第49回日本理学療法学術大会

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身体運動学12

2014年5月31日(土) 13:00 〜 13:50 ポスター会場 (基礎)

座長:関公輔(公益財団法人いわてリハビリテーションセンター機能回復療法部理学療法科)

基礎 ポスター

[0942] 座圧中心位置の違いが体幹回旋運動時の肋骨傾斜角に及ぼす影響

根本伸洋, 小林弘幸, 石井清也, 小原もなみ (イムスグループ新葛飾病院)

キーワード:肋骨運動, 運動連鎖, 座圧中心

【はじめに,目的】
近年,胸郭を運動器として捉える視点が広がり,脊柱と肋骨の運動連鎖について記載している書籍も散見されている。その一方で,臨床では矢状面,前額面,水平面と3平面それぞれの運動で,座圧中心位置によって脊柱と肋骨の運動連鎖が変わる印象も受けており,検討していく必要性も感じている。しかし,肋骨運動は皮膚の上から捉える事が難しいため,三次元解析装置などを用いても,肋骨運動の解析には困難さが伴う。そこで今回は,体幹回旋運動時の肋骨傾斜角を傾斜計を用いて計測し,座圧中心位置の違いによる影響を検討する事を目的とした。
【方法】
対象者は,脊柱と胸郭に既往のない健常成人10名とし,平均年齢25.6歳±3.4,平均身長171.7cm±6.2,平均体重65.4kg±4.4であった。計測項目は,肋骨傾斜角として左右鎖骨中線上の第2肋間(以下,上位肋骨)と第7肋間(以下,下位肋骨)の計4か所で肋間と床面とのなす角度を計測し,胸骨傾斜角として胸骨切痕と剣状突起を結ぶ線が床面に対する垂直線となす角を計測した。計測の際は,計測毎に肋間の傾斜および胸骨切痕と剣状突起を触診にて確認した上でマーキングし,マーキング上に傾斜計(株式会社エビス製)を当てて測定した。なお,肋骨傾斜角は角度が大きい程前傾が強い事を意味し,胸骨傾斜角は右傾斜を+とした。測定肢位は,正中位,体幹右回旋位(20°),体幹左回旋位(20°)の3つのポジションとした。また,座圧中心位置の影響を検討する為に左右体幹回旋運動は,右座圧中心位,左座圧中心位の2条件下でそれぞれ実施した。なお,座圧中心位置を決定する為に,左右の臀部にはそれぞれ体重計敷き,右座圧中心位とは右臀部の荷重が2kg多い状態,左座圧中心位とは左臀部の荷重が2kg多い状態とした。計測は,同一検者がそれぞれ3回計測した平均値を採用し,肋骨傾斜角については左右差を算出した。肋骨傾斜角の左右差は,+の値が出た場合は右肋骨の前傾が強い事を意味し,-の値が出た場合は左肋骨の前傾が強い事を意味する。統計学的検討は,1)体幹右回旋-右座圧中心位,2)体幹右回旋-左座圧中心位,3)体幹左回旋-右座圧中心位,4)体幹左回旋-左座圧中心位の4つの条件における肋骨傾斜角および胸骨傾斜角の比較検討する事とし,反復測定の一要因分散分析にて有意差を検討後,有意差を認めた項目については,多重比較法としてTukey法を用いて検定をした。なお,全ての項目に対して有意水準は危険率5%で設定した。
【論理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に基づき対象者の保護には十分に配慮した。また,本研究の目的および内容を十分説明し,データは本研究以外の目的で使用しないことを説明し参加の同意を得られた上で,測定を実施した。
【結果】肋骨傾斜角については,上位肋骨および下位肋骨の両者で反復測定の一要因分散分析にて有意差(p<0.01)を認めた為,多重比較法としてTukey法を用いて検定をした。その結果,上位肋骨では1)と2),3)と4)に有意差(p<0.01)を認めた。また下位肋骨でも1)と2)で有意差(p<0.01)を認め,3)と4)についても有意差(p<0.05)を認めた。一方,胸骨傾斜角については,反復測定の一要因分散分析にて有意差を認めなかった為,多重比較の検定を行わなかった。
【考察】
今回の結果より,体幹回旋方向が同じでも座圧中心位置が変わる事で,肋骨の傾斜運動が変わる事が示唆された。例えば,体幹右回旋では,右座圧中心位の場合は右肋骨が後傾し左肋骨は前傾するが,左座圧中心位の場合は右肋骨が前傾し左肋骨が後傾する事になる。これらの現象は,前者は体幹質量中心を座圧側に移動させる為の脊柱と肋骨の運動連鎖であり,後者は体幹質量中心位置を座圧側に留める為の運動連鎖であると考えた。臨床においては,前者の運動連鎖と後者の運動連鎖を症例に合わせて使い分ける必要があると考えており,前足部または後足部に荷重制限を要する症例などでは,後者のような運動連鎖が重要になってくると思われる。
【理学療法学研究としての意義】
今回の結果より,体幹運動に伴う肋骨運動は座圧中心位置によって変わる事が示唆された。
運動連鎖は,身体運動を円滑に行う為に必要不可欠であり,質量の大きい体幹の運動連鎖は特に重要であると思われる。しかし,3次元解析装置では肋骨運動を捉える事は難しく,またCTやMRIでは荷重等の条件をつけての計測が難しい。そのため,本研究は荷重下での脊柱と肋骨の運動連鎖を解明していく一助となると考えた。