[0943] 歩隔が歩行中の体幹加速度のHarmonic ratioに与える影響
キーワード:加速度, 歩隔, Harmonic Ratio
【はじめに,目的】
3軸加速度計を用いた歩行評価は簡便であり,臨床応用性が高い評価であると思われる。体幹に装着した加速度計の加速度は身体質量中心の加速度に近似することが報告されており,その波形から歩行の時間距離因子を算出することができる。また,加速度波形を周波数解析して求められるHarmonic Ratio(以下HR)は加速度波形の対称性を表す指標とされ,値が高いほど安定した歩行であると考えられている。先行研究では健常者と比較し高齢者やパーキンソン病患者で歩行中のHRが低下することや,高齢者の転倒予測などに有用だという報告がされている。またLattらは健常者のHRは歩行速度,ケイデンス,歩幅に影響を受けることを報告しており,快適歩行の速度,ケイデンス,歩幅でHRは最も高くなる。しかし歩隔との関係は明らかになっておらず,歩行中の重心動揺に影響を与える歩隔の変化は,速度,歩幅,ケイデンスと同様にHRに影響を与えると考えられる。そこで,本研究の目的は健常者の歩隔の変化と3軸加速度計から得られたHRの関係を明らかにすることである。
【方法】
対象は健常成人とし,歩行に影響を与えるような神経疾患,整形疾患のあるものは除外した。被験者は動きやすい服装で裸足となり,第3腰椎部に3軸加速度計Pocket IMU2(ジースポート社製)をベルトで装着し歩行時の加速度をサンプリング周波数100Hzで計測した。歩行速度は光学式歩行分析装置OPTOGAIT(MICROGAIT社製)を10mの直線歩行路を挟むように設置し計測した。実験手順を次に述べる。歩行路を普段歩く速度で3回歩行し,その平均値を求めて快適歩行速度を決定した。次に5種類の歩隔条件(0,10,20,30,40cm)の歩行を,各条件とも3回歩行し加速度データを計測した。なお,歩隔条件の計測順は被験者ごと無作為化し,各歩隔条件下で歩行速度が快適歩行速度となるように練習を行った後,データを計測した。データ計測時,事前に求めた快適歩行速度の10%の範囲内に入らなかった時は再計測をした。歩隔は踵中心間の距離とし,歩行路にテープを貼り規定した。また,歩行時には正面に鏡を置き視線が下がらず,自然な歩行が出来るよう配慮した。データ解析は,前後方向の加速度波形から歩行周期を特定後,歩行時の加減速期を除くために歩行路中央付近の1歩行周期を対象とし,離散フーリエ変換により前後,側方,垂直方向のHRを算出した。HR,歩行速度は各条件下の3試行の平均値を代表値として採用した。統計はShapiro-Wilk検定で正規性を確認後,各歩隔条件のHR,歩行速度の比較に1元配置分散分析を実施した。事後検定としてTukey HSD検定をおこなった。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は本学倫理審査委員会の承認を得た。被験者には研究の目的及び測定内容を説明し参加の同意を得た。
【結果】
対象者は男性14名,年齢22.2±2.2歳,身長170.9±5.8cm,体重63.1±11.7kg,事前に計測した快適歩行速度は1.29±0.19m/sであった。前後方向のHRは歩隔条件間で有意差を認めなかった。側方方向のHRは0cmと30cm間で有意に30cmが高い結果となった(p<0.05)。垂直方向のHRは歩隔条件間に有意差を認めなかった。また歩行速度は各歩隔条件間に有意差を認めなかった。
【考察】
歩隔条件の変化の影響は側方方向のHRのみに影響を与えており,前後と垂直方向のHRには影響を与えなかった。Lattらは歩行速度,歩幅,ケイデンスの変化がHRに影響を与えると報告しているが,前後と垂直方向のHRと側方方向のHRは異なった結果を示している。前後と垂直方向のHRは快適歩行条件で高くなるという明確な傾向を示しているが,側方方向のHRは条件の変化の影響が不明瞭である。我々の結果も,前後と垂直方向のHRと側方方向のHRは異なった結果を示した。このことから,歩行の安定性の指標として使えるHRは側方方向より前後と垂直方向のHRと考えられるが,歩隔と歩行速度,歩幅,ケイデンスの相互の関係をさらに明らかにする必要があると思われる。
【理学療法学研究としての意義】
加速度計から求めたHRに与える影響を明らかにすることは,今後の理学療法の簡便な歩行評価の確立の一助になると考えられる。
3軸加速度計を用いた歩行評価は簡便であり,臨床応用性が高い評価であると思われる。体幹に装着した加速度計の加速度は身体質量中心の加速度に近似することが報告されており,その波形から歩行の時間距離因子を算出することができる。また,加速度波形を周波数解析して求められるHarmonic Ratio(以下HR)は加速度波形の対称性を表す指標とされ,値が高いほど安定した歩行であると考えられている。先行研究では健常者と比較し高齢者やパーキンソン病患者で歩行中のHRが低下することや,高齢者の転倒予測などに有用だという報告がされている。またLattらは健常者のHRは歩行速度,ケイデンス,歩幅に影響を受けることを報告しており,快適歩行の速度,ケイデンス,歩幅でHRは最も高くなる。しかし歩隔との関係は明らかになっておらず,歩行中の重心動揺に影響を与える歩隔の変化は,速度,歩幅,ケイデンスと同様にHRに影響を与えると考えられる。そこで,本研究の目的は健常者の歩隔の変化と3軸加速度計から得られたHRの関係を明らかにすることである。
【方法】
対象は健常成人とし,歩行に影響を与えるような神経疾患,整形疾患のあるものは除外した。被験者は動きやすい服装で裸足となり,第3腰椎部に3軸加速度計Pocket IMU2(ジースポート社製)をベルトで装着し歩行時の加速度をサンプリング周波数100Hzで計測した。歩行速度は光学式歩行分析装置OPTOGAIT(MICROGAIT社製)を10mの直線歩行路を挟むように設置し計測した。実験手順を次に述べる。歩行路を普段歩く速度で3回歩行し,その平均値を求めて快適歩行速度を決定した。次に5種類の歩隔条件(0,10,20,30,40cm)の歩行を,各条件とも3回歩行し加速度データを計測した。なお,歩隔条件の計測順は被験者ごと無作為化し,各歩隔条件下で歩行速度が快適歩行速度となるように練習を行った後,データを計測した。データ計測時,事前に求めた快適歩行速度の10%の範囲内に入らなかった時は再計測をした。歩隔は踵中心間の距離とし,歩行路にテープを貼り規定した。また,歩行時には正面に鏡を置き視線が下がらず,自然な歩行が出来るよう配慮した。データ解析は,前後方向の加速度波形から歩行周期を特定後,歩行時の加減速期を除くために歩行路中央付近の1歩行周期を対象とし,離散フーリエ変換により前後,側方,垂直方向のHRを算出した。HR,歩行速度は各条件下の3試行の平均値を代表値として採用した。統計はShapiro-Wilk検定で正規性を確認後,各歩隔条件のHR,歩行速度の比較に1元配置分散分析を実施した。事後検定としてTukey HSD検定をおこなった。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は本学倫理審査委員会の承認を得た。被験者には研究の目的及び測定内容を説明し参加の同意を得た。
【結果】
対象者は男性14名,年齢22.2±2.2歳,身長170.9±5.8cm,体重63.1±11.7kg,事前に計測した快適歩行速度は1.29±0.19m/sであった。前後方向のHRは歩隔条件間で有意差を認めなかった。側方方向のHRは0cmと30cm間で有意に30cmが高い結果となった(p<0.05)。垂直方向のHRは歩隔条件間に有意差を認めなかった。また歩行速度は各歩隔条件間に有意差を認めなかった。
【考察】
歩隔条件の変化の影響は側方方向のHRのみに影響を与えており,前後と垂直方向のHRには影響を与えなかった。Lattらは歩行速度,歩幅,ケイデンスの変化がHRに影響を与えると報告しているが,前後と垂直方向のHRと側方方向のHRは異なった結果を示している。前後と垂直方向のHRは快適歩行条件で高くなるという明確な傾向を示しているが,側方方向のHRは条件の変化の影響が不明瞭である。我々の結果も,前後と垂直方向のHRと側方方向のHRは異なった結果を示した。このことから,歩行の安定性の指標として使えるHRは側方方向より前後と垂直方向のHRと考えられるが,歩隔と歩行速度,歩幅,ケイデンスの相互の関係をさらに明らかにする必要があると思われる。
【理学療法学研究としての意義】
加速度計から求めたHRに与える影響を明らかにすることは,今後の理学療法の簡便な歩行評価の確立の一助になると考えられる。