[0972] 急性期不全頸髄損傷患者における転院の必要性の指標
Keywords:頸髄損傷, 不全麻痺, 歩行
【はじめに,目的】
近年,急性期病院では平均在院日数の短縮が強く求められており,早期に回復期病院などへの転院の必要性を判定することが重要となっている。不全頸髄損傷では下肢運動麻痺が回復期を経た後の移動能力や転帰に関連があることが報告されているが,急性期病院における転院の必要性を判定するための受傷後1ヶ月程度の歩行自立可否を明らかにした報告は少ない。本研究の目的は,理学療法開始時の下肢運動麻痺と受傷1ヵ月後の歩行との関係を調査することで,急性期病院における不全頸髄損傷患者の回復期病院への転院の必要性の指標を明らかにすることである。
【方法】
対象は,当院データベースより2009年10月から2013年4月までの頸髄損傷95名のうち,採択基準を満たした53名とした。採択基準は,受傷から7日以内に理学療法(PT)を開始し,PT開始時の改良フランケル分類がCおよびDの不全麻痺患者とした。除外基準は,歩行に影響する合併疾患を有する症例とした。対象の内訳では,年齢は60.9±16.3歳(mean±SD),受傷からPT開始までの日数は3.7±1.5日(mean±SD),性別は男性45名,女性8名であった。研究方法は,診療録内容の後方視的観察研究とした。対象はfunctional movement scale(FMS)を用い,4点(歩行補助具を使用せず50mの歩行が自立)の者を歩行自立群,0-3点の者を歩行非自立群とした。下肢運動麻痺は,American Spinal Injury Association機能障害評価の下肢運動スコア(下肢運動スコア)を用い,PT初回時に評価を行った。転帰は,自宅退院した者を退院,回復期病院へ転院した例を転院とした。統計学的解析は,歩行自立可否と転帰の検定にはカイ二乗検定,歩行自立群と非自立群の下肢運動スコアの差の検定にはt検定,歩行自立可否における下肢運動スコアのカットオフ値はROC曲線を用いて算出した。統計学的解析には,IBM SPSS Statistics Ver.22.0を使用し,有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は所属機関の倫理審査委員会の承認を得て実施した。
【結果】
受傷4週後では,歩行自立群は32名,歩行非自立群は21名であり,歩行獲得率は60.4%であった。歩行自立群で退院した者は26名(81.3%),転院した者は6名(18.8%)であった。歩行非自立群では全21名が転院しており,歩行自立群で有意に退院が多かった(p<0.05)。下肢運動スコア(mean±SD)は歩行自立群で47.0±3.5点,歩行非自立群で25.9±14.4点であり,両群に有意差を認めた(p<0.05)。歩行自立判定における下肢運動スコアのROC曲線は曲線下面積0.94と高い予測能を示した(p<0.05)。歩行自立を検出する下肢運動スコアのカットオフ値は41.5点であり,感度0.88,特異度0.91であった。
【考察】
鶴見らは回復期病院での調査で退院時移動能力や麻痺の程度が自宅外退院となる可能性が高いと報告しており,Crozierらは大腿四頭筋と6ヶ月後の歩行との関係を報告しているが,急性期の移動能力に関する具体的な指標は提示されていない。今回の結果では,下肢運動スコアのカットオフ値を41.5点とすることで,受傷4週後の歩行自立の可否を0.94という高い予測値で判定する指標を明らかにすることが出来た。この指標を用いる事で,急性期病院において早期に回復期病院への転院の必要な人を高確率に抽出することが期待できる。一方,歩行が自立しても転院を希望する人もおり,それらの要因の検討は今後の課題である。
【理学療法学研究としての意義】
急性期不全頸髄損傷例において,理学療法開始時の下肢運動スコアから得た指標を利用することで,早期に回復期病院への転院の必要な人を明らかにすることができると考える。
近年,急性期病院では平均在院日数の短縮が強く求められており,早期に回復期病院などへの転院の必要性を判定することが重要となっている。不全頸髄損傷では下肢運動麻痺が回復期を経た後の移動能力や転帰に関連があることが報告されているが,急性期病院における転院の必要性を判定するための受傷後1ヶ月程度の歩行自立可否を明らかにした報告は少ない。本研究の目的は,理学療法開始時の下肢運動麻痺と受傷1ヵ月後の歩行との関係を調査することで,急性期病院における不全頸髄損傷患者の回復期病院への転院の必要性の指標を明らかにすることである。
【方法】
対象は,当院データベースより2009年10月から2013年4月までの頸髄損傷95名のうち,採択基準を満たした53名とした。採択基準は,受傷から7日以内に理学療法(PT)を開始し,PT開始時の改良フランケル分類がCおよびDの不全麻痺患者とした。除外基準は,歩行に影響する合併疾患を有する症例とした。対象の内訳では,年齢は60.9±16.3歳(mean±SD),受傷からPT開始までの日数は3.7±1.5日(mean±SD),性別は男性45名,女性8名であった。研究方法は,診療録内容の後方視的観察研究とした。対象はfunctional movement scale(FMS)を用い,4点(歩行補助具を使用せず50mの歩行が自立)の者を歩行自立群,0-3点の者を歩行非自立群とした。下肢運動麻痺は,American Spinal Injury Association機能障害評価の下肢運動スコア(下肢運動スコア)を用い,PT初回時に評価を行った。転帰は,自宅退院した者を退院,回復期病院へ転院した例を転院とした。統計学的解析は,歩行自立可否と転帰の検定にはカイ二乗検定,歩行自立群と非自立群の下肢運動スコアの差の検定にはt検定,歩行自立可否における下肢運動スコアのカットオフ値はROC曲線を用いて算出した。統計学的解析には,IBM SPSS Statistics Ver.22.0を使用し,有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は所属機関の倫理審査委員会の承認を得て実施した。
【結果】
受傷4週後では,歩行自立群は32名,歩行非自立群は21名であり,歩行獲得率は60.4%であった。歩行自立群で退院した者は26名(81.3%),転院した者は6名(18.8%)であった。歩行非自立群では全21名が転院しており,歩行自立群で有意に退院が多かった(p<0.05)。下肢運動スコア(mean±SD)は歩行自立群で47.0±3.5点,歩行非自立群で25.9±14.4点であり,両群に有意差を認めた(p<0.05)。歩行自立判定における下肢運動スコアのROC曲線は曲線下面積0.94と高い予測能を示した(p<0.05)。歩行自立を検出する下肢運動スコアのカットオフ値は41.5点であり,感度0.88,特異度0.91であった。
【考察】
鶴見らは回復期病院での調査で退院時移動能力や麻痺の程度が自宅外退院となる可能性が高いと報告しており,Crozierらは大腿四頭筋と6ヶ月後の歩行との関係を報告しているが,急性期の移動能力に関する具体的な指標は提示されていない。今回の結果では,下肢運動スコアのカットオフ値を41.5点とすることで,受傷4週後の歩行自立の可否を0.94という高い予測値で判定する指標を明らかにすることが出来た。この指標を用いる事で,急性期病院において早期に回復期病院への転院の必要な人を高確率に抽出することが期待できる。一方,歩行が自立しても転院を希望する人もおり,それらの要因の検討は今後の課題である。
【理学療法学研究としての意義】
急性期不全頸髄損傷例において,理学療法開始時の下肢運動スコアから得た指標を利用することで,早期に回復期病院への転院の必要な人を明らかにすることができると考える。