第49回日本理学療法学術大会

Presentation information

発表演題 ポスター » 神経理学療法 ポスター

脊髄損傷理学療法

Sat. May 31, 2014 1:00 PM - 1:50 PM ポスター会場 (神経)

座長:藤縄光留(神奈川リハビリテーション病院リハビリテーション局理学療法科)

神経 ポスター

[0970] 頸髄損傷者の運動機能およびADLの回復過程の予測

堤文生 (九州栄養福祉大学リハビリテーション学部)

Keywords:頸髄損傷, 重回帰分析, 予後予測

【目的】リハビリテーション医療の分野において,神経筋機能や日常生活活動(ADL)の回復を予測することの意義は重要である。平成24年5月,総合せき損センター内の『脊髄損傷データベース構築研究会』より,それまでに蓄積された脊髄損傷者のデータ解析依頼を受け,脊髄損傷者の回復予測モデルを作成することとなった。特に,頸髄損傷者の神経筋機能(ASIA)および脊髄障害者自立度評価法(SCIM)の早期からの回復過程を時系列分析にて回復予測曲線を求める。さらに,入院時~2週時の基本情報を説明変数とし,1ヶ月~1年時まで各時期におけるASIAとSCIMを目的変数とする重回帰分析より,回復モデルの予測を目的とする。
【方法】対象は,受傷から3日以内に入院し,6週間以上在院した157例の頸髄損傷者である。対象者の基本情報は,年齢,性別,OPLL有無,骨傷型,麻痺形態,ASIA不全型,治療方針,骨損傷部位,在院日数を入院時に評価する。さらに,AIS,MAS,深部感覚,SCIM,ASIA上肢,ASIA下肢については,入院時,72時間時,2週間時,1ヶ月時,6週間時,2ヶ月時,3ヶ月時,4ヵ月時,5ヵ月時,6ヶ月時,8ヶ月時,1年時,退院時にそれぞれ評価を行った。入院時から退院時までのASIAおよびSCIMの回復過程を時系列分析(対数曲線,べき乗曲線,修正指数曲線,ロジスティック曲線,ゴンペルツ曲線)にて回復予測曲線を算出し,急性期~回復期の時期判定に用いる。さらに,157例の入院時~2週時の基本情報およびAIS,MAS,深部感覚,ASIA,SCIMを説明変数とし,72時間時~1年時までのASIA上肢,ASIA下肢,ASIA合計,SCIMを目的変数とする重回帰分析を用い,入院時(11式)・72時間時(10式)・2週間時(9式)×4種類=120パターンの重回帰式を算出し,1年時までのASIAおよびSCIMの回復予測曲線を算出した。さらに,2592例のSCIMの小項目値とSCIM合計の関係より,退院時の各SCIM項目の到達レベルの予測図を作成する。解析は,入力から統計処理およびグラフ作成を全てBASIC言語にて自作した。
【説明と同意】理学療法学科倫理委員会にて,本研究の趣旨を説明し同意を求めた上で実施した。
【結果】157例のASIAの回復過程では,完全麻痺では20~30点付近で平衡状態に達している。不全麻痺では入院時早期から3ヶ月間は急激な回復を示しているが,3ヶ月以降の回復は少なく平衡状態に達する。SCIMの回復過程では,完全麻痺では緩徐ではあるが回復傾向を示し30~40点まで達している。不全麻痺では入院時から8ヶ月時の間は緩やかな回復を示している。8ヶ月以降の回復は少なく平衡状態に達している。入院時・72時間時・2週間時データを説明変数とし,ASIA合計を目的変数とする重回帰分析の寄与率は,入院時(R2=0.926~0.764)・72時間時(R2=0.962~0.817)・2週間時(R2=0.972~0.865)であり,2週間時データが最も信頼性の高い予測式となった。入院時ではなく2週間時データより,1ヶ月時~1年時までの回復予測をグラフ表示する。さらに,2592例のSCIMの小項目値とSCIM合計において,SCIM合計を説明変数(x)とし,SCIMの各小項目を目的変数(y)とする16パターンの回帰直線を算出した。入院時・退院時のSCIM合計値を代入すると,各SCIM小項目の入院時・退院時の到達レベルを予測する。
【考察】入院時から退院時までの回復折れ線に,時系列分析を用いて求めた回帰曲線の当てはまりは良好である。特に急性期の回復状況を曲線化することで,急性期・亜急性期の時期判断が可能となる。120パターンの重回帰分析結果では,SCIM・ASIA上肢・ASIA下肢・ASIA合計の各変数とも入院時・72時間時・2週間時の順で寄与率(R2)が高くなっている。超早期からの予後予測を行う場合,入院時や72時間時では臥床状態を強いられたり,受傷部位の回復が不十分なため信頼度が低くなったと推測される。ASIAやSCIMの予後予測では,骨損傷部の炎症が安定する2週間時のデータを用いることが重要と思われる。また,SCIM合計より各SCIM項目の到達度が求まることより,リハビリテーションの到達目標が明確化できる。
【理学療法研究としての意義】リハビリテーションの目標は,日常生活活動の自立にある。その到達レベルを早期に知り得るは,リハビリテーション治療方針の決定や在院期間の短縮および社会復帰・家庭復帰への方針決定に寄与し得るといえる。