[0940] 立位での前方および後方不安定性に対する身体動揺の制御について
キーワード:足圧中心, 姿勢保持, 重心動揺計
【はじめに,目的】
身体を前方へ傾斜させた前足部荷重での姿勢保持では,身体の前方への回転運動とそれを制御するべく身体運動が律動的に生じることから前後方向への身体動揺が生じる。一方,後足部荷重での姿勢保持では,身体の後方への回転運動に対して姿勢制御がなされることから同じく前後方向への身体動揺が生じる。しかし,それぞれの肢位における身体動揺の特徴は十分に検討されていない。そこで,本研究では前足部荷重時と後足部荷重時における足圧中心(center of pressure;COP)の変位の特徴を明らかにし,身体の前方および後方不安定性に対する姿勢制御方略についての知見を得ることを目的とする。
【方法】
対象は健常者29名(平均年齢20.3±1.0歳,平均身長163.9±9.3cm,平均体重58.6±10.0kg)とした。対象者を重心動揺計(アニマ社製GS5500)の上に閉脚立位をとらせ,身体を前方へ傾斜し重心を最大限に前方移動させた前足部荷重での肢位と,身体を後方へ傾斜し重心を最大限に後方移動させた後足部荷重での肢位を保持させた。各肢位でのCOPの位置とCOPの前後方向への変位を計測した。得られたCOPの前後方向の変位を時間で微分することにより速度を算出し,さらに微分することにより加速度を算出した。なお,各肢位でのCOPは前後方向に律動的な動きを呈するが,前足部荷重時ではCOPが前方へ移動し後方に戻る際の最大加速度と最大速度を振幅ごとに算出しその平均値を求めた。後足部荷重ではCOPが後方へ移動し前方に戻る際の最大加速度と最大速度を振幅ごとに算出しその平均値を求めた。さらに,各肢位でのCOPの前後方向への振幅の実効値を求めた。なお,各測定値は前足部荷重時と後足部荷重時とで比較するため全て正の値で記録した。計測時間はそれぞれ10秒間とし,サンプリング周波数は50Hzとした。統計学的解析には対応のあるt検定を用い有意水準は0.05とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究の実施については所属機関倫理委員会の承認を得た。また,対象者には研究内容を口頭ならびに書面にて説明し同意書へ署名を得ることにより研究参加の同意を得た。
【結果】
COPの位置(踵からの足長比)は,前足部荷重時71.4±4.8%,後足部荷重時20.9±3.6%であった。前足部荷重時におけるCOPの後方への最大加速度は28.9±11.6cm/s2,最大速度は2.0±0.8cm/s,COPの前後方向への振幅の実行値は0.47±0.18cmであった。後足部荷重時におけるCOPの前方への最大加速度は30.1±13.5m/s2,最大速度は2.2±0.8cm/s,COPの前後方向への振幅の実行値は10.2±2.1cmであった。COPの最大加速度,最大速度,振幅の実行値は,前足部荷重時と後足部荷重時との間に有意差が認められなかった。
【考察】
前足部荷重での姿勢保持では,下腿三頭筋やハムストリング,脊柱起立筋などの身体後面の筋群の活動が増大する。一方,後足部荷重での姿勢保持では,前脛骨筋や大腿四頭筋,腹筋群などの身体前面の筋群の活動が増大する。安静立位時では身体前面の筋群に比べて身体後面の筋群が重要な働きをしており,それらの筋群は安静立位時から常に賦活された状態にあると考えられる。したがって,我々の仮説では前足部荷重における前方への不安定性に対して身体の後面に位置する筋群が素早く収縮し効率的な姿勢制御がなされると考えた。また,前足部荷重時におけるCOPの前方移動に対して足指屈筋群や足底内在筋などの働きが大きく影響し効率的な姿勢制御がなされると考えた。しかし,今回の結果からは前足部荷重時と後足部荷重時のCOPの変位に有意差が認められず,前方ならびに後方不安定性に対してCOPの変位を一定に保持するための姿勢制御方略がなされていることが示唆された。これらの方略は筋活動と身体運動によりなされることから,今後,各肢位における身体各部の筋活動と身体運動を併せて計測し,各肢位においてCOPの変位を一定に保持するためのメカニズムを解明したいと考える。
【理学療法学研究としての意義】
健常者では前方ならびに後方への不安定性に対してCOPの変位に差が無いとの知見を得た。高齢者では後方へ転倒しやすいことなどから後方への不安定性が問題となることが多い。したがって,高齢者では健常者と比べて前足部荷重時と後足部荷重時でのCOPの変位,身体各部の筋活動,身体運動の特徴に差違を有すると考えられる。今後,理学療法学研究としてさらに発展させるため,健常者と高齢者との比較を行い転倒発生ならびに予防に関する知見を得たいと考える。
身体を前方へ傾斜させた前足部荷重での姿勢保持では,身体の前方への回転運動とそれを制御するべく身体運動が律動的に生じることから前後方向への身体動揺が生じる。一方,後足部荷重での姿勢保持では,身体の後方への回転運動に対して姿勢制御がなされることから同じく前後方向への身体動揺が生じる。しかし,それぞれの肢位における身体動揺の特徴は十分に検討されていない。そこで,本研究では前足部荷重時と後足部荷重時における足圧中心(center of pressure;COP)の変位の特徴を明らかにし,身体の前方および後方不安定性に対する姿勢制御方略についての知見を得ることを目的とする。
【方法】
対象は健常者29名(平均年齢20.3±1.0歳,平均身長163.9±9.3cm,平均体重58.6±10.0kg)とした。対象者を重心動揺計(アニマ社製GS5500)の上に閉脚立位をとらせ,身体を前方へ傾斜し重心を最大限に前方移動させた前足部荷重での肢位と,身体を後方へ傾斜し重心を最大限に後方移動させた後足部荷重での肢位を保持させた。各肢位でのCOPの位置とCOPの前後方向への変位を計測した。得られたCOPの前後方向の変位を時間で微分することにより速度を算出し,さらに微分することにより加速度を算出した。なお,各肢位でのCOPは前後方向に律動的な動きを呈するが,前足部荷重時ではCOPが前方へ移動し後方に戻る際の最大加速度と最大速度を振幅ごとに算出しその平均値を求めた。後足部荷重ではCOPが後方へ移動し前方に戻る際の最大加速度と最大速度を振幅ごとに算出しその平均値を求めた。さらに,各肢位でのCOPの前後方向への振幅の実効値を求めた。なお,各測定値は前足部荷重時と後足部荷重時とで比較するため全て正の値で記録した。計測時間はそれぞれ10秒間とし,サンプリング周波数は50Hzとした。統計学的解析には対応のあるt検定を用い有意水準は0.05とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究の実施については所属機関倫理委員会の承認を得た。また,対象者には研究内容を口頭ならびに書面にて説明し同意書へ署名を得ることにより研究参加の同意を得た。
【結果】
COPの位置(踵からの足長比)は,前足部荷重時71.4±4.8%,後足部荷重時20.9±3.6%であった。前足部荷重時におけるCOPの後方への最大加速度は28.9±11.6cm/s2,最大速度は2.0±0.8cm/s,COPの前後方向への振幅の実行値は0.47±0.18cmであった。後足部荷重時におけるCOPの前方への最大加速度は30.1±13.5m/s2,最大速度は2.2±0.8cm/s,COPの前後方向への振幅の実行値は10.2±2.1cmであった。COPの最大加速度,最大速度,振幅の実行値は,前足部荷重時と後足部荷重時との間に有意差が認められなかった。
【考察】
前足部荷重での姿勢保持では,下腿三頭筋やハムストリング,脊柱起立筋などの身体後面の筋群の活動が増大する。一方,後足部荷重での姿勢保持では,前脛骨筋や大腿四頭筋,腹筋群などの身体前面の筋群の活動が増大する。安静立位時では身体前面の筋群に比べて身体後面の筋群が重要な働きをしており,それらの筋群は安静立位時から常に賦活された状態にあると考えられる。したがって,我々の仮説では前足部荷重における前方への不安定性に対して身体の後面に位置する筋群が素早く収縮し効率的な姿勢制御がなされると考えた。また,前足部荷重時におけるCOPの前方移動に対して足指屈筋群や足底内在筋などの働きが大きく影響し効率的な姿勢制御がなされると考えた。しかし,今回の結果からは前足部荷重時と後足部荷重時のCOPの変位に有意差が認められず,前方ならびに後方不安定性に対してCOPの変位を一定に保持するための姿勢制御方略がなされていることが示唆された。これらの方略は筋活動と身体運動によりなされることから,今後,各肢位における身体各部の筋活動と身体運動を併せて計測し,各肢位においてCOPの変位を一定に保持するためのメカニズムを解明したいと考える。
【理学療法学研究としての意義】
健常者では前方ならびに後方への不安定性に対してCOPの変位に差が無いとの知見を得た。高齢者では後方へ転倒しやすいことなどから後方への不安定性が問題となることが多い。したがって,高齢者では健常者と比べて前足部荷重時と後足部荷重時でのCOPの変位,身体各部の筋活動,身体運動の特徴に差違を有すると考えられる。今後,理学療法学研究としてさらに発展させるため,健常者と高齢者との比較を行い転倒発生ならびに予防に関する知見を得たいと考える。