[0961] 人工膝関節置換術患者の動作満足度の変化に関連する因子の検討
Keywords:人工膝関節全置換術, 患者満足度, VAS
【目的】当大学附属の4病院(以下,4病院)では2010年度から人工膝関節全置換術(以下,TKA)患者を対象にした評価表を運用し,経時的に評価を行っている。この評価表は,理学療法士が測定を行う身体機能評価表と,患者自己記入式の問診票から構成されている。我々は,問診票の中でVisual analogue scale(以下,VAS)を用いて,動作満足度について調査している。VASは他の評価尺度に比べ,高齢者でも理解しやすく,簡単に回答が得られ,経過を追って比較しやすいと考えられ,QOLの評価に用いられることも多い。そこで本研究では,TKA患者の動作満足度の変化は,どのような身体機能の変化に影響を受けるのか検討する。これにより,TKA患者の動作満足度を高めるために必要な因子を明らかにし,理学療法介入の一助とすることを目的とする。
【方法】2010年4月~2013年8月までに4病院にてTKAを施行し,術前・術後12週のどちらも評価が可能であった105名(男性26名,女性79名,平均年齢73.9±7.5歳)を対象とした。除外基準は,再置換患者,両側同時TKA患者,術前から術後12週の間に反対側のTKAを行った患者とした。患者の疾患の内訳は,変形性膝関節症95名,関節リウマチ6名,その他4名であった。方法は4病院で運用している評価表のデータを後方視的に調査した。調査項目は,1)膝屈曲ROM,2)膝伸展ROM,3)膝屈曲筋力,4)膝伸展筋力,5)5m歩行時間,6)Timed Up & Go Test(以下,TUG),7)Quick Squat(以下,QS),8)膝の疼痛,9)動作満足度の9項目とし,それぞれ術前と術後12週の間の変化量を求めた。ROMと筋力は術側を調査した。筋力測定はHand-Held Dynamomater(アニマ社製μ-TasF-01)を用い,端座位膝関節屈曲60°の姿勢で膝関節伸展と屈曲が計測できる専用の測定台を用い各々2回測定した。そのうちの最大値を採用し除体重値(kgf/kg)に換算した。TUG,QSはそれぞれ2回測定し平均値を求めた。QSは膝関節屈曲60°までのスクワットを10秒間可能な限り素早く行い,その回数を測定した。膝の疼痛と動作満足度はVASにて評価した。VASは100mmのスケールを用い,最も良い状態を0mm,最も悪い状態を100mmとした。統計学的検定には,1)~8)の調査項目と9)動作満足度との関連をPearsonの積率相関係数を用いて検討した。検定の統計学的有意水準は5%を採用した。
【倫理的配慮】本研究は本学倫理委員会の承認を得て,ヘルシンキ宣言に則り実施した。
【結果】各調査項目の変化量の平均は,1)膝屈曲ROM-4.5±17.8°,2)膝伸展ROM6.1±7.1°,3)膝屈曲筋力0.03±0.05kgf/kg,4)膝伸展筋力0.02±0.10kgf/kg,5)5m歩行時間-0.6±1.9秒,6)TUG-1.7±3.8秒,7)QS2.4±3.9回,8)膝の疼痛-33.5±28.9mm,9)動作満足度-23±26.5 mmであった。動作満足度と有意な相関が認められたのは膝屈曲ROM(r=-0.28),膝伸展筋力(r=-0.28),5m歩行時間(r=0.29),TUG(r=0.34),QS(r=-0.33),膝の疼痛(r=0.65)であった。膝伸展ROM,膝屈曲筋力においては有意な相関関係は認められなかった。
【考察】VASによる動作満足度の変化と膝の疼痛の変化に中等度の相関を認め,TKA後膝の疼痛が改善する程動作満足度が高くなる傾向が示された。除痛を一番の目的としてTKAを受ける患者が多いことから,術前にあった疼痛が術後に改善され動作を行えることが,患者の動作満足度を高めると考えられる。反対に,膝の疼痛の残存または増悪と共に,動作満足度が術前より術後に低下した患者がいることも明らかになった。一方,膝の疼痛以外にも,膝屈曲ROM,膝伸展筋力,5m歩行時間,TUG,QSにもそれぞれ弱い相関を認めており,検討した8項目のうち膝の疼痛も含め6項目に相関があることが示された。このことから,VASによる動作満足度の変化は,様々な機能や能力の変化と関連があり,それらの全体的な改善が動作満足度の向上につながることが考えられる。今後の課題としては,術後に膝の疼痛が残存または増悪している患者のその原因と対策を明確にすることが挙げられる。さらに,患者の主観的な動作満足度に影響する具体的な動作を検討することも課題である。TKA患者にとって,歩行や立ち座り,階段昇降等,どのような動作の変化が動作満足度に影響するのかを調査する必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】除痛目的でTKAを行った患者にとっては,痛みが無く動作を行えることが重要であり,我々理学療法士にとっての介入の目的と効果判定においても,膝の疼痛を考慮することの重要性が改めて確認された。また,膝の可動域と筋力の変化,歩行や複合動作能力の変化も動作満足度の変化と弱い相関を認め,全体的な身体機能の向上が,TKA患者が自身の動作に満足することに関連していることが考えられた。
【方法】2010年4月~2013年8月までに4病院にてTKAを施行し,術前・術後12週のどちらも評価が可能であった105名(男性26名,女性79名,平均年齢73.9±7.5歳)を対象とした。除外基準は,再置換患者,両側同時TKA患者,術前から術後12週の間に反対側のTKAを行った患者とした。患者の疾患の内訳は,変形性膝関節症95名,関節リウマチ6名,その他4名であった。方法は4病院で運用している評価表のデータを後方視的に調査した。調査項目は,1)膝屈曲ROM,2)膝伸展ROM,3)膝屈曲筋力,4)膝伸展筋力,5)5m歩行時間,6)Timed Up & Go Test(以下,TUG),7)Quick Squat(以下,QS),8)膝の疼痛,9)動作満足度の9項目とし,それぞれ術前と術後12週の間の変化量を求めた。ROMと筋力は術側を調査した。筋力測定はHand-Held Dynamomater(アニマ社製μ-TasF-01)を用い,端座位膝関節屈曲60°の姿勢で膝関節伸展と屈曲が計測できる専用の測定台を用い各々2回測定した。そのうちの最大値を採用し除体重値(kgf/kg)に換算した。TUG,QSはそれぞれ2回測定し平均値を求めた。QSは膝関節屈曲60°までのスクワットを10秒間可能な限り素早く行い,その回数を測定した。膝の疼痛と動作満足度はVASにて評価した。VASは100mmのスケールを用い,最も良い状態を0mm,最も悪い状態を100mmとした。統計学的検定には,1)~8)の調査項目と9)動作満足度との関連をPearsonの積率相関係数を用いて検討した。検定の統計学的有意水準は5%を採用した。
【倫理的配慮】本研究は本学倫理委員会の承認を得て,ヘルシンキ宣言に則り実施した。
【結果】各調査項目の変化量の平均は,1)膝屈曲ROM-4.5±17.8°,2)膝伸展ROM6.1±7.1°,3)膝屈曲筋力0.03±0.05kgf/kg,4)膝伸展筋力0.02±0.10kgf/kg,5)5m歩行時間-0.6±1.9秒,6)TUG-1.7±3.8秒,7)QS2.4±3.9回,8)膝の疼痛-33.5±28.9mm,9)動作満足度-23±26.5 mmであった。動作満足度と有意な相関が認められたのは膝屈曲ROM(r=-0.28),膝伸展筋力(r=-0.28),5m歩行時間(r=0.29),TUG(r=0.34),QS(r=-0.33),膝の疼痛(r=0.65)であった。膝伸展ROM,膝屈曲筋力においては有意な相関関係は認められなかった。
【考察】VASによる動作満足度の変化と膝の疼痛の変化に中等度の相関を認め,TKA後膝の疼痛が改善する程動作満足度が高くなる傾向が示された。除痛を一番の目的としてTKAを受ける患者が多いことから,術前にあった疼痛が術後に改善され動作を行えることが,患者の動作満足度を高めると考えられる。反対に,膝の疼痛の残存または増悪と共に,動作満足度が術前より術後に低下した患者がいることも明らかになった。一方,膝の疼痛以外にも,膝屈曲ROM,膝伸展筋力,5m歩行時間,TUG,QSにもそれぞれ弱い相関を認めており,検討した8項目のうち膝の疼痛も含め6項目に相関があることが示された。このことから,VASによる動作満足度の変化は,様々な機能や能力の変化と関連があり,それらの全体的な改善が動作満足度の向上につながることが考えられる。今後の課題としては,術後に膝の疼痛が残存または増悪している患者のその原因と対策を明確にすることが挙げられる。さらに,患者の主観的な動作満足度に影響する具体的な動作を検討することも課題である。TKA患者にとって,歩行や立ち座り,階段昇降等,どのような動作の変化が動作満足度に影響するのかを調査する必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】除痛目的でTKAを行った患者にとっては,痛みが無く動作を行えることが重要であり,我々理学療法士にとっての介入の目的と効果判定においても,膝の疼痛を考慮することの重要性が改めて確認された。また,膝の可動域と筋力の変化,歩行や複合動作能力の変化も動作満足度の変化と弱い相関を認め,全体的な身体機能の向上が,TKA患者が自身の動作に満足することに関連していることが考えられた。