[0949] ラットACL損傷モデル急性期における核因子kB(NF-kB)の動態
Keywords:膝前十字靱帯, NF-kB, 靱帯再生
【はじめに,目的】膝前十字靭帯(以下,ACL)は,これまで再生能力が乏しいとされてきた。しかし,我々は先行研究において関節包外関節制動によりACLが再生することを報告した。核因子kB(以下,NF-kB)は転写因子の1種であり,免疫系や細胞の生体防御機構など様々な生体反応に関与する。ACL再生を促進する潜在的なターゲットである可能性も示唆され,近年注目を集め始めている。しかし,実際にACL再生におけるNF-kBの動態については明らかにされていない。本研究では,ラットACL損傷モデル急性期におけるNF-kBの動態をTNF-αと比較して明らかにすることを目的とした。
【方法】Wistar系雄性ラット23匹(16週齢,制動群13匹,cut群5匹,sham群5匹)を対象とした。制動群13匹は,術後1日群4匹,3日群4匹,7日群5匹とした。Cut群/sham群の各5匹は全て術後7日群とした。ラットの右後肢を対象とし,制動群は外科的にACLを完全に切断後,脛骨に骨孔を作成し,脛骨の前方引き出しを制動した。Cut群は外科的にACLを完全に切断後,徒手的に脛骨の前方引き出しを行い,断裂の確認を行った。Sham群は,ACLは切断せず脛骨への骨孔の作成や,関節包の切開を行った。各実験期間終了後,ACLを採取し,採取したACLからtotal RNAの抽出を行った後,cDNAを合成した。合成したcDNAを鋳型とし,NF-kBとTNF-αのプライマーを使用し,real time PCR法にてmRNA発現量を解析した。発現量の解析には,ΔΔCt法を用いた。実験1として術後7日目のSham群・Cut群・制動群における発現量の比較を,実験2として制動群において術後1,3,7日目の発現量の経時的変化を比較した。統計手法は,一元/二元配置分散分析を用い,下位検定にはBonferroni法による多重比較を用いた。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本実験は,大学動物実験倫理審査委員会の承認を得て行った。
【結果】実験1:ΔΔCt法で算出したNF-kBおよびTNF-α mRNA発現量は,NF-kBのsham群の発現量を1とすると,cut群で0.69倍,制動群で0.98倍,TNF-αのsham群で0.12倍,cut群で0.09倍,制動群で0.11倍であった。各群/各プライマーの間に有意な差は認められなかったが,いずれの群においてもNF-kBに対してTNF-αはmRNA発現量が少ない傾向を示した。また,NF-kBのみに着目すると,sham群/制動群に対しcut群の発現量が少ない傾向を示した。実験2:ΔΔCt法で算出したNF-kB mRNA発現量は,術後1日群の発現量を1とすると,術後3日群で0.83倍,術後7日群で1.40倍で,術後7日群は術後3日群と比較して有意に発現量が増加した(p<0.05)。また,TNF-α mRNA発現量は,術後1日群の発現量を1とすると,術後3日群で0.73倍,術後7日群で0.15倍で,術後7日群は術後1日群及び術後3日群と比較して有意に減少した(p<0.01)。関節制動を行うことで,NF-kBは時間経過とともに有意に増加していくのに対し,TNF-αは有意に減少していた。
【考察】本研究では,実験1として術後7日目のsham群,cut群,制動群における各mRNA発現量を比較した。統計的に有意な差は認められなかったものの,NF-kBに対し,TNF-αの発現量は少なかった。TNF-αは,急性炎症反応時に作用する。そのため,術後7日時点では急性期を脱していた可能性があると考えられる。また,NF-kBについて,NF-kBのSham群/制動群に対し,cut群の発現量は少ない傾向が見られた。cut群はACLが徐々に退行していくことが知られている。そのため,cut群で最も発現量が低いということは,NF-kBはアポトーシスへ進行させる因子ではないと考えられる。実験2として,制動群において術後1,3,7日目での発現量の経時的変化を比較した。その結果,関節制動を行うことで,NF-kBは時間経過とともに有意に増加していくのに対し,TNF-αは有意に減少していく様子がみられた。TNF-αによるアポトーシス誘導はNF-kBの活性化により抑制されるとの報告もあり,今回の結果からNF-kBがTNF-αの働きを抑制し,アポトーシス抑制をしている,つまりNF-kBは間接的にACL再生に関与していると示唆された。今後は,ACL再生におけるNF-kBの動態をより明らかにするために,術後1,3日のsham群/cut群を作成し,急性期の群間変化をみること,直接ACLの再生に関与する,またACLの退行に関与するNF-kBの標的遺伝子を探し,各因子とNF-kBの関連を調べることが必要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】ラットACL損傷モデル急性期において,NF-kBはアポトーシス抑制をすることで間接的にACLの再生に関与していることが示唆された。今後NF-kBの標的遺伝子とともに経時的変化を比較・検討することにより,ACL再生メカニズムにおける急性期のNF-kBの関与及び関節制動を行うことによる運動療法の効果を明らかにできる可能性がある。
【方法】Wistar系雄性ラット23匹(16週齢,制動群13匹,cut群5匹,sham群5匹)を対象とした。制動群13匹は,術後1日群4匹,3日群4匹,7日群5匹とした。Cut群/sham群の各5匹は全て術後7日群とした。ラットの右後肢を対象とし,制動群は外科的にACLを完全に切断後,脛骨に骨孔を作成し,脛骨の前方引き出しを制動した。Cut群は外科的にACLを完全に切断後,徒手的に脛骨の前方引き出しを行い,断裂の確認を行った。Sham群は,ACLは切断せず脛骨への骨孔の作成や,関節包の切開を行った。各実験期間終了後,ACLを採取し,採取したACLからtotal RNAの抽出を行った後,cDNAを合成した。合成したcDNAを鋳型とし,NF-kBとTNF-αのプライマーを使用し,real time PCR法にてmRNA発現量を解析した。発現量の解析には,ΔΔCt法を用いた。実験1として術後7日目のSham群・Cut群・制動群における発現量の比較を,実験2として制動群において術後1,3,7日目の発現量の経時的変化を比較した。統計手法は,一元/二元配置分散分析を用い,下位検定にはBonferroni法による多重比較を用いた。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本実験は,大学動物実験倫理審査委員会の承認を得て行った。
【結果】実験1:ΔΔCt法で算出したNF-kBおよびTNF-α mRNA発現量は,NF-kBのsham群の発現量を1とすると,cut群で0.69倍,制動群で0.98倍,TNF-αのsham群で0.12倍,cut群で0.09倍,制動群で0.11倍であった。各群/各プライマーの間に有意な差は認められなかったが,いずれの群においてもNF-kBに対してTNF-αはmRNA発現量が少ない傾向を示した。また,NF-kBのみに着目すると,sham群/制動群に対しcut群の発現量が少ない傾向を示した。実験2:ΔΔCt法で算出したNF-kB mRNA発現量は,術後1日群の発現量を1とすると,術後3日群で0.83倍,術後7日群で1.40倍で,術後7日群は術後3日群と比較して有意に発現量が増加した(p<0.05)。また,TNF-α mRNA発現量は,術後1日群の発現量を1とすると,術後3日群で0.73倍,術後7日群で0.15倍で,術後7日群は術後1日群及び術後3日群と比較して有意に減少した(p<0.01)。関節制動を行うことで,NF-kBは時間経過とともに有意に増加していくのに対し,TNF-αは有意に減少していた。
【考察】本研究では,実験1として術後7日目のsham群,cut群,制動群における各mRNA発現量を比較した。統計的に有意な差は認められなかったものの,NF-kBに対し,TNF-αの発現量は少なかった。TNF-αは,急性炎症反応時に作用する。そのため,術後7日時点では急性期を脱していた可能性があると考えられる。また,NF-kBについて,NF-kBのSham群/制動群に対し,cut群の発現量は少ない傾向が見られた。cut群はACLが徐々に退行していくことが知られている。そのため,cut群で最も発現量が低いということは,NF-kBはアポトーシスへ進行させる因子ではないと考えられる。実験2として,制動群において術後1,3,7日目での発現量の経時的変化を比較した。その結果,関節制動を行うことで,NF-kBは時間経過とともに有意に増加していくのに対し,TNF-αは有意に減少していく様子がみられた。TNF-αによるアポトーシス誘導はNF-kBの活性化により抑制されるとの報告もあり,今回の結果からNF-kBがTNF-αの働きを抑制し,アポトーシス抑制をしている,つまりNF-kBは間接的にACL再生に関与していると示唆された。今後は,ACL再生におけるNF-kBの動態をより明らかにするために,術後1,3日のsham群/cut群を作成し,急性期の群間変化をみること,直接ACLの再生に関与する,またACLの退行に関与するNF-kBの標的遺伝子を探し,各因子とNF-kBの関連を調べることが必要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】ラットACL損傷モデル急性期において,NF-kBはアポトーシス抑制をすることで間接的にACLの再生に関与していることが示唆された。今後NF-kBの標的遺伝子とともに経時的変化を比較・検討することにより,ACL再生メカニズムにおける急性期のNF-kBの関与及び関節制動を行うことによる運動療法の効果を明らかにできる可能性がある。