[0964] 人工膝関節置換術後患者におけるスポーツ・レクリエーション参加の臨床基準:予備的調査
Keywords:人工膝関節置換術, スポーツ, 身体機能
【はじめに】
近年,人工膝関節置換術後にスポーツあるいはレクリエーション(スポーツ等)に参加する患者が増加している。The Knee Societyが開発した手術成績の新評価尺度においては,術後のスポーツ等への参加は,患者満足度を表す指標のひとつとなっている。アメリカ股関節学会や膝関節学会等は,術後のスポーツ等への参加において,“許可する”,“経験があれば許可する”,“コンセンサスなし”,“推奨しない”といった分類を行っている。現状では,医師および理学療法士等の医療者は,この分類にしたがって許可および指導していると思われるが,この分類は専門家による意見をまとめるにとどまっており,スポーツ等への参加に必要となる筋力,柔軟性,敏捷性,バランス能力などの身体機能については,十分な根拠が示されていない。一方で,先行研究において,“推奨しない”スポーツ等に参加している患者の存在が報告されている。十分な身体機能を満たしていない状態でのスポーツ等への参加は,人工関節の磨耗や折損,さらに再置換のリスクへとつながる可能性がある。そこで今回,人工膝関節置換術後患者において,安全に,快適にスポーツ等に参加するための臨床基準を作成することを目的として,身体機能および身体活動量とスポーツ等の自覚的達成度,痛みとの関連を調査した。
【方法】
対象は,当院において平成22年4月以降に初回人工膝関節置換手術を受けた者とした。取り込み基準は,変形性膝関節症または骨壊死の診断,片側または両側手術,術後2ヶ月以上経過した外来通院中の者,定期的にスポーツ等に参加している者とした。除外基準は,重篤な併存疾患(心疾患,神経疾患等)を有する者,膝関節以外に骨関節疾患の手術既往を有する者,認知障害を有する者とした。調査・測定項目は,1)患者属性(年齢,性別,フォローアップ期間,術式,術側),2)膝屈曲伸展可動域,3)等尺性膝伸展筋トルク(KET),4)Four Square Step test(FSST;十字に区切った4区分の移動に要する時間,Whiteney. 2007),5)Star-Excursion Balance test(SEBT;片脚立位での対側下肢の前方・側方・後側方への最大リーチ距離,Kinzey, 1998),6)40m最大歩行速度,7)30s-chair stand test(30秒間の椅子の立ち座りの回数),8)stair climb test(8段の昇降に要する時間)9)日本語版High-Activity Arthroplasty Score(JHAAS;人工関節術後の身体活動のアンケート票)。10)自覚的達成度・疼痛評価(定期的に行っているスポーツ等の達成度および実施中の疼痛を評価する11段階尺度)とした。統計解析は,スポーツ等の達成度および実施中の疼痛を従属変数として,各調査・測定項目,スポーツ等の強度を独立変数とした線型回帰分析を行った。
【説明と同意】
対象者には研究の主旨を説明し,書面にて同意を得た。なお,本研究は研究代表者が所属する法人の倫理委員会での承認を受けた。
【結果】
基準を満たした25名(男性3名,女性22名)が研究に参加した。患者属性は,平均年齢(標準偏差,範囲)71.2(7.9,50-85)歳,BMI 24.8(3.5,20.8-35.4)kg/m2,フォローアップ期間572(226,61-991)日,片側6名,両側19名,人工膝関節全置換術18名,単顆置換術7名であった。定期的に行っているスポーツ等は,低強度24名(ウォーキング,健康体操,立ち仕事),中強度3名(サイクリング,社交ダンス,卓球),高強度11名(ウェイトトレーニング,登山,テニス,スキー,大工)であった。達成度においては,フォローアップ期間,術側,膝屈曲可動域,FSST,SEBT後側方,JHAASが抽出された。実施中の痛みにおいては,BMI,膝伸展可動域,KETが抽出された。
【考察】
本研究の結果より,人工膝関節置換術後において,安全に,快適にスポーツ等に参加するためには,膝可動域,膝伸展筋力,敏捷性,片脚立位バランスを向上させる必要があり,また,一定の術後日数を経過する間,減量すること,日常生活での身体活動を高く維持しておくことが身体機能の観点では重要であると考えられる。しかしながら,今回の調査はサンプルサイズが小さかったことによる解析上の問題を含む可能性があるため,さらなる継続調査が必要であろう。
【理学療法学研究としての意義】
人工膝関節置換術後において,スポーツ等への参加を希望している患者に対して,安全に,快適に行うために必要な身体機能を把握することは,理学療法のゴール設定および患者への説明に有用である。
近年,人工膝関節置換術後にスポーツあるいはレクリエーション(スポーツ等)に参加する患者が増加している。The Knee Societyが開発した手術成績の新評価尺度においては,術後のスポーツ等への参加は,患者満足度を表す指標のひとつとなっている。アメリカ股関節学会や膝関節学会等は,術後のスポーツ等への参加において,“許可する”,“経験があれば許可する”,“コンセンサスなし”,“推奨しない”といった分類を行っている。現状では,医師および理学療法士等の医療者は,この分類にしたがって許可および指導していると思われるが,この分類は専門家による意見をまとめるにとどまっており,スポーツ等への参加に必要となる筋力,柔軟性,敏捷性,バランス能力などの身体機能については,十分な根拠が示されていない。一方で,先行研究において,“推奨しない”スポーツ等に参加している患者の存在が報告されている。十分な身体機能を満たしていない状態でのスポーツ等への参加は,人工関節の磨耗や折損,さらに再置換のリスクへとつながる可能性がある。そこで今回,人工膝関節置換術後患者において,安全に,快適にスポーツ等に参加するための臨床基準を作成することを目的として,身体機能および身体活動量とスポーツ等の自覚的達成度,痛みとの関連を調査した。
【方法】
対象は,当院において平成22年4月以降に初回人工膝関節置換手術を受けた者とした。取り込み基準は,変形性膝関節症または骨壊死の診断,片側または両側手術,術後2ヶ月以上経過した外来通院中の者,定期的にスポーツ等に参加している者とした。除外基準は,重篤な併存疾患(心疾患,神経疾患等)を有する者,膝関節以外に骨関節疾患の手術既往を有する者,認知障害を有する者とした。調査・測定項目は,1)患者属性(年齢,性別,フォローアップ期間,術式,術側),2)膝屈曲伸展可動域,3)等尺性膝伸展筋トルク(KET),4)Four Square Step test(FSST;十字に区切った4区分の移動に要する時間,Whiteney. 2007),5)Star-Excursion Balance test(SEBT;片脚立位での対側下肢の前方・側方・後側方への最大リーチ距離,Kinzey, 1998),6)40m最大歩行速度,7)30s-chair stand test(30秒間の椅子の立ち座りの回数),8)stair climb test(8段の昇降に要する時間)9)日本語版High-Activity Arthroplasty Score(JHAAS;人工関節術後の身体活動のアンケート票)。10)自覚的達成度・疼痛評価(定期的に行っているスポーツ等の達成度および実施中の疼痛を評価する11段階尺度)とした。統計解析は,スポーツ等の達成度および実施中の疼痛を従属変数として,各調査・測定項目,スポーツ等の強度を独立変数とした線型回帰分析を行った。
【説明と同意】
対象者には研究の主旨を説明し,書面にて同意を得た。なお,本研究は研究代表者が所属する法人の倫理委員会での承認を受けた。
【結果】
基準を満たした25名(男性3名,女性22名)が研究に参加した。患者属性は,平均年齢(標準偏差,範囲)71.2(7.9,50-85)歳,BMI 24.8(3.5,20.8-35.4)kg/m2,フォローアップ期間572(226,61-991)日,片側6名,両側19名,人工膝関節全置換術18名,単顆置換術7名であった。定期的に行っているスポーツ等は,低強度24名(ウォーキング,健康体操,立ち仕事),中強度3名(サイクリング,社交ダンス,卓球),高強度11名(ウェイトトレーニング,登山,テニス,スキー,大工)であった。達成度においては,フォローアップ期間,術側,膝屈曲可動域,FSST,SEBT後側方,JHAASが抽出された。実施中の痛みにおいては,BMI,膝伸展可動域,KETが抽出された。
【考察】
本研究の結果より,人工膝関節置換術後において,安全に,快適にスポーツ等に参加するためには,膝可動域,膝伸展筋力,敏捷性,片脚立位バランスを向上させる必要があり,また,一定の術後日数を経過する間,減量すること,日常生活での身体活動を高く維持しておくことが身体機能の観点では重要であると考えられる。しかしながら,今回の調査はサンプルサイズが小さかったことによる解析上の問題を含む可能性があるため,さらなる継続調査が必要であろう。
【理学療法学研究としての意義】
人工膝関節置換術後において,スポーツ等への参加を希望している患者に対して,安全に,快適に行うために必要な身体機能を把握することは,理学療法のゴール設定および患者への説明に有用である。