴下着脱動作が困難な患者に対する理学療法の一助を得る目的で,今回は脊椎と股関節の可動域に着目し4種類の着脱方法において必要な可動域の測定と方法別による違い,さらに上下肢の長さが可動域に及ぼす影響を検討した。
【方法】
対象は整形外科疾患を有さない健常男性10名とした。体表面から第1,7,12胸椎,第3,5腰椎,第1仙椎,腸骨稜最高位,大転子,大腿骨外側上顆にランドマークを貼付し,靴下着脱動作を任意の速度で実施した。着脱方法は端座位と長座位でそれぞれ股関節が外転,外旋位で行う外旋法と内外転中間位,内外旋中間位で行う屈曲法の4種類とした(以下,端座位外旋法,端座位屈曲法,長座位外旋法,長座位屈曲法)。動作を側方から動画で撮影し,さらに動画から静止画を作成したのちに靴下が前足部を通った肢位を対象肢位として可動域の測定を画面上で行った。測定はImage Jを使用し,測定部位は胸椎(上部・下部),腰椎,腰仙椎,股関節とした。なお,動作は3回ずつ実施し平均値を採用した。また,可動域との関係性を検討するため,上肢長と下肢長をメジャーで測定した。検討項目は一元配置分散分析を用いて着脱方法間で各部位の可動域を比較した。続いてPearsonの相関係数を用いて上肢長,下肢長と各可動域の関係性を検討した。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には本研究の目的と方法,個人情報の保護について十分な説明を行い,同意を得られたものに対して実施した。
【結果】
可動域を端座位外旋法,端座位屈曲法,長座位外旋法,長座位屈曲法の順に示す。上部胸椎は27.0±4.6°,27.6±4. 4°,30.6±4.9°,29.5±5.3°,下部胸椎は19.3±5.1°,19.2±4.6°,20.3±4.9°,19.9±4.6°,腰椎は16.2±5.2°,16.1±5.4°,16.5±5.2°,17.0±4.5°,腰仙椎は43.2±7.6°,42.7±7.7°,44.4±7.7°,46.8±9.1°,股関節は96.1±6.6°,89.9±5.9°,97.3±6.2°,92.1±7.7°であった。すべての部位で方法別による有意な差を認めなかった。上肢長,下肢長と各可動域の相関は,端座位外旋法で上肢長と腰仙椎,長座位外旋法で下肢長と上部胸椎に有意な相関を認めた(r=0.762,p=0.010,r=0.764,p=0.010)。
【考察】
今回検討した4種類の着脱方法では,脊椎・股関節ともにほぼ同じ角度で着脱していた。股関節疾患を対象とした報告では,股関節に可動域制限がある場合は,股関節を外旋することで少ない屈曲可動域で動作が可能としているが,今回は逆に有意傾向だが外旋法で大きな屈曲可動域を要した。過去の自験例でも外旋法で大きな屈曲可動域が必要であった。その原因として,着脱肢位が足関節最大背屈位であり,股関節を外旋することで小趾までのリーチ距離が延長し,それを股関節屈曲で代償していると思われる。よって,今後は足関節の位置や外旋角度の違いによる検討も必要と思われる。上下肢長の長さと可動域の関係では,端座位外旋法で上肢長と腰仙椎に正の相関を認め,上肢が長いほど腰仙椎に大きな可動域が必要であった。人工股関節全置換術患者を対象とした報告では,上肢の長さは股関節可動域に影響を及ぼさない,または上肢が長いほど少ない可動域で動作が可能としている。今回は部位に違いはあるものの過去の報告と異なる結果となり,原因追究および症例数を増加して再検討が必要と思われる。また,下肢長は長座位外旋法で上部胸椎と正の相関があり,下肢が長ければ上部胸椎に大きな可動域が必要となった。長座位では端坐位よりも骨盤が後傾位にあり,下肢が長くなることによるリーチ距離の延長を下部脊椎で賄えず,上部脊椎である上部胸椎をより大きく可動することで動作を遂行していると思われる。また,長座位屈曲法でも同様に下肢長と上部胸椎との間に正の相関が有意傾向として示していることからも前述の内容が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
靴下着脱は脊椎と股関節の協調的な動きで動作が可能であり,互いに代償し合う関係にあるが,どちらか一方が重度の可動域制限が生じると代償しきれず動作が困難になるといわれている。今回の結果は,方法ごとによる違いを見出すことはできなかったが,動作時の各部位の可動域を把握することで,治療対象部位や目標可動域の設定につながるのではないかと思われる。
靴下着脱はセルフケア動作の一つであり,自立生活を営むうえで重要である。上肢を足先にリーチする際には,上肢機能や体幹,下肢の可動域が必要となるが,脳血管疾患による上肢の運動麻痺,加齢性変化や脊椎・股関節疾患による脊椎や股関節の可動域制限は動作を困難にする。靴下着脱動作はほぼ毎日繰り返され,ソックスエイドの使用方法の困難さや頻回な介助に抵抗を示す患者が多くみられる。そこで,靴下着脱動作が困難な患者に対する理学療法の一助を得る目的で,今回は脊椎と股関節の可動域に着目し4種類の着脱方法において必要な可動域の測定と方法別による違い,さらに上下肢の長さが可動域に及ぼす影響を検討した。
【方法】
対象は整形外科疾患を有さない健常男性10名とした。体表面から第1,7,12胸椎,第3,5腰椎,第1仙椎,腸骨稜最高位,大転子,大腿骨外側上顆にランドマークを貼付し,靴下着脱動作を任意の速度で実施した。着脱方法は端座位と長座位でそれぞれ股関節が外転,外旋位で行う外旋法と内外転中間位,内外旋中間位で行う屈曲法の4種類とした(以下,端座位外旋法,端座位屈曲法,長座位外旋法,長座位屈曲法)。動作を側方から動画で撮影し,さらに動画から静止画を作成したのちに靴下が前足部を通った肢位を対象肢位として可動域の測定を画面上で行った。測定はImage Jを使用し,測定部位は胸椎(上部・下部),腰椎,腰仙椎,股関節とした。なお,動作は3回ずつ実施し平均値を採用した。また,可動域との関係性を検討するため,上肢長と下肢長をメジャーで測定した。検討項目は一元配置分散分析を用いて着脱方法間で各部位の可動域を比較した。続いてPearsonの相関係数を用いて上肢長,下肢長と各可動域の関係性を検討した。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には本研究の目的と方法,個人情報の保護について十分な説明を行い,同意を得られたものに対して実施した。
【結果】
可動域を端座位外旋法,端座位屈曲法,長座位外旋法,長座位屈曲法の順に示す。上部胸椎は27.0±4.6°,27.6±4. 4°,30.6±4.9°,29.5±5.3°,下部胸椎は19.3±5.1°,19.2±4.6°,20.3±4.9°,19.9±4.6°,腰椎は16.2±5.2°,16.1±5.4°,16.5±5.2°,17.0±4.5°,腰仙椎は43.2±7.6°,42.7±7.7°,44.4±7.7°,46.8±9.1°,股関節は96.1±6.6°,89.9±5.9°,97.3±6.2°,92.1±7.7°であった。すべての部位で方法別による有意な差を認めなかった。上肢長,下肢長と各可動域の相関は,端座位外旋法で上肢長と腰仙椎,長座位外旋法で下肢長と上部胸椎に有意な相関を認めた(r=0.762,p=0.010,r=0.764,p=0.010)。
【考察】
今回検討した4種類の着脱方法では,脊椎・股関節ともにほぼ同じ角度で着脱していた。股関節疾患を対象とした報告では,股関節に可動域制限がある場合は,股関節を外旋することで少ない屈曲可動域で動作が可能としているが,今回は逆に有意傾向だが外旋法で大きな屈曲可動域を要した。過去の自験例でも外旋法で大きな屈曲可動域が必要であった。その原因として,着脱肢位が足関節最大背屈位であり,股関節を外旋することで小趾までのリーチ距離が延長し,それを股関節屈曲で代償していると思われる。よって,今後は足関節の位置や外旋角度の違いによる検討も必要と思われる。上下肢長の長さと可動域の関係では,端座位外旋法で上肢長と腰仙椎に正の相関を認め,上肢が長いほど腰仙椎に大きな可動域が必要であった。人工股関節全置換術患者を対象とした報告では,上肢の長さは股関節可動域に影響を及ぼさない,または上肢が長いほど少ない可動域で動作が可能としている。今回は部位に違いはあるものの過去の報告と異なる結果となり,原因追究および症例数を増加して再検討が必要と思われる。また,下肢長は長座位外旋法で上部胸椎と正の相関があり,下肢が長ければ上部胸椎に大きな可動域が必要となった。長座位では端坐位よりも骨盤が後傾位にあり,下肢が長くなることによるリーチ距離の延長を下部脊椎で賄えず,上部脊椎である上部胸椎をより大きく可動することで動作を遂行していると思われる。また,長座位屈曲法でも同様に下肢長と上部胸椎との間に正の相関が有意傾向として示していることからも前述の内容が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
靴下着脱は脊椎と股関節の協調的な動きで動作が可能であり,互いに代償し合う関係にあるが,どちらか一方が重度の可動域制限が生じると代償しきれず動作が困難になるといわれている。今回の結果は,方法ごとによる違いを見出すことはできなかったが,動作時の各部位の可動域を把握することで,治療対象部位や目標可動域の設定につながるのではないかと思われる。